第113話 約束を閉じ込めて
フレイアと対決します。
女王フレイアを呼び出すことにし、城内の教会へ移動する。
顔色の悪いアイフィアの手を握った。
「怖いの」
「はは、こちらには女神がふたりもついているのだ、怖くはない。だが女王が話を聞いてくれるか、な……」
メキラとハイラが武器を持ち、教会の扉を開けた。
さて、とアイフィアはラトナが宿るルビーを両手に掲げた。
宝石がきらめいたかと思うと、ラトナが姿を表した。
お願いします、とメキラが要請する。
彼女が呪われし女王フレイアの名を呼ぶと、恐ろしい形相のフレイアが現れた。血に染まったドレスをまとい、氷の刃が腹に刺さっている。
以前見たときより、小さく見える。
化け物じみた姿は同じだが、体の大きさが普通なのだ。
「……お前が放った呪いは、我が力。返してもらうぞ」
「ラトナ……! 私に力を貸してくれると言ったではないか。我が子を氷の湖に投げ込まれた。この恨みは消えない」
オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ……!!
彼女の叫びが冷気を教会内に吹き込んだ。以前割られたステンドグラスから再び雪と氷が入り込む。氷雪をまとったフレイアは巨大になり、天井まで届きそうだ。
……ウソだろう!?
予想外だったのか、メキラとハイラが一斉に攻撃を仕掛けたが、雪を固めた盾に跳ね返される。
「皆殺しだ」
その様子を見ていたアイフィアが一歩前に進み出た。
「アイフィア下がれ!!」
「危険だ!」
踏み潰されそうな、巨大な雪像のようになった女王を前に、彼は笑った。
「……これで最後にしようフレイア。そのかわり、私の一族が、あなたの息子を弔おう」
「フフフ死に抗うことはできぬぞ、私もお前も。お前が死んでも変わらぬ。逆らうな」
「ああ逆らったりしない、先祖たちの罪は私が王として引き受けよう」
「今更そんな言葉が信じられるか」
悪霊と化したフレイアが氷の刃を振りかざした。
「……ふざけるな!! 死なせないッ!」
アイフィアを庇いつつ、炎の魔法を繰り出した瞬間、氷の刃が腹を貫いた。
「……カイン!!」
刃が抜かれると同時に、視界が赤く染まった。血とは、熱いのだと初めて知った。
「……アイフィア……あなたが死ぬことはない」
「馬鹿な、お前にはお前の国が」
「……あなたがいない世界など……いらない……」
ここで終わりなのか。
フレイアが吐き出す冷気で涙が凍りついた。
フレイアの前に黒百合の女神が立ちはだかった。
「……許さぬ! 関係のない子供を傷つけたな。私の友を!」
黒百合の女神の怒号が凍てついた空気を震わせた。床を貫いた蔓が、フレイアを縛り上げる。
「待ってくれ、黒百合の女神よ、フレイアの恨みは消えない。……もう憎み合うのは終わりにしたいのだ」
「邪魔立てするな、我が子は戻らぬ」
縛られたまま、フレイアはなおも冷気を吐き出している。氷の塊が、アイフィアの額に当たり、血が吹き出す。
「私はあなたを救いたい。物心ついた時から、私はお前に怯えて生きてきた。何度も何度も会ってきた、これ以上、殺してほしくないのだ」
フレイアは再度、冷気を吐き出し、アイフィアはかろうじて躱した。様子を見ていたラトナが割って入り、炎を浴びせる。
「フレイアよ。お前の我儘に付き合っていられぬ、死んだ者は戻らぬのだ」
「……湖にお前と共に投げ込まれた時、子の仇を取りたいと願ったな。だから私は力を貸してやった。その結果がこれか」
「人間の言うことなど、信じらぬ」
「この者はお前を倒そうとしているのではない、許そうとしている。罪を認めているのだ、仇は取れたのではないか」
「私の心は凍てついたままだ」
黒百合の女神に全身を蔦で縛られているというのに、なおも全てを凍りつかせようとしている。
「どうあっても、この者を殺すか。いまこの場でたった一人、お前を救おうと言っている者を」
「……」
「許さぬというなら仕方ない。妹も怒っている。これ以上、私に面倒をかけるな」
ラトナの炎が、フレイアの体を溶かしていく。頭だけ残して、溶けてしまったフレイアがパクパクと口を動かした、が、もはや罵声も冷気も出てこない。
「ならば恨み続けるが良い。この石の中でな」
頭だけを残し、ラトナはフレイアをルビーに封じ込めた。
「アイフィアよ、お前の一族が、この女のために祈るのだ、これから先、恨みが溶けるまで」
「はい。私の国が責任を持って供養致します」
ラトナからルビーを恭しく戴く。
「あの者は、人間の言うことなど、信じらぬと言っていた。自分も人間だったことを忘れてな。アイフィア、お前は王として甘すぎる」
「最後の仕事です、恨みは私が引き受ければ良いのです。……そうだ! カイン!」
刺されたカインの運命は……!? 次回も見てくれよな!!




