VS BOW
「止まれーーー!!!!!」
「ちぃっ!検問か!変に上と喧嘩はしたくねぇ、ビルの隙間を抜けるぞ!」
「窓原!何言ってんだ!小型車でもギリギリそうな道をどうやって行くんだよ!」
「歯ぁ食いしばれ!そして掴まれよ。浮くぞ!」
ガゴンッという音に続けて、ふわっ!という感覚が身体を通る。それとほぼ同時期に重さを感じなくなって、床から浮き上がっていた。フリーフォールの方がマシだ。というか怖い!何で浮いてんだよ!どうやったんだよぉーーー!
目を瞑っていたので細かな状況は分からなかったが、力を振り絞って座席にしがみ付く。インと窓原はシートベルトがあるぶん楽だろうな。
先程よりも強い揺れが起きた後、地面に着いた衝撃で座席から手が離れ、反対側の座席に背中をぶつける。怖いが周りを見ないとどうしようもないのでおそるおそる目を開けると、床と座席の境目が目の前に見えて首元にはちくちくと熱い何かが飛んできた。狭い所をギリギリで通ればどうなるか。そりゃあ見なくても分かる。というか見たくない。
壁を擦る音が響くが途中で止まるわけにもいかないので、そのまま走り続けるとまた身体が空に舞う。擦る音が聞こえて来なくなったってことは、隙間を抜けたんだろうか?とはいえ先程まで力を入れて座席にしがみ付いていたのが原因なのか、緊張が解けたからなのか、力が全くと言っていいほど入らない。多分今の腕だったら飴さえ掴めないだろう。
「凄いよキュウ!自分の身体支えるぐらいの力あったんだね!」
「・・・・・・それ絶対貶してるだろイン。自分の身体ぐらい自分で支えられるわ!全力だったからもう手は動きそうにもないけどな。話は変わるが、シラヌイ達のところまで後どれぐらいだ?」
「このペースならあと1〜2分ってところだね。人質にされても困る。向こうの車に突入する形になるから、キュウは———手は使えないのか。じゃあ壁に縛りつけるからそれで耐えて」
「1〜2分なら戻るのでいいです。突っ込み方としては、インはBOWを見て、俺がシラヌイ達を見る、可能であれば、こっちに乗せればいい。まだ味方ではないし、それ以前にインだけだったら全員を守るなんていくら何でも厳しいだろ。さっき向かう前に決めたんