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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第6章 彼と彼女が「向き合う」時
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その20 聞こえないはずの「声」

 

「い、イヤァアアァアアァアアッ!!」


 そんな自分の悲鳴で目が覚めた。

 とても怖い夢を見た時、悲鳴を上げたいけどどうしても声が出なくて、必死で声を振り絞ったらその絶叫で目が覚めることがあるけど、それと同じ。


 汗びっしょりで頭を回してみると、そこはまだ三枝先生の診察室だった。

 黒猫のぬいぐるみが、枕元でにこやかに笑っている。


「葉子!

 ねぇ、葉子、大丈夫!?」


 紅に染まった長い髪が見える。沙織さんだ。

 彼女に背中を支えられ、私は大きく息を吐きながら、何とか上半身を起こした。うぅ、まだくらくらする……


「あれ……?

 沙織さん、終わったんですか? サイコダイブ……」

「あたしはもう、とっくに終わったって。

 さっき葉子たちも終わったって聞いたけど、なかなかあんたが出てこないからちょっと心配になってさ。許可とって入れてもらったの。

 そしたらあんた、寝ながら大絶叫してるんだもの……びっくりした」


 それでも沙織さんはちょっと苦笑しつつ、私の横に腰を下ろす。

 すると彼女は、よく冷えた缶コーヒーを私に手渡してくれた。


「はい、これ。

 対象者は寝てるだけとはいうけど、あたしも何だかんだで結構疲れちゃったからね~

 コーヒーだけでも生き返るよ」


 言われてみると、猛烈に喉が渇いてきた気がする。お腹も減ってきた。


「あ、ありがとう。いただきます!」


 そうお礼を言った時には、私は耐えられずにもう缶を開けていた。

 心地よい音と共にコーヒーの良い香りが漂い、思わずぐいっと飲み干す。冷たくほろ苦いコーヒーの心地よさが、一気に身体を満たしていく。

 沙織さんの言う通り、本当に生き返った気分だ。頬に血色が戻っていくような感じが、自分でも分かる。

 沙織さんは笑いながら言ってくれた。


「先生も言ってた。嫌な夢を見て起きると、全然疲れが取れないどころか逆に疲れが倍増した感あるじゃない?

 だから対象者だって、探索者と同じくらい、いやそれ以上に疲れるんだって。

 そりゃそうよね。全身麻酔の手術した時って、医者は当然疲れるけど、目覚めた後の患者の体力の減り方は尋常じゃないし」


 確かにそれはそうだ。

 だとしたら――

 さっきのあの悪夢も、自分の疲れが見せていた幻……なんだろうか?

 あのイーグルの過去も、全部、ただの幻?


