第112話 回収終了
7つのルビーを回収します。
ハイラの竜が尻尾を振り下ろし、湖の岸の岩を打ち砕いき、湖水が勢いよく流れ出した。とはいえ、湖の水を全部抜くには何日かかるか、わからない。
まどろっこしいと、黒百合の女神が、
「我が命に従え」
と地面に手をついた。すると、ぐらぐらと大地が揺れ、波だった湖水が、岸から一気に溢れ出した。みるみる湖から水が抜けていく。
「さあ、抜いてあげたわよ」
真ん中まで歩いていけるようになり、体力を使わずに済む。一段、深くなった中央部の湖底は、青く浅い岸付近より水が冷たい。
絶対に諦めない。
もう一度、湖に潜って底を目指す。しかし、なかなかルビーは見つからない。
最深部まで潜る前に、体が浮き上がってしまう。
「私も行こう」
「アイフィア、止めたほうがいい、結構冷たいし……」
「私の方が体が重い、底までつかなければルビーを探せないだろう?」
メキラから竜のうろこを借りたと、アイフィアは笑った。
「……あなたの呪いを解こうとしてるのに、冷たさで死んだら元も子もない」
「カイン。体が辛いのは、同じだろう。唇の色が悪くなっている」
さあ急ごう、とアイフィアが水に顔をつけた。
アイフィアに引っ張られるように潜り、湖底までたどり着く。
きらりと光ったルビーが、視界の端に入った。慌てて手を伸ばす。
(掴んだ……!)
足に激痛が走った。
「カイン!!」
痛みにパニックになった瞬間に、手首を掴まれる。
「……!!」
アイフィアが手首を掴んだまま、水面まで引き上げてくれた。
「ぷは……っ!」
「しっかりしろ、もう大丈夫だ」
右手にはルビーが握られている。足を攣って動揺したが、掴み取れたようだ。
「カイン、アイフィア!! 岸へ」
ハイラが気づいて、肩を貸してくれた。ズボンを脱いで、まだ痛む足をメキラが揉んだ。
慣れない潜水をしたアイフィアは息が苦しかったようで、呼吸が荒い。
「これはまずいな。メキラ、一度城へ戻ろう」
「ああ、そうしよう。服を乾かしたら、城へ戻ろう。ルビーはすべて回収できた」
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城へ戻り、回収したルビー7つを洗う。説得は俺たちにまかせろと、ハイラとメキラが胸を叩いた。
黒百合の女神がもう一度呼びかけると、ラトナが姿を表した。
「姉様。死にたくないのに殺される、この者を可哀想だと思いません?」
「死にたくないのに殺された、私の前の持ち主は。妹よ、なぜ人間に肩入れする」
「私は友達を助けてあげたいだけよ。頼まれたから」
メキラが、そっと横から口を挟んだ。
「……女神ラトナよ、申し上げます。元女王だったフレイアが、他者を呪い殺すという呪縛から開放するのは、悪いことではないでしょう。お力を貸していただけませんか」
とメキラ。
「お前は」
「私はメキラ。薬師如来に仕える者。この国の民ではございません」
薬師如来は異国の神だと説明し、仲間のハイラも同じく、人間ではないと伝える。
「人が化け物になってしまったなら、戻してあげるのが優しさだと思います。が、思った以上に強力なのです」
「そうだろうな。フレイアには、私が力を貸したのだ。子の敵を取りたいと」
フレイアは女神の力を、呪いに変えてしまったらしい。
「しかし、子ひとりに対して、女王フレイアは、もっと多くの者を殺しております。現ヴィルガー王の家系を根絶やしにすること、それが救いでしょうか。フレイアはそれで救われるでしょうか」
「私は関わりないことだ。望まれたから力を貸した」
黒百合の女神と同じく、彼女たちは人間たちの善悪は気にしない。
力を貸してくれと望めば協力はしてくれる。
「女神よ。関係ないということであれば、フレイアに与えた力を、取り消していただくことはできないでしょうか。ヴィルガー王家にかけられた呪いを取り除きたい」
私からもお願いすると、アイフィアが頭を下げた。
「……仕方ない。お前たちは力を示した。協力はしよう」
池の水全部抜くつもりでしたが、湖底が一段低くなっていたので、カインの潜ってもらいました。




