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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第5章 こんなの「ハーレム」なんて言わない
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その11 人の想いを投げ捨ててはいけない

 

 どちらからとも言わず、いつの間にか公園に入っていく悠季と岩尾君。


『お、ブランコあるじゃねーか!

 オレ、ガキの頃から好きなんだよなー、こういうの!』

『へぇ。異世界にもブランコ、あるんですか?』

『そりゃ、似たようなもんなら向こうの世界にもあるぜ。

 やっぱ、こういう遊具はどこの世界も人類共通ってこった』


 ひょいとブランコに飛び乗り、座板に立ったまま思いきり大きく漕ぎ出す悠季。

 あまり調子に乗るとパ〇ツ見えるよ……


 一方で岩尾君は隣のブランコに何となく腰かけながら、頼りなげにブランコを揺らすばかり。

 そんな彼に気づいたのか、悠季は大きく前後に揺れたまま声をかけた。


『なぁ。お前にはいねーのかよ』

『え?』

『そういう奴が、だよ』

『そういう奴、って……』

『男でも女でも、誰でもいいんだ。

 絶対に手離したくないって思うような奴が』


 揺れるブランコが軋む音が、空に響く。

 やがて聞こえてきたものは、岩尾君の呟き。

 ただしそれは、ともすれば風の音にかき消されてしまいそうな、弱々しい声だった。



『……ユウ、さん。

 僕にとっては……貴方が、その……』



 このような岩尾君の告白をスマホごしに聞いていて、私は思った――

 彼にとっては恐らく、魂をかけた一大告白なのだろう。

 でも、相手から見れば、あまりにも唐突で困ってしまう、小さな呟き。

 今まで何とも思っていなかった同僚や友人から突然こんな告白をされたら、確かにどうしていいか分からない。自分に他に好きな相手がいたら、なおさら。

 ついでに第三者から見れば、もごもごブツブツと、何を言っているのかすら分からない。



『画像を見た時から、思ってました。

 貴方は僕にとって……すごく、大事な、人です』



 多分河澄さんも、同じように岩尾君に想いを伝えたんじゃないだろうか。

 彼女にとっては、ずっと想い続けていた人への告白。一生の一大事。

 だけど岩尾君にとっては、唐突すぎて何がなんだか分からなかった。

 どう答えたらいいのか、彼が滅茶苦茶戸惑っているうちに、河澄さんもプレッシャーに耐えられずに逃げ出した――そんなところだろう。

 要するに河澄さんも岩尾君も、異性とのお付き合いに慣れていなかった。その不器用さが引き起こしてしまったすれ違いというところか。

 もっとも、不器用って点では私自身、全然人のこと言えないけど。



 こういう岩尾君の、小さいけれど魂のこもった告白。

 魂はこもっているけれど、何と答えていいか分からない告白。

 それに対して、悠季がどう対応するのか。固唾をのんで見守っていると――



『悪い。

 オレ、女しか好きになれねぇし。

 もう、心に決めた奴は、ちゃんといる』



 大きく揺れていたブランコを一旦止めながら、悠季ははっきりと言い放った。

 岩尾君の小さな呟きとは対照的に、はっきりと、一言一言、空に響くように。

 それは紛れもなく、悠季自身の言葉だった。『ユウ』ではなく。

 胸に再び、熱いものが押し寄せる。

 心に決めた奴――それって……?


