第120話 氷河を見に行こう
観光地の氷河を見に行きます。
120 氷河を見に行こう
ラウネルに戻り、リリーの家でスープを作っている。
「ダイアモンドナイトの本体はどんな奴なんだ? 黒百合の女神の姉であれば、さぞかし美しいのだろうな」
りんごをつまみながら、カインが言った。
「ゴーレムよ? 素材がダイアモンドだから綺麗だけど」
台所で、野菜を刻みながらリリーが答えた。
「それは、リリー・スワンが追手として出した、ただの兵だろう。お前たちも作れるだろう?」
確かに、ダイアモンドナイトだと、思っていたが、女神本体を追手として使わないだろう。
「そもそも、シャルルロア城に、ダイアモンドナイトの本体は、本当にいるのか?」
ランズエンドへ赴いた際、彼女たちの母なる女神に聞いた。
『クラウスは石の中にいる』とは言われたが、城の中とは言っていない。
「……銅の国カルコスでは、女神は洞窟の中にいらっしゃいました」
「黒百合が、うちの祖母と出会ったのは湖の洞窟だったと聞いたわ。暗いところが落ち着くの?」
リリーが黒百合の女神に尋ねる。
「ええ。私たちはもともと、土の精霊だもの」
じゃがいもをさいの目切りにして、水と鍋に入れ、火をかけた。リリーとトレニアが切ってくれた鶏肉、人参や葉物を順に入れて、蓋をした。メインの鶏肉は、シャーロットが庭で焼いてくれた。
「シャルルロア城を調べた時に、クラウスは見つからなかったのだろう? シャルルロア国内に、山や洞窟はあるか。聖地と呼ばれるような」
「あるぞ。病気が治る泉が湧く山が」
シャーロットが、丸焼きにした鶏肉を切り分けて皿に盛りながら答えた。
「あったっけ?」
「リリー、アルベルタと行ったろ。観光地だった」
「あー……? うんうん、あの山ね」
あ、これ、絶対覚えてない顔だ。
その態度に呆れながら、シャーロットが説明する。
「メードグラス、氷の宮殿って呼ばれてた。氷河に穴を開けて、観光客が歩いて見学できるようになってた」
じゃあ行ってみようかと話がまとまりかけたところで、リリーが
「竜のハープ探しに、ちょっと心当たりがあるの。私はいいから、アキラ、みんなで行ってきて」
「……はい、わかりました」
「シャルルロアの店で待ってるから、落ち合いましょう。移動は黒百合がしてくれるから」
パンとスープのチキンの食事が済み、明日の朝に出発ということになった。トレニアとシャーロットは帰宅し、メキラとハイラは一階で雑魚寝することになった。
「山地でかなり寒いから暖かい格好で集まってね」
黒百合の女神の力で、シャルルロアへ移動する。
美しい町並みは健在で、リリーとは店で別れた。
僕とシャーロット、トレニア、カイン、メキラで移動する。ハイラはリリーの店で留守番だ。
「帰ってきた時に誰もいないと困るだろ」
シャーロットが、メードグラスへ行ったことがあるので、そこまで瞬間移動する。
「……さ、寒っ!!」
リリーが以前縫ってくれたコートを着てきて正解だった。
目の前には天を衝く険しい山々がそびえ立っている。雪を頂く山から、まるで砂利道のような流れがある。
「あれが氷河だ。観光ルートがあるから行こう」
氷の宮殿と書かれた看板があり、周辺にはレストランが並んでいる。
見学料を払い、整理券の時間まで食事をすることにした。
チーズフォンデュにトマトの煮込みが入ったトマトフォンデュと、羊肉のシチューを分け合う。
「やっぱり、ラウネルとは味付けちがうわね」
とトレニア。彼女はケーキを追加で頼んだ。モンブランぽい。
整理券と一緒に渡されたパンフレットには、周辺の山々の説明が描いてある。スキー場や温泉があるようだ。
『ラダームブランシュ』と書かれた山と、祠の絵がある。登山者が安全を祈る、山の神の祠らしい。
カインに教えると、
「ダイアモンドナイトの本体を探しているのだから、まあ地下だろうな。だが、アキラが気になるというなら、この祠も寄ってみよう」
と丸をつけた。
時間になり、メードグラスの入り口に案内される。
木材で整備された長い階段を降りていくと、氷河に掘られた横穴に着いた。
「わあ……!!」
通路は氷河をくり抜いたもので、氷が青く輝いて見える。
「氷河の中を歩けるなんて」
ところどころ、ロウソクの灯りで照らされて、ほのかなオレンジ色になっている。
「これはすごいな……」
観光客がみんな氷河の天井を見上げながら、転ばないようゆっくりと歩く。
青い氷河の中は、まるで星空のようだ。氷の中の空気が、泡のように光る。
通路を突っ切ると、地上に出た。観光客たちは、順路を歩いて戻っていく。
「さて。お前達、帰るな帰るな」
カインが、順路とは別の小道を見つけた。
『ラダームブランシュ登山口』
看板に従って少し歩くと、小さな祠があった。
ガラスの扉越しに覗いてみると、小さな女神像が祀られている。
「登山をしにきたわけではないからな。こっちだ」
カインは、ほこらの後ろへ周り、ぽっかりと口をあけたクレバスを指差した。
「降りるぞ」
まだまだ続きます!




