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第122話 魔女と盗賊

ジャスパー再登場です! かなり前半に出たキャラなので、覚えてないかもですが、そんな方は読み返してね! 



 一方その頃。

 私はシャルルロアの酒場を訪れた。

「店長、久しぶり」

「あんたは……!! 生きてたのかリリー」

 突然街から姿を消した私を心配してくれていたようだ。

「仕事があるの。100万の『おつとめ』よ、腕自慢を集めて。明日また来るわ」

 仕事の内容と募集する条件を伝え、ワインを1本買い取って帰宅した。


「ただいま」

「リリー、お帰り」

 ハイラが出迎える。店内の暖炉には火が灯り、窓を開けてあったのか、埃っぽい空気はすっかり入れ替わっている。

 シャーロット、アキラ、ゾーラと暮らした日々が遠い昔のことのように感じる。

 縫ったドレスは布がかけられ、埃がつかないようにしてあった。

 二階の寝室の窓も開ける。窓から見える街の石畳に、家々の灯りが反射していた。


 ここは、シャルルロア。ラウネル王国の寒村とは違う。

 アキラを別の世界から呼び出した夜を思い出す。あの夜から、すべてが変わった。


 アキラがいれば、きっとクラウスは助けられる。

 ガーネットに自力で変身できるようになった時、不安は確信に変わった。

 あまりにもクラウスにそっくりな……少女。


 彼を呼び出したのは、私の力ではない。あの子の、運命だったんだ。


 そして全てが終わったら。クラウスを助けたら代償としてアキラを失うのだろう。

 あの子の恋を踏み潰して、私は王妃になる。

 痛いほどの想いを寄せられている。あの子の笑顔が曇るのを何度も見てきた、気づかないふりをして。神様はどうして、アキラを先に会わせてくれなかったのだろう。

(好きよとっても)

 しかし、全てを捨ててでも、クラウスを助けると誓った。あの子と生きる未来を選ぶことはできない。



 私はリリー・ロック。

 ラウネル王国の次期王妃。




 翌日、日が暮れてから再び酒場へ出向く。

「おう、リリー、集めてといたぜ」

 仕事の依頼を聞きつけて、腕ききの男たちが集まっている。中には女もいるが。

「シャルルロア城内にある、竜のハープを持ってきて」

 途端に、ざわついていた店内が静まり返った。

「バ、バカな……。アンタ、シャルルロア城の警備を知らねえのか」

「知っているから、依頼してるんじゃないの。100万出す。何人でも構わない、私の目の前に竜のハープを持ち込んだ人に払う。誰がやろうが構わない、私に直接持ってきた人に払う」


 期日は10日後。それだけ言ってワインを頼んだ。客たちは戸惑いながら、店内を出ていった。仲間や武器を集めるのだろう。




「……おい」

「なあに」

 ああ……。やっと来たわね。

 何度か仕事を頼んだことがある少年が、音もなく背後に立った。

「誰だったかしら」

「ジャスパー。お前に親父の腕をふっ飛ばされた」

 

 どんなに腕が立っても、剣の腕だけが頼りの冒険者たちには、堅牢なシャルルロア城は突破できない。盗賊の知識と技術がなければ。

 チーズをかじりながら、

「シャルルロア城、入ったことあるでしょ。あなたなら持ってこれるんじゃない?」

「本当に報酬は100万なんだろうな」

「ええ。安心して、私、貯め込んでるから」

 グラスを新しく運ばせ、ワインを注ぐ。


「妹いたよね。元気?」

「……薬代が、もうねぇ……」

「そうー。大変ね」

 どうぞ、とグラスを差し出す。メキラとハイラが持っている、ヤクシなんとかの薬なら、きっと病を治せるだろう。しかし、分けてくれるかは別問題だ。

「友人が、病によく効く薬を持っているわ。もし竜のハープを入手できたら、話してあげてもいい。そこからは自分で交渉しなさいな」

「……」

「私は毎日ここにいるから」

 ジャスパーはワインを飲み干し、

「約束を守れよ」

 と言い残して店を出ていった。


 作戦成功。

「……さて、もう一軒行こうっと」





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