↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第一章:黄金郷編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/86

おバカ貴族と秘密の工場

十八歳の誕生日から二週間。


 カサルは再び、マリエと出会った街――領内最大の商業都市ペントの地を踏んでいた。

 ペントは今、狂騒の只中にあった。


 街の至る所で黒煙を上げる蒸気機関。石炭の煤(すす)に汚れながらも、人々は「魔導革命の幕開けだ」と沸き立っている。


 工場化の波は生糸の生産速度を劇的に跳ね上げ、人々はかつてない物質的な豊かさを手にしつつあった。


 そんな熱気に満ちた大通りを歩けば、カサルは瞬く間に領民たちに囲まれる。

 相手は豪商から路地裏の浮浪児、出稼ぎ労働者から果ては街に潜む盗賊まで。邸を頻繁に抜け出す「おめでたい若旦那」の顔を知らない者はいなかった。


「踊り子は何処だー! 踊り子のメイクを教えてくれー!」


 適当なことを言って歩くカサルに、街の人々は呆れたような、しかし親愛の情がこもった笑みを向ける。知的能力は欠損しているように見せ、可愛らしく、かつ領主の長子として愛想を振りまくことも忘れない。


 この「愛すべきうつけ」を演じ続けることは、カサルにとって呼吸をするよりも容易な、そして完璧な擬態だった。


「くるしゅうない、くるしゅうない。まぁ、我(オレ)の美しさに見惚れるのはそれくらいにしておけ」


 黒いレースの裾を翻し、尊大な態度で手を振りながら街を練り歩く。その瞳は道化を演じつつも、食糧難の兆候がないか、不穏な動きがないかを冷徹に観察していた。


 やがて、人の気配が途絶えた古い路地裏へと滑り込む。


「……ふぅー」


 凝った顔を揉みながら、カサルの足は迷わず一軒のうらぶれたバーの裏口へと向かった。


 陽光の届かぬ薄暗いバックヤード。カサルはそこで手際よく、武装としてのドレスを脱ぎ捨てた。慣れた手つきで作業着に着替え、油で汚れたワークキャップを目深(まぶか)に被る。


 泥と油にまみれたその姿は、例え実の親とすれ違っても「カサル・ヴェズィラーザム」とは認識できない完璧な変装だった。彼は一人の「無名の少年技師」として、自身の深淵へと潜っていく。


(よし……いこうか)


 商業区の端に位置する、巨大な廃倉庫。

 地上からは何の変哲もない廃墟にしか見えないが、こここそがカサルの真の王座。邸のトロッコと直結した、地下秘密工場だ。


「……追跡者、なし」


 周囲のノイズを確認し終えると、倉庫の中央に立った。

 革のブーツの踵(かかと)で、特定のシーケンスを床に刻む。

 複雑なリズムによる振動を検知し、偽装されていた油圧シリンダーが音もなく駆動した。床の一部が仕掛け扉となって開き、深淵へと誘う階段が姿を現す。


 階段を下りるにつれ、地上の煤臭さは消え、代わりに澄んだ空気と微かなオゾンの香りが鼻腔を突いた。


 地下水道の一角を独力で拡張・改装した巨大な空間。

 そこは異界の工房であった。整然と並ぶ機械群が、低い唸りを上げながら規則的な駆動音を奏でている。


 動力は魔導燃料(エーテル)と電気。

 その源は、地下深くで魔法的な風圧を受け続け、二十四時間絶えず回転する巨大な風力タービン――カサルが生み出した半永久機関だった。


 地上の世界がようやく蒸気機関から魔導機関へと移行し始めた時代。その数十年先を行く、食糧生産の半自動化システムがここには完成していた。


 カサルは自動旋盤の挙動をチェックし、満足げに頷く。

 この場所だけは、世界の不協和音から隔離されている。

 愛する機能美だけが許された「不労の聖域」。彼が唯一、安息を許された場所だ。


「あとは地上の農地から種子を転送するパイプラインさえ接続すれば、暫くは安泰だな……」


 独りごちた、その時だった。


「わ~、すっごいなぁー」


 背後から響いた、場違いなほど間延びした声。

 カサルの思考が瞬間的に凍結した。

 即座に距離を取り、作業着のポケットに隠した工具に手をかけながら振り返る。

 そこにいたのは、あってはならない「不純物」だった。


「マリエ・リーベ……なぜ、ここにいる」


 銀髪を揺らして立っていたのは、あの監禁されていた病室から消えた空賊の少女だった。


「えっへへ。コレ見てよ」


 マリエは無邪気な笑顔で、今日発行されたばかりの新聞を差し出した。

 一面には『空賊リーベ、脱獄。行方不明』の見出し。白黒写真の中の彼女は、追跡者を嘲笑うように投げキッスを飛ばしている。


 だが、カサルはそんな「俗世のニュース」に興味はない。最も合理的な疑問を突きつける。


「どうやってこの場所に入った。入り口のセキュリティに不備はなかったはずだ」


「んー? なんか風が入ってくる穴があったから、そこからひょいって」


 マリエが指差したのは、天井付近にある直径十センチにも満たない排気ダクトだった。


「物理的に不可能だ。そんな隙間、人間が通れるわけがないだろう。……ファンも高速回転しているし、防護網も張ってある」


「じゃあ私は幽霊なのかな?」


「……まぁ、現状の推論としては、それが一番合理的かもな」


 カサルが呆れ顔を見せた瞬間、マリエが距離を詰めた。

 彼女の指先が、カサルの頬に触れる。化粧を落とした、少年の素顔を慈しむように。


「こっちの顔も可愛いね」


「……馴れ馴れしく触るな。どうやって侵入したかを言うつもりはないんだな?」


「元気だったぁー?」


「無視か」


(……軟体術か、あるいは別の入り口から侵入したか。どちらにせよ、コイツは危険だ)


 カサルは警戒レベルを最高位まで引き上げ、彼女を鋭く射抜く。


「……我(オレ)を尾けてきたのか?」


「うん。どうしてもお話したいなぁって思って」


 身体をくねらせながら、頬を染めるマリエ。

 この警戒心の欠如が「演技」なのか「天然」なのか判別できない以上、不用意な接触は死に直結する。


「───で? ストーカーが我(オレ)に何の用だ。目的を言え」


 いつもの道化の仮面は脱ぎ捨てた。冷徹な発明家としての声。

 だがマリエは動じず、逆にまっすぐ、カサルの目を覗き込んだ。


「異端核を返して」


「あぁ、アレか。……残念だったな。あれならもう、バラバラに解体してしまったよ」

マリエキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!



ではまた(^_^)ノシ


※面白かったら、★を5つポチっとお願いします。

面白くなかったら★を1つポチっとお願いします。

xもやっています。フォローをしたら最速でバカサルの情報を入手できます!

ハッシュタグは#バカサル


2026/1/7 修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。