5 突撃! バイト先訪問
翌日の放課後。繁華街の中を沙羅、灯夜、舞花の三人が、肩を並べて歩いてた。
「ここまで来て言うのもなんだけど、やっぱり突然押し掛けたら迷惑じゃないかな?」
沙羅が控えめにそう主張するも、内心では期待もあるのだろう、言葉とは裏腹に歩みを止めはしない。
「繁忙期でも無いし、大丈夫よ」
三人が今どこに向かっているのかというと、この場に不在のいつものメンバー、織姫楽人のバイト先だ。
帰りのホームルームが終わるなり、楽人が早々にバイト先に向かったことをきっかけに、彼のバイト先のことが話題に上がり、沙羅がまだ楽人のバイト先を訪れたことが無かったこと、「どうせなら、突然押し掛けて楽人の困惑顔を拝みましょう」と、舞花がS気のある提案をしたことなどにより、急遽バイト先訪問が決定したのである。
「楽人の驚く顔が、目に浮かぶわ」
「……俺は普通に用事があっていくわけだが」
妙に活き活きとしている舞花に対し、灯夜は冷ややかに指摘する。灯夜は楽人のバイト先などに今更興味は無いのだが、昨日、瑠璃子から捜査協力を頼まれた件で、楽人に相談したいことがあったため同行していた。
「着いたわ、ここが楽人のアルバイト先よ」
繁華街の大通を大きく外れ、住宅街の方へと伸びる、比較的古い建物の多い通りの一角に、楽人のバイト先である『不可思議堂』という店舗はあった。
「素敵な建物だね」
昭和初期に造られたのだという二階建ての写真館を改装した店舗は、レトロな雰囲気を存分に醸し出しており、沙羅の心をしっかりと射止めた。
この一帯は、古き良き時代の町並みをそのまま残したかのような、ノスタルジックな雰囲気が魅力だ。周辺にはやはり同時期の建造物であろう古本屋や喫茶店、郵便局などが立ち並んでおり、まるでタイムスリップでもしたかのような気分を味わえる。
「楽人くんは無骨な雰囲気の店だって言ってたけど、そんな感じはしないよ?」
「確かに、外観は素敵よね」
「えっ?」
舞花の意味深な言葉に若干の不安を覚えつつ、沙羅は店の入り口の方へと視線を向ける。
「……これは、怪獣?」
店先に置かれている緑色をした謎の生物の像を見て、沙羅は眉根を寄せた。
像の高さは70センチくらい。赤い大きな目を持ち、体中に突起のようなものが生えた二足歩行の獣のように見える。
「チュパカブラね」
「チュパカブラだな」
珍しく、舞花と灯夜の声が揃った。
「名前くらいは聞いたことがあるような、確かUMAだったけ?」
チュパカブラとは、主に中南米で目撃されているという謎の吸血生物のことだ。突起を有した二足歩行の姿は、初めて目撃された1995年代頃のイメージを元にしたデザインとなる。
「でも、なんで店先に?」
「このお店のマスコットキャラクターよ」
「何故チュパカブラ?」
「店長の趣味よ。それ以上の理由は無いわ」
「な、なるほど……」
その理由を聞いて、店の中の様子が、当初とは違った意味で気になって来ていた。チュパカブラをマスコットキャラクターに設定している店主の選んだ品揃えとは、どのようなものなのだろう。
「いつまでも店先に突っ立てないで、そろそろ入ろうぜ」
灯夜は気怠そうに言うと、木製の扉へと手を掛け引いた。
「いらっしゃいませ」
店内から、聞き覚えのある陽気な若者の声が発せられる
この店の制服だというグレーのポロシャツの上に、店のロゴをあしらった黒いエプロンを身に着けた楽人が、人懐っこそうな笑顔で来客を出迎える。
「お、おう」
「よ、よう」
灯夜の顔を見た瞬間、楽人の顔が笑顔のまま引き攣り、灯夜も言葉に詰まっている。お客様を迎える際には満面の笑みを心掛けている楽人は、互いに苦笑いくらいしか向けたことが無いであろう灯夜に、接客用の渾身の笑顔を見せてしまったことが、どうにも気まずいらしい。
「こんにんちわ、楽人くん」
灯夜の背後から顔を覗かせ、沙羅は笑顔で手を振った。普段とは異なる印象の楽人が物珍しいのか、視線は楽人を捉えたまま上へ下へと動いている。
「沙羅ちゃんも一緒か、ということは……」
「どうも、あなたの仕事ぶりを拝見に来たわよ」
木製の扉を優雅な仕草で閉めながら、舞花が継母めいた微笑みを楽人へと向けた。不思議と「おほほほほ」という笑い声のような幻聴が聞こえてくるような気がする。
「やっぱりお前も一緒かよ」
灯夜は、マイペースさが引っかかることもあるが基本的には無害だし、沙羅は純粋な良い子だ。この二人が来る分には、楽人もそれほど肩肘はらなくてもいい。だが、舞花だけは別だ。この面子の中ではお互いに一番付き合いは長いのだが、それ故に遠慮がなくなり、互いに憎まれ口ばかりを叩き合っている。端的に言うと面倒くさい相手なのだ。
「今日は沙羅さんに、楽人のバイト先を見せてあげたいと思ってね」
「それならそうと、事前に言ってくれればいいだろうに」
「それじゃあ、面白くないじゃない」
「お前が、だろ」
舞花のことだからきっと自分を驚かせるためにそう企画したのだろうと、楽人は経験則から分かっていた。動揺すればするほど舞花の思うつぼなので、なるべく冷静に振る舞うことが勝利へと繋がる。
「俺は普通に用事があってきたんだが」
灯夜が控えめにそう主張したが、どうやらその声は二人には届いていないようだ。両者の間では、どうやって互いの揚げ足を取るのかという、高度の心理戦が繰り広げられている。
「おい、あの二人が俺の話しを聞いてくれないんだが」
珍しく灯夜が、沙羅に助力を求めるが、
「凄い、見たことない物がいっぱい置いてある」
今まで灯夜の後ろにいたはずの沙羅は、興味深そうに店内の商品を見て回っていた。灯夜のことは、まったく気にしていない。
「いや、誰か俺の話しを聞けよ!」
そんな懇願すら、誰も気に止めてはくれなかった。




