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19 願いは届かない

「来たね」


 ヘリポートのある屋上まで上がって来た灯夜を、やや息の乱れている涼成りょうせいが微笑を浮かべて出迎えた。車椅子はエレベーターを降りてすぐの場所に乗り捨てられており、ふらつきそうになりながらも、涼成はヘリポートの中心部に自分の足で立っていた。


「兄さん、無理をしないで」


 疑念や困惑、様々な感情が入り乱れながらも、帆乃夏の口をついたのは兄の身を案ずる言葉だった。涼成の体がすでにボロボロなのだということは、献身的に支えてきた帆乃夏が一番分かっている。


「帆乃夏、心配をかけてすまない。灯夜くんと一緒にここへ来たということは、僕がしたことについても、分かっているね」

「……信じられないわ。あれが全て、兄さんの仕業だなんて」

「事実だよ。これがその証拠」


 涼成が右手を点に翳した瞬間、右手の上でマナが活性化しはじめ、小ぶりな火球のような物体を作り出した。


「エズ・ハラ」


 攻撃系の炎熱魔術としてはもっともポピュラーな『エズ・ハラ』のトリガーを唱えた瞬間、火球は涼成の掌を離れて、灯夜目掛けて弾丸のように放たれた。


「デモンストレーションにしては、物騒じゃないか?」


 灯夜は息をするかのように賢者の左腕を機動させ、掌に魔術消滅の術式を発動。一直線に向かってきた火球を左手で受け止め、そのまま握りつぶした。なかなかの威力を持つ火球ではあったが、一カ月前に戦った『レイス』のメンバー達のものに比べれば劣る。


「そんな、兄さんが本当に魔術を……」


 目の前で涼成が魔術を使ってみせたことで、帆乃夏の中の唯一の希望が崩れ去った。一連の犯行を認めるかのような発言と合わせて、帆乃夏が天罰だと思っていた一連の現象が、涼成の手によるものだということを嫌でも思い知らせる。


「帆乃夏の視界を通して視ていたけど、君はやはり、ただ者では無いようだ」

「だったら、無駄な抵抗はしないでくれ」

「それは出来ない相談だね」

「あんたとは戦いたくない」


 戦いたくないというのは何も気持ちの問題だけでは無い。魔術の使用というのは多かれ少なかれ体に負担をかけるものであり、攻撃魔術や身体強化系の魔術はその傾向が顕著だ。

 病魔に蝕まれ、余命幾ばくも無い涼成にとっては、魔術の使用は文字通り命を削る行為であり、このままでは体が限界を迎えてしまう。帆乃夏の目の前で、そのような結末を迎えさせたくはない。


「もう後には退けないんだ!」


 落ち着いた態度を見せていた涼成がここに来て感情的に声を荒げた。いつも穏やかだった兄の激昂に、帆乃夏も畏怖にも似た感覚を覚え、微かに体を震わせていた。

 涼成の体の周辺で再びマナが活性化し始め、何らかの魔術の発動を予感させた。マナの発するエネルギーの大きさから、先程『エズ・ハラ』とは比べ物にならない威力と思われる。


「何をする気だ?」

「……兵頭を殺すのさ。帆乃夏の目を介していた時と違い、精密に狙うことは出来ないが、大まかな範囲を指定して家ごと吹き飛ばせば問題は無いだろう」


 灯夜は涼成止めるべくヘリポートへと上がり、移動魔術を体へ付与、なりふり構わず涼成の体を取り押さえにかかった。兵頭家に警備部関係者も多く残っているし、周辺の住宅にまで危害が及ぶ可能性もある。涼成にこれ以上罪を犯させないためにも、絶対に止めなければならない。


「馬鹿野郎!」

 

 倒れ込むようにして涼成の体へとぶつかる。それによって涼成はバランスを崩し、同時に頭の中での魔術式の演算も乱れたため、魔術は不発。活性化していた周辺のマナも静寂を取り戻した。


「兄さん!」


 派手に倒れ込んだ涼成の身を帆乃夏は案じるが、幸いなことに今の一撃が涼成の体に障ることは無かったようで、涼成はすぐに言葉を発した。


「高速移動まで出来るなんて、君は本当に万能だね」


 生粋の魔術師というわけでは無い涼成にとって、灯夜の移動魔術は未知なる技であった。もっとも、弱り切った今の涼成の体では、分かっていたところで対処のしようも無かったかもしれないが。


「今の規模、撃った瞬間にあんたも死んでたぞ」

「……覚悟の上だよ。どのみち、あと三ヵ月の命だ」

「あんたの覚悟はどうあれ、妹にとっては大きな三ヵ月だろ」


 倒れたままの涼成の見下ろす形で灯夜が諭す。このような形の別れなど、帆乃夏は絶対に望んでいないはずだ。


「君は優しいね」


謝罪するかのように涼成は目を伏せた。このまま戦うことは不毛なのだと受け入れ、これ以上は抵抗しないでくれるのだと、灯夜は安堵の溜息を漏らしたが、それが僅かな隙を作ってしまった。


「ゼロ・ラヲ」


 涼成が灯夜の虚を突きヘリポートへと右手を着き、トリガーを唱える。

 瞬間、ヘリポートを接した涼成の右手を基点に白い煙幕が上がり、ヘリポートを包み込んだ。


「くそっ、視界が!」


 涼成が距離を取るような動きをしている気配を感じるも、視界ゼロの状況ではその姿を捉えることが出来ない。

 今更このヘリポートから逃走するとも思えないが、何らかの思惑があるからこその行動には違いない。早く煙幕を除去し、状況を確認する必要がある。


「消えろ」


 灯夜は煙幕を吹き飛ばすために魔術紋を発動、風圧を発生させてヘリポート上の煙幕を吹き飛ばす。

 視界が確保されたことで、ヘリポートの隅へと寄っていた涼成の姿を捉えることは出来たが、灯夜が煙幕の除去に時間を割いている間に、涼成の思惑はすでに達成されていた。


「僕のとっておきを見せてあげるよ」


 消えゆく煙幕から覗いた涼成の顔は、どこか悲し気に見えた。

 涼成が両手を地面へと着いた瞬間、マナが活性化して涼成の周辺と集まっていく。活性化しているマナの量はこれまでで最大であり、涼成が兵頭邸へと向けて放とうとしていた爆破魔術を遥かに凌ぐ性能の魔術の発動を予感させる。


「おい、止めろ!」

「止めて兄さん!」


 これだけの出力を持つ魔術を発動させるとなると、涼成の体がもたない。魔術的な知識が無いとはいえ感覚的にそれを悟ったのだろう。帆乃夏も事の深刻さを理解し、必死に涼成へと呼びかける。

 だが、涼成の覚悟は妹の呼びかけをもってしても揺らぐことは無かった。


「ノトポ・ラキロ!」


 涼成がトリガーを唱えた瞬間、手元から大きな火柱が上がり、その中から異形の影が覗いた。



 

今回の話でちょうど50部目。第一部を投稿してから約2カ月、月日の流れは早いものです。


二章も終わりへと近づいてきているので、今後の後書きでは、これまでの内容について少し振り返ってみようかなと思っています。



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