 ……いや。

 到底、そうは思えない。

 あの炎の熱さ。血の臭い。真っ赤に染められた少女。

 何より、幼いイーグルの――ギラギラと憎悪に満ちたアメジストの瞳。その瞳孔の周囲に広がる、術力の光輪。

 それに、あの声――


 考えにふけってしまった私の顔を、沙織さんが心配そうにのぞき込んでくる。


「葉子。あまり深く考え込まなくていいって、先生も言ってたよ。

 あたしも変な夢、いっぱい見たような気がするけど――

 それでも、試してみて良かったなって思うもの。サイコダイブ」

「そうなんですか?」

「うん。

 勿論、あたし自身はあたしの中で何が起こっていたのか、ほぼ分からないんだけどさ。

 それでも、分かるの。みなとが滅茶苦茶頑張ってくれたって。

 みなとがあたしの中を見て、一生懸命受け止めようとしてくれたって。

 あたしだってさっき、夢で見たもの。何がなんだかわけのわからない、とにかく強い敵がいたんだけど。

 あいつ、ギャーギャー泣きわめいて文句たらたらで逃げまくりながらさ……

 何だかんだであたしを庇ってくれた」


 どこかスッキリしたように、天井を見上げて話す沙織さん。

 そうか。悠季が私を受け止めようとしてくれたように……

 みなと君も、沙織さんを受け入れようと必死だったんだ。


「勿論、あたしの問題がそれで完全に解決したわけじゃないと思う。

 よく分からないけど無茶苦茶強い敵の正体。それは多分、あたしの抱えた問題であり、あたしの過去に関わることでもある。

 あんなの、みなと一人じゃどうにもならなかったし、あたし自身にも多分どうしようもないことだけど」

「沙織さんの、過去?」


 私はまじまじと彼女を見つめてしまう。

 すると沙織さんはちょっと困ったように微笑んだ。


「そりゃあね、あるよ。未だにあんたにもみなとにも言えてないことぐらい、あたしにだって。

 でもさ……今までは絶対、誰にも言えなかったような過去でも。

 墓まで持っていくべきだって、今も考えているような過ちでも。

 多分全部、心の中だと、見えてしまうでしょ?

 それを、はっきりとではなくても、みなとは見たんだと思う」

「みなと君が……」

「多分その正体が何なのかまでは、さすがにみなとにも分からないとは思うけどさ。

 それでも――あたしは、何だかほっとした。

 どんな自分であっても、過去に誰をどう思っていたとしても、昔ナニをやらかしていたとしても。

 今の自分をちゃんと見てくれて、必死で動こうとしてくれる奴がいるって分かったから」


 そうか。

 結構長いこと『エンパイア・ストーリーズ』をやってた私は何となく分かる。みなと君――つまりハルマ君の度量が、見た目に反してかなり大きいことを。

 だからこそ悠季だって、何だかんだでみなと君と共に行動することも多いのだろう。ケイオスビーストの件で絶体絶命まで追い込まれた悠季を救ったのは、みなと君の機転だったし。


 でも――

 私は同じくらい悠季に心を見られたはずなのに、まだ、何も解決出来た気がしない。

 悠季はきっと私を受け入れてくれる。そう信じているけれど……



 じゃあ、私がついさっき見た、あの夢は何だろう?



「あの。沙織さん……

 サイコダイブ中や直後に、沙織さんは何か夢を見たような感覚、ありましたか?

 みなと君の夢を」

「え? うん、そりゃね。

 さっき言ったとおり、みなとは一生懸命走り回って敵と戦ってたな~

 何でか知らないけど、魔法少女的なカッコになってさ。

 さすがにヒラヒラのスカートとかじゃなかったけど、普段の姿から華麗に変身して、ゲーム中の旅商の衣装っぽくなってた。アレ、よく見たらなかなか可愛いよね♪」

「いや、あの、そうじゃなくて……

 みなと君の心の中とか、過去とか、そういうものは?」

「え?」


 沙織さんはぽかんと私を見つめる。

 でもすぐに唇を引きしめ、逆に私に尋ねてきた。


「葉子は見たの? 神城君の何かを」

「えっと……

 うまくは言えないけど、多分、見たと思います。

 見せられたというか」


 そして私は、かなりかいつまんでだけど、沙織さんに話した。ついさっき夢で見た、炎の光景を。

 すると、彼女の答えは。


「えぇ……?

 さすがにそこまでのものは、あたしは絶対に見てないなぁ」


 沙織さんはうーんと伸びをしながら、首をひねる。


「みなとの想いは確かに感じられたけど、あいつの過去とかに関するものは……

 少なくともそれとはっきり分かるものは、何も見てない。

 それに、誰だか分からない声が聞こえたってのもおかしくない?

 葉子の心の中なら、そこで聞こえる声は葉子の記憶にあるはずでしょう?」



 そう。それが、あの夢で最も不気味な部分。

 正確に言うと、全く聞き覚えがないわけではない。でも、あの声を聞いたのはつい最近だ。

 私が悠季と喧嘩して、思わず会社を飛び出した――あの時に聞こえた声。

 その正体は勿論、未だに分からない。

 一体、あの声は――?



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