おバカ貴族と航空船
2025/11/27 小修正
目覚めは唐突だった。
微かな頭痛と、手首を包む冷たい金属の感触。
カサルは腕に嵌められた奇妙な手錠に意識を向けた。
指先を動かし、僅かな魔力を練り上げる。
(……ダメか。こいつはミスリル錠……どういうことだ?)
彼の眉間に深い皺が刻まれる。
ミスリル錠は国家反逆レベルの重罪人、あるいは強力な魔導師を拘束するための拘束具だ。
記憶を辿ると、前触れもなく襲いかかってきたマリエの顔が、朦朧とした意識の中で鮮明に浮かび上がった。彼女がこの手錠をつけたのは疑いようもないことだろう。
(なぜ一介の空賊ごときがこんなものを所有している? )
廊下は常に微振動し、壁の隙間からは蒸気機関の駆動音が不規則に響く。
カサルは壁伝いに進み、やがて曇った丸窓を見つけた。
「外が見えるか」
爪先立ちして覗き込んだ先には、無限に広がる雲海。
地上が見えないほどの高空にいるという事実を、彼の冷静な脳が瞬時に割り出す。目を凝らし、雲の切れ間から覗く大地を見つけた瞬間、カサルの表情は微かに歪んだ。
「ここは航空船の中……何処かに運ばれているのか?」
眼下に広がる自領の邸は遥か彼方、豆粒ほどの大きさになっていた。
ここは航空船。それも尋常な高度ではない。
彼は揺れる船内で僅かな気圧の変化を肌で感じ取り、外景と記憶にある地図を重ね合わせる。
母屋の敷地面積から割り出した相対的なサイズ。そこから弾き出された高度は、およそ三千メートル。
カサルは丸窓から離れ、冷や汗と共に壁にもたれかかった。
(しかもこの内装……軍用艦か。手入れの無さを見るに、鹵獲されたとみるべきだろうな)
壁の清掃具合や、手入れの不届きを見るに十分な手入れがされていないのが分かる。
規律を重んじる軍が清掃を怠るなど考えられなかった。
そう考えるとやはりこの船はマリエの所有する船だという予測が立つ。
どんな手口を使ったのかは知らないが、彼女にはそれなりの実力があることは確かなようだった。
カサルは脱出を考えたが、手錠のことを考えるとそう簡単に船から飛び降りることもできない。
(人質か……初めての経験だな)
カサルは自分の身分と肉体にいかほどの値段が掛けられるのか、市場価値が気になった。
(幾らになるかな……とりあえず交渉に行くか)
初めての交渉に緊張感を持ちながら、カサルは揺れる廊下を壁伝いに歩いていくと、やがて話し声が聞こえる賑やかな扉の前についた。
警戒するようにドアノブに手をかけ、操舵室の様子を窺うと、中にいたマリエ──そして見知らぬ二人の少女と、バチリと目が合う。
「あ、起きたんだね」
そういうマリエの顔は穏やかで、つい先ほど貴族を攫った人間とは思えないほど心穏やかな様子だ。
マリエは席から立ち上がると、扉の前で警戒する彼に近づく。カサルは威嚇するように彼女を睨みつけた。
「近寄るな、マリエ。……貴様、軍の船を盗んでまで、なぜ我を攫った?」
単なる道楽や身代金目的ならば、交渉で解決するか、あるいは隙を見てこの船ごと掌握する用意があった。
だが、彼女はカサルが予想だにしなかった言葉を口にする。
「寂しそうだったから」
「……は?」
マリエは、カサルに触れない距離で立ち止まると、その怜悧な光を宿した瞳で、彼の心の最奥を見透かすかのように微笑んだ。
「私もそうだったから、分かっちゃうんだよね。そういう人。カサルちゃん、表の顔では巧く溶け込んでたみたいだけどさ?」
彼女は口角を僅かに吊り上げ、彼の”間合い”に、鋭利な言葉の刃を突き立てた。
「裏のカサルちゃんはひとりぼっちだったじゃない? 誰にも理解されない地下世界で、ずっと一人でい
たんでしょ? だからね、私が迎えに来たの」
「……お前はつい最近まで我のことを知らなかっただろう。そんなお前が我の何を知っていると?」
彼の完璧に整えられた顔に、一瞬、見る者が凍りつくような亀裂が走った。
それは、出来立てのカサブタを無遠慮な指が剥ぎ取るような、焼けるような痛み。
他者に看破された孤独という、最も触れられたくない核心を突かれた屈辱が、彼の矜持を深く抉っていた。詰まるところ図星だったのだ。
「出会った時間は関係ないよ。過去と未来、そんなものより今が一番大切。あなたと今という時間を共有できる今が、私にとっては一番大切なの。わかってくれる?」
「理解に苦しむ。盗みを働いて一時の快楽に身を委ねるなど。わかるワケがない」
「ヘヘッ……まあまあ、もっとお話すればきっと分かるよ」
マリエはそう言うと、相好を崩して彼に仲間を紹介した。
後半の文章悩み過ぎて、頭がおかしくなるかと。
それで結局一番無難な感じに落ち着くまでがテンプレ。
ではまた(^_^)ノシ