 当たり前だけど、岩尾君はため息をつきながら、大きく両肩を落としていた。


『……です、よね……

 これだけ可愛い人じゃ、無理だろうなぁとは思っていたけど……

 男性は嫌いなんですか?』

『別に、男嫌いってわけじゃないけどさ。

 どうしても、そういう目じゃ見られないんだ。キスとか、それ以上のことになると、どうしてもな……

 ホントに、悪いけど』


 これも多分、悠季の偽らざる心。

 勿論単純に、同性に対してはそういう気持ちになれないのだろうけど――

 あの身体の古傷を考えれば、その言葉には何かしら含むところもあるのかも知れない。

 岩尾君もどこかほっとしたように、再びため息をついた。


『はぁ~~……残念だなぁ。

 だけどお相手が女性なら、何故か仕方ない気もします……

 無念ですけど、こればかりはどうしようもないですね。

 はっきり言っていただいて、ありがとうございました。逆にスッキリした感じです』


 ひどくがっかりしながらも、何とか顔を上げて笑顔を見せる岩尾君。

 彼のブランコに合わせるように小刻みに自分のブランコを揺らしながら、悠季はふと視線を落とした。


『マジでごめんな。

 お前の気持ち、逆撫でするようで悪いけどさ……

 オレだって、そういうのうまくいかないこと、ホント多かったんだぜ』

『え?

 ユウさんレベルに可愛いのに、ですか!?』

『というか、同性同士好き合えること自体が稀だ。

 うまくいかないことの方が殆どだったよ』

『……確かに、そうかもですね』


 少しずつ傾いていく太陽を何となく見上げながら、どことなく寂しげな悠季。

 その声が、公園に静かに流れた。



『オレも、好きになった奴からこっぴどくフラれたこと、あって。

 心をこめたつもりのプレゼント、陰で笑われてぐしゃぐしゃに踏み潰されて、ゴミ捨て場に放り投げられててさ。

 そいつは、全部分かってやってたんだ。オレの気持ちも、プレゼントにこめた心も、全部分かってて……

 その上で、オレを弄んだ』



 何故だろう。

 その言葉は、どこか真実味を帯びて聞こえた。

 口調自体は穏やかだったけど、底知れない怒りと憎悪すら感じる。

 勿論嘘も混じっているだろうけど、半分以上は真実かも知れない。そう思えるほどに。

 悠季には……そういう酷い経験まであるんだろうか。


『……そんな!

 そんな、酷いこと……!?』


 動揺する岩尾君。

 そんな彼に、悠季――「ユウちゃん」は、白い歯を見せて朗らかに笑った。

 声に潜むほの暗い感情を、巧みに隠して。



『オレを好きになってくれた奴には、そういうことしてほしくないし、そういう目にもあわせたくねぇんだ。

 だから、なんだよ。お前に会って、オレの気持ちをちゃんと伝えようと思ったの』



 そんな悠季の笑顔に、岩尾君は申し訳なさそうにうつむいた。

 それはそうだろう。河澄さんの心を分かっていながら踏みにじるような真似をしたのは、誰でもない自分なのだから。


 そして私には、ここにきて初めて、何となく悠季の目的が見えた。

『ユウ』に化けると知った時は、悠季は岩尾君をこっぴどく振って、河澄さんと同じ痛みを彼に味わわせるつもりなのかと思ったけど……違った。

 悠季は、岩尾君に教えたかったんだ。河澄さんに対して、本当はどういう態度を取れば良かったのかを。


『ユウさん……

 僕はもう、そういう酷いことを……してしまってるんです。

 そんなつもりはなかったのに……』


 消え入るような声で呟く岩尾君。

 ここですぐに反省出来る分、本来の彼はとても良い人なんだと分かる。

 多分、職場のあの毒気にあてられて、分かるものも分からなくなり、見えるものも見えなくなっていただけ。


 そんな岩尾君の前で、悠季はふわりとブランコから降り立った。


『じゃあ、その相手に謝ってみたらどうだ?

 今からでもさ』


 足を綺麗に揃えて着地しながら、悪戯っぽく公園の入り口を振り返る悠季。

 そこには――



「か……

 河澄、さん!?」



 私も沙織さんも、画面の中の岩尾君も、思わず声を上げてしまった。

 冷静だったのは、悠季とみなと君のみ。


 小さな石柱が立つ公園の入り口で、じっと二人を見つめていた人影。

 黒いひっつめの髪に、黒縁眼鏡。いつもは化粧っ気の殆どない白い顔だが、今はその頬と唇にほんのり紅がさしている――

 その女性は紛れもなく、ずっと岩尾君を追いかけていた河澄さんだった。


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