↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第10章 海の王国シュテルンメーアと雪山のブランシュ
PR
123/155

第121話 雪山のブランシュ

氷河の地下に潜ります。


 カインに導かれるまま、クレバスへ降りていく。


 大地を割る凍りついた割れ目は青く、冷気が指を強張らせた。日の光の加減なのか、水色の壁は地底から光るようだ。


「トレニア、寒くないか」

 コートに、事前に買っておいたニット帽で耳を隠して、マフラーをぐるぐる巻きにしている。完全装備でもまだ寒そうに震えている。

「平気よ」

「俺はもう帰りたい」

 忘れかけていたが、シャーロットはそういえば猫だった。

「まあそう言うな。寒いなら彼女に手をつないでもらえ」

 カインが笑いながら先へ進む。


 クレバスの底は数メートルの幅があり、上を見上げるとわずかに切り取られた空が見えた。

「強い力を感じる。こっちだ」

「……もしクレバスが崩れたら、どうします」

「その時は全員死ぬか、黒百合が先に気づいて脱出させてくれるか、ふたつにひとつだな」

 カインはまっすぐにクレバスの底をずんずん進んでいく。


 誰か、立っている。


 近づいてみると、女の子のようだ。


 銀髪のおかっぱ頭、氷のように透明な肌をしている。

 白いブラウスは、……半袖だ。

「アキラ。ここは私にまかせろ」

「はい」

「こんな氷の底に、半袖でいる子供なんて人間なはずがない」

 メキラに、「お前たちは待て」と言い、 カインはその少女の前に進み出ると、

「こんにちは。お嬢さん、私たちと同じように、迷ったのか?」

と膝をついて手を取った。


「あなた、だあれ? まよったの?」

「ああ。観光していたんだが、クレバスに落ちてしまってな」


「観光客はここには来ないわ。ここはね、わるい人を閉じこめてあるの」

「悪い人?」

「うん。私のともだちのじゃまをする、わるい人」


 カインは、うんうんと頷いて、

「名乗るのが遅れました。私はカイン。お嬢さん、お名前をうかがっても?」

「ブランシュ」

「ブランシュ。悪い人を閉じ込めているなら、ここにいる君は、悪い子なのかな」

「違うもん」

「それなら、なぜ、ここに?」

 山の中の、更に地の底だ。

 子どもが一人で生きれる場所ではないだろうに。


「この山は私の家なの。ともだちはシャルルロアのお城に住んでる」

「友達は君を、悪い人の見張りにしているのか。ひどい友達だな」

「違うの、リリーのためだからいいのよ。私たちはつながっているから」

「リリー……? リリー・スワンのことかい?」

 ビンゴ、だ。

 カインは振り返ってウィンクをしてみせた。


「ここが家なのか。お邪魔をして悪かった。みんな寒いし、もう戻るぞ。……ブランシュ、一緒にお茶でも」

「私はいいわ。中はあったかいの」


 意外な情報に、トレニアが食いついた。

「ここは火山だと思うんだけど、もっと奥は暖かいの? お邪魔してもいい?」

「ええ。こっちこっち」


 ブランシュが氷の回廊を駆け出しだ。まっすぐよと案内され、さらに奥へ歩を進める。

 水色から深い青へ、そして氷の壁が真っ暗になる。さらに地下へ進むと、突然、巨大な空間に出た。熱気が冷え切った身体に熱を与えた。


 ぽっかりと開いた空間に、繭のような巨大な石が、浮いている。




『石の中にいる』



 

 ここだ。

「悪いひとたちはここに閉じ込めてるの!」



 ほんのりとオレンジ色の光が、周囲からにじみ出ている。……この山は、活きている。


「リリーがキライって言った人を、ここに閉じ込めているの。ともだちが困ってたら、助けるのが普通でしょ」

 この石の中に人間を閉じ込める、とは。どうやってだろう。見た限り、大きな石で、扉があるとか出入りする穴があるわけではない。

「……ブランシュ、中の人は、生きているのか?」

「当たり前でしょ。殺したりしないわ」

 もっとも、人の寿命以上は生きていられないだろうから、出さない限りはいつか死ぬということだろう。


 僕は、ブランシュの前に少し屈んで話しかけた。


「ブランシュ、悪い人を閉じ込めているんですよね。お城のリリー・スワンが許したら、出してくれるんですか」

「うん。たぶんね。リリーはとってもやさしいから」

「……優しいんだ?」

「とーっても優しいわ」

「それなら、僕も友達になりたいです」

「いいよー、私のともだちなら、リリーのともだちよ」


 これでチャンスを作れる。

「また会いに来ます」

 その時は、戦うことになる。

 また来てねと手を振る彼女を残し、地底を後にした。


 地上に戻ってから、ずっと黙っていたトレニアが声を張り上げた。

「ちょっと、何を考えてるのよ!!」

「トレニアさん」

「あの娘は、明らかに人じゃなかったわ。おそらく、彼女がダイアモンドナイトの本体、」

「問題ありません。友達になってしまえば、懐に入るチャンスもできます。クラウス王子を救出するなら、リリーがいる時でなくてはいけません」

「どうしてよ?」

「うっかり戦いに巻き込まれて、死んでしまうかもしれないじゃないですか。でも、王子を助け出せれば、リリー・スワンを殺さずに済むかもしれません。僕は、リリー・スワンの弟と友達なんです。ブランシュと戦って、あの場所からクラウスを救い出せば、リリー様は納得するでしょう。リリー・スワンを殺す必要はなくなります。子供の姿をしていますが、ブランシュはダイアモンドナイトです。罪悪感を覚える必要はありません」

「リリー・スワンを助ける気なの?」

「正直に言いましょう、僕の魔力で、そこまでうまく行くとは考えていません。ですが、ブランシュを倒し、クラウスを助ければ、結果としてリリー・スワンを殺さずに済むと言いたいのです」


 誰も死なせないとするなら、の考えではあるが、僕の頭ではこれ以上のことは思いつかない。


「アキラ。『うっかり戦いに巻き込まれて、死んでしまうかもしれない』のは、ブランシュか、それともクラウスか。お前か、リリーか」

「……」

 90まで生きた王様は怖い。見抜かれてしまいそうで、口をつぐんだ。

「まあいい。シャルルロアへ戻ってリリーと合流しよう」

 帰る前に、リリーに土産を買おうとカインは笑った。


 メキラがぽんと肩を叩いた。

「アキラ、一人でできることは少ない。思い詰めれば良い案は浮かばないものだ。なんでも話せ、別の策が浮かぶこともある」

「メキラさん」

「本音をすべて語る必要はない。だが、みんな仲間だ」







 

まだまだ続きます! ブクマ・感想などお待ちしております! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。