雨の日に5
リーリャは傷だらけになった日南休を身体に可能な限り負担をかけないように静かに、そして素早く店に向かっていた。
途中でマスターに連絡を入れると、意識を保てるように声をかけ続ける。
「ナオフミ君! 君が倒れたらヒナちゃん悲しむよ? 辛いのは分かるけど頑張って! 」
「————————————」
ヒューヒューと息の抜ける音がする。そんな状態で生きているのが不思議なぐらいだったが、これは運がいいとリーリャは速度を上げていく。
スザクもキュウを巻き込んだことに責任を感じているのか、それともリーリャたちの店でどうせ会敵することになるから放置しているのか。それはわからない。
どちらだとしてもイレギュラーな現在の状況はリーリャにとって都合が良かった。
襲われることもなく店の前までやってくることが出来た。
リーリャは雨で視界が悪い中周りを警戒しつつ裏側にバイクを停める。
キュウ抱き抱えて店の中に入るとマスターがヒナたちの治療をしていた。
「マスター! リーリャ戻りました! 重体です! 上に———」
「離れた位置からでも分かる! あげてる余裕はないからここでやる! 」
ゴムの手袋とマスクを装着して机を並べて台として使う。
そこにキュウを乗せるとすぐに出血を止める作業に入った。
「キュウちゃん・・・・・・?」
ヒナが帰ってきたキュウの方向を見ながら眼を覚ます。察していたシラヌイはキュウを見せないように上に行こうと提案する。
シラヌイの反応からしてまさか・・・・・・と感じたヒナはそれに従い二階への階段を上る。
シラヌイはヒナの背中を押しながらインの方を見ると、インの諦めきった態度に腹が立ってしまったのか、舌打ちをする。それに怯えるインだったが、結局その場所から動くことはなかった。
「あのBOWの時は強力してくれなかったのになんで命を捨ててまで・・・・・・。僕には理解出来ない」
誰かに言うわけでもなく1人ぼやくイン。
視点をリーリャたちに戻そう。
首からの出血が酷くまずはそこを止めることが最優先だが、拭いても拭いてもまるでアリの巣なのではないかと思いたくなるほどの血が流れ出す。
「あんまりやりたくないが、この状態でやらないと本当に間に合わなくなる。あとでもう一回やるとして今は簡単に済ませる」
「———それしかないなら・・・・・・!」
「持つんだぞ、日南休!」
流れ出る血の中から切り口の左右をナイフのサイズから判断してあの部分から縫い始める。間違った手術なのは分かっている。然るべき人にあとで見てもらうとして、今は止めなくていけない。
慎重にそして確実に皮膚と皮膚を繋いでいく。それに合わせて出血も小さくなっていく。
痙攣が始まり手元がぶれる。リーリャは言われる前にキュウの身体を強く押さえて暴れないようにする。
意識がないせいでリミッターが外れているのか、なかなかリーリャだけの力だけで抑え込むことが出来ない。
「インさん! ただ座ってるだけなら手を! 」
「僕はキュウとは友達じゃない・・・・・・」
完全に不貞腐れて動く気配がない。
「ナオフミ君は確かにそう言ったかもしれない! あなたを友達じゃないと! けど友達っていうのは常に協力しあう者って意味じゃないんです。 常に協力しあうのは部下か同盟相手です。友達っていうのは———」
「そっちに意識を向けるならもっと押さえ込め! 止まったら終わりなんだ。折ってもいいから押さえ込め」
「分かってます!」
痙攣は止まらない。逆に悪化していく。これは無理なんじゃないかとリーリャとマスターの脳裏に過ぎる。
「分かんないよ僕にはなにも・・・・・・」
——————最初は誰だって分からん。俺も最初はそうだった。だから見て聞いて考えろ。そういう者だろう? 人間関係の作り方というものは——————
「僕はあなたみたいに優れてない。ただ何度でも蘇られるだけの、みんなから見捨てられるほどの無能だ」
キュウの声だが、キュウではない別人がインに声をかける。反応からしてそれをインは知っているらしい。
———じゃあなぜ殺されなかった? 殺されればそういう部分は焼却されて有能になれるはずなのに。
「それは人間を辞めることに他ならないからって窓原が」
——————そういう判断もあるな。それでお前はどうしたいんだ? このまま1人寂しく座っているか? それとも・・・・・・いう必要はないな。判断は任せる。好きにしろ。
「どうしたいって・・・・・・そんなの僕が聞きたいよ」
1人ぼやくインに背を向けつつマスターは何かを思いながらキュウの治療を続けた。




