その7 彼が「彼」であることを
「神城君って……
本当に、男の子?」
一瞬、沙織さん以外の全員がその場で固まってしまう。
それでも彼女はじいっと悠季を凝視していた。本気で疑り深げに。
みなと君さえも、彼女のこの一言には面食らっている。
「さ、沙織さん? 突然何を?」
「この前、神城君の真の姿見ちゃった時から思ってたんだけどさ。
神城君って、男の子に化けた女の子なんじゃないの?
男だと思うのは、擬態術のせいでそう見えるだけで――」
その流れから当然、沙織さんは私を振り返る。
「葉子。あんたにはどう見えてるの?
神城君、ちゃんと男の子なの?」
「そ、そりゃあ、勿論……」
そう言いかけて、改めて私は悠季の姿を上から下まで、まじまじと見つめてしまっていた。
いや、違う。絶対違う。
悠季はちゃんと男のはずだ。何度か抱きついたことはあるけど、あの固い筋肉の感触は絶対に女性のそれでは……
しかしそこまで考えて、改めて悠季を見つめると。
なぁ、葉子。言えよ、言ってくれよ。俺は男だって。
悠季のアメジストの瞳が、必死で私にそう訴えているのが手に取るように分かる。
でも、そんな風に見つめられるたびに、逆に――
自分の中での確証が揺らいでくる。
……あまりに可愛すぎて。
よくよく考えてみたら、筋肉ムキムキの女性とかは似たような感触なのかも知れない。
そもそも私、そんな判別が容易にできるほど人と触れ合ったことないし。スキンシップ苦手だし。
悠季。もしかして貴方は、本当に……
い、いやいやいやいや。
駄目だ。他の誰が信じなくても、私だけは信じなきゃ。
「あの、沙織さん。
ゲームの設定でもありましたよね? イーグルはちゃんと男性のシーフだって……」
「設定自体がフェイクってこともあるでしょ?
だいたいあのゲーム、明らかに女性にしか見えない妖精や人魚だって、女性じゃなくて性別不明って定義されてたじゃない。色々アヤシイ」
「悠季には胸、ないですよ?
声もちゃんと男性だし」
「胸のない女性だっていっぱいいるでしょ?
それにあたしが聞く限り、神城君の声ってかなり高めだし。
ハスキーボイスな女性なら、こういう声もあるんじゃないかなって思うレベル」
必死で抗弁する私を、いとも簡単に論破していく沙織さん。
意地悪なのか本気なのか、全然分からない。
そして彼女は――とても意地悪く、微笑んだ。
悪魔じゃないかというレベルの凶悪な笑みを唇に浮かべて。
「というわけで、葉子。
あんた、確認しなさい」
「「へっ!!?」」
同時に叫んでしまう私と悠季。
え、確認って、わ、わ、私が、え?
「あ、あああああの沙織さん、確認って何を……」
「皆まで言わせないでよ。
当然、神城君が男の子だってことを、よ」
えっと、その、つまり……
私が、悠季の、その……?
頭が一瞬真っ白になり、顔が猛然と紅潮していくのが分かる。
「あ、えと、その、沙織さん。
私、悠季の上半身なら何度か見たことありますし、それじゃダメですか……?」
とはいえ、パーカーからちょっと覗く胸とか、お風呂上りにバスタオルをすっぽり被った姿とかばっかりで、そのまま素っ裸の上半身は記憶にない。
私が見た、最も露出度が高い悠季といえば――
この前のスレイヴ戦でのあの姿が限界だ。
それを見抜かれたか、沙織さんは呆れたように告げてきた。
「葉子、くどい。
胸の有無だけじゃ分からないって、さっき言ったでしょ?」
降ってわいた、このとんでもない状況に――
悠季も思わず、みなと君を睨む。
「おい……ハルマ」
そ、そうだ。
みなと君なら、きっと証明できるはず。だって同じ男子だし、向こうの世界ではきっと、同じお風呂に入ったことだって――
私も悠季と同じく、助けを求めるようにみなと君を見つめてしまったが。
そんな私たちの視線に気づいたか。
みなと君はわざとらしく腕組みして考え込むポーズをとったと思ったら、糸目をさらに細くしてにっこり微笑んだ。
「ま……私なら兄さんの『証』を立証してさしあげることも、出来なくはないっスが」
「だ、だったら!」
大嵐の中の一筋の光明とばかりに縋りつく私。
しかしみなと君は全く笑顔を崩さず、親指と人差し指で綺麗な丸を作ってみせる。勿論、悠季に。
「兄さん。
当然、頂くべきものは頂きますぜ♪」
「もういい! この妖怪金目小僧が!!」
うん、知ってた。
ついにブチキレたのか、耳の端まで真っ赤になった悠季が思わず自分のジーンズに手をかけている。
あ、駄目、悠季、それは。
「わーったよ!
お前らがそこまで言うなら、今すぐここで――」
しかしそんな悠季を、素早く沙織さんが制した。
「ちょっと、神城君。
あたしにまで見せるつもり?」
もしや沙織さんって――
人をからかう時だけ、とてつもなく冷静になるタイプか。
「こっちはそこまで求めてないし。
そもそもあたしに見せたところで、証明にならないでしょ。
だって、仮に貴方が女の子だとしても、擬態術で男に化けてたら、あたしには分からないじゃない」
そうか、なるほど。
擬態術がかかっている限り、悠季は沙織さんに自己の証明が出来ない。
みなと君に証言をお願いすると、手数料がかかる。
広瀬さんに聞いてみようかと、ちらっと考えたが――
あの、人を刺すような視線で滅茶苦茶冷ややかに『大変失礼ですが、こちらも忙しいので』とか答えられたら嫌すぎる。
つまり――
残されたのは、私しかいないってことだね。
うん……岩尾君の相談から、何でこんな話になったんだろう?




