次の日
火災で使えなくなった前の事務所とは違い、ビル全体がガラス張りの建物に事務所を移していた。
前よりも規模は大きく、 ビル全体が彼らのものらしい。被害があったばかりなのにここまで出来るのは凄いな。
俺の身体に巻きつけた包帯は、実際のところかなり適当だったので、ちゃんと固定出来てはいなかったようだ。ものすんごく怒られた。
「日南休さん!これで十分だと思ってたんですか!?」
『しゃあないじゃないですか。急いでたんですから』
自分に撃たれたとか言っても、「自殺かこいつ」とか言われかねないし、急いでたとしか返せない。
「不安なんでこれを飲んで下さい」
渡された薬を飲み息を整える。
「あとは時間になったら起こすので少しお休み下さい」
『ヒナがどうなってるか分からない以上いつでも動けるように起きておかないと』
「だからです。いざという時動けなかったらどうするんです。ピライに頼まれたんです。だからお願いします」
「・・・・・・」
ピライが言ったのならしょうがない。仮眠程度ではあるが休もうか。
座っているソファーで横になりまぶたを閉じる。水の中で肺の空気を抜いて沈んでいく時のような感覚で意識が降りていくと、久し振りに明かりの少ない廊下に出た。
「憤怒たちとは喧嘩しているからここに入れないと思ったんだが・・・」
1人ぼやくと喉の声帯が機能していることに気がついた。
喉をさわりながら中央部に向かうと、そこには誰もいなかった。いやまあ当然だよな。これでいたら、巨大人工浮島での行動が全て無駄になってしまう。だって彼らには俺の身体を奪うことが出来るはずなのだから。
でもそうなると気になることがある。
ふかふかの椅子に腰を下ろして肘を机に付けて司令官のような構えをしながら考える。
なんでわざわざ表に出てきたんだ?心の中から説得すればいいものを?
もしかして俺はついでだったのか?本当の目的はシュレ———の可能性は高そうだ。
シュレは心の中に入れない代わりに憤怒達とは関わらずに俺と話せた。
それが多分彼らにとってまずかったんだろう。けどなんでまずいんだ?
右手で頭をがしがしと搔きむしり、1度別のことをして気を紛らわす。
近くにあった冷蔵庫からお茶を取り口に含む。
誰もいないので当然だが、俺のふう・・・・・・という声のみが部屋に響いた。
「本当に1人なんだな・・・・・・」
1人って寂しいな。いつも側とは言わずともどこかに誰かがいた。
日本ならヒナにコハル、セイエイや刹那。もちろんシラヌイとイサリビもだ。
巨大人工浮島でだって、シラヌイとイサリビ、マスターにリーリャさん。ちと仲が悪いけど、インや窓原、そしてスザクだ。
ここでだって、来れば憤怒や温和そして日和だっていた。けどそれが今は1つもない。1人もいないんだ。
これが普通なのかもしれない。今までが恵まれていただけかもしれない。
「起きろキュウ」
外から声が聞こえる。もうそんな時間か。
『ん・・・・・・あぁあ』
「仮眠じゃなかったのか?」
外を見るとちゅんちゅんと鳥が鳴きそうなぐらい明るくなっていた。結構寝てたみたいだ。仮眠の基準ってどれぐらいまでのことを言うのか知らないが、6時間ぐらい寝ただろうから、仮眠とは言えなさそうだ。
「まあいいけどさ」
左目には眼帯を付けて、顔以外の肌が見える場所には包帯が巻かれてそして左腕はしっかりと固定されていた。
そんな状態でピライは右手を差し出す。
「お前の声帯用のバッテリーだ。今のだとせいぜい持って1日だろ?それなら1ヶ月は保つ筈だと思う。長い時間保つことには何の問題もないだろ?」
『そうだな・・・ありがとさん』
喉の左側にバッテリーを取り付けると電源スイッチとピピっと音を立てて繋がる。
時間もいい頃だろうと、杖を片手に俺は事務所を後にする。
「ヒナのことすまなかった」
『怪我が治ったらいっぱい怒ってやる。んじゃあな』
事務所の外に止めてあったバイクに跨ると俺は直ぐに目的の場所へと向かった。
昨晩撃たれた部分を時折さすりながらバイクを走らせ、目的の場所に着くと、そこにはヒナと黒いグラサンとスーツを着た男2人が立っていた。
『ヒナっ!!!!!』
バイクのスタンドを使う前にヒナへと突っ込み抱きしめる。
『すまない・・・すまない!』
怖い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「キュウちゃん・・・キュウちゃん!」
ヒナも俺を抱きしめる。人前で抱きしめ合うのは本来なら恥ずかしいが、今はそんなこと関係なかった。
何分か抱きしめ合っていると,ヒナの横にいた男がもういいだろとヒナと俺を引き離す。
『日南休さんハお客様でス。丁重にお願いしますネ』
『そういうことなんでヒナ、先に家に帰っていてくれ。バイクに家まで行くようにセットしてるから』
「キュウちゃんは・・・?」
『おはなしするだけさ。心配すんなって』
スーツの男たちに腕を引っ張られる。一瞬でもヒナの顔を見れた。それだけでも十分だ。
狭い廊下の進むと個室へと入れられるのと同時に後頭部を鈍い一撃が走り、意識は簡単に落ちた。




