決意
城戸教会を訪れたことで秋葉の魔導教会は全て捜索し終えたことになる。
となると僕たち野良の魔女は行動方針を変え、協議する必要がある。どこを探すかではなく……どうやって高石教会を攻め陥とすかだ。
愛梨彩がみんなをリビングへと招集する。僕にブルーム、桐生さん。そして遅れて緋色とフィーラが現れた。
遅れて入ってきた二人の異変に気付く。いつもと変わらない様子で談笑しながらリビングに入ってきたのだ。
——あれ……? 落ちこんでたんじゃなかったのか?
「こんなすぐに召集をかけて悪かったわね……って謝ろうと思ってたけど、その様子だともう大丈夫そうね」
緋色は朝飯の時間になっても降りてこなかったから、不貞腐れているのかと思っていた。けどフィーラが緋色を外へ連れ出したおかげか、まるでなにごともなかったかのように満面の笑みを浮かべていた。
緋色も落ちこんだりする普通の男子高校生な部分があるのかと思ったが……立ち直りは尋常じゃないくらい早かったのだろう。流石のタフさだと感心している自分がいた。
「当然!」
と緋色を真似るようにサムズアップをフィーラが見せる。緋色も同様に親指を立てていた。
「早速本題に入らせてもらうわ。城戸教会を調査したことで残る教会は高石教会だけになった。賢者の石があるのもおそらく高石教会。ここまではまあ、概ね予想通りね」
「高石教会は本拠地であるわけだし……当たり前といえば当たり前なのだわ」
「じゃあどうしてあいつらすぐ使わねーんだよ? ずっと手元にあったわけなんだろ?」
緋色の疑問は僕も気になっていた。彼らはどうして賢者の石を使わないのか。使わない……いや使えない理由でもあるのだろうか?
「邪魔者である私たちを完全に排して、安全を確保してから使おうとしていた……と私は考えていたわ。学園の霊脈を使って願いを叶えるにしても時間がかかるから。その間、彼らは無防備を晒すわけだし。けど違ったみたいね」
「違った?」
「教会の動き、どう考えても矛盾してるでしょ? 安全を確保したいなら私たちやアヤメを殺しにかかればいいのだわ。拠点を襲うなり、各個撃破するなりね。だけど、あいつらは私たちが存在することを容認している。まるで泳がせているみたいに」
僕の問いに答えたのは愛梨彩ではなくフィーラだった。
確かにずっと妙だと思っていた。アヤメが一般人を襲わなくなったことでアザレアは彼女を処理することをやめた。この前の戦闘だって桐生さんを奪いにきたというより戦闘をしにきたって感じだった。いや、まさか——
「あいつら……戦いを誘発させるのが目的なのか?」
「相変わらず妙なところで察しがいいわね、太刀川くん。私もその結論に至ったわ」
「私もそうなんじゃないかって思ってたのだわ。きっと、賢者の石は《《完成していない》》」
「フィーラの言う通りだろうね。この争奪戦は賢者の石に力を蓄え、完成させるために仕組まれたと考えられる。おそらく戦いで使った魔札の残滓……霧散した魔力を吸収させているのだろう。それを誘発させるために私たちを泳がせていたと考えれば辻褄が合う」
——賢者の石が完成していない。
僕たちはそれを完成させるために利用されてたって言うのか。
落ちこむよりもなぜか納得している自分がいた。エゴで集まった人間たちが自身のエゴを体現する装置を作る。野良も教会もその一部に過ぎないのかもしれない。
「やけに詳しいわね、ブルーム」
「まあ……私はもともと教会側の人間だったからね。内情を知って嫌気が差して離反したんだよ」突然の告白にその場が静まり返る。「おや……? みんなあまり驚きはしないんだね」
だが、一人として驚いた顔を見せているものはいなかった。僕もその告白がスッと腑に落ちていた一人だった。
「そんな大仰な仮面をしていればそうだろうって想定はつくのだわ」
「もとがどうであれ、今は野良なんだろ? 関係ねーよ、過去なんて。人間は変われるんだから。な?」
緋色の最後の問いはブルームに向けたものではなく、彼の相棒に向けて言ったものだった。「その通り!」と意気揚々にフィーラが答える。
「賢者の石の完成に利用されてたのは癪に障るけど……私たちも完成した賢者の石が欲しい以上、教会とは正面衝突するしかないわね」
「私は賢者の石にもう興味はないけど、やることは変わらないのだわ。教会もアヤメも……誇り高き魔女として打ち倒すだけ」
みんなが同じ目標を持って動こうとしていた。賢者の石を奪い、教会の思い通りにさせない。決戦はいよいよ目前に迫っていた。
「おそらく争奪戦を長期にわたって続ければ賢者の石が完成する。そうなればアザレアは世界改変を行い、手がつけられなくなる。なるべく早く高石教会を攻略する必要があるね」
「戦わなきゃ教会は倒せないジレンマ……か。状況は石を所持している教会が有利だから、最短で倒す方法を考えなきゃなのだわ」
「最終決戦に向けて作戦を煮詰める必要があるわね」
そうして魔女三人は議論を白熱させ始めた。こうなるともともと普通の高校生だった僕らは見守るしかない。
ふと、ずっと喋っていない桐生さんが気になった。彼女も巻きこまれた側の人間だからあまり具体的な話には参加できなかったのだろう。
「桐生さん、ごめん。もう少しだけ僕たちにつき合って。もうすぐ全てに決着がつく。教会を倒して賢者の石を手に入れれば、もう怖いものもなくなるはずだから」
「そう……かもね」
うつむき、目を逸らしたまま彼女が答える。
なぜだろう。その言葉はとても歯切れが悪く聞こえた。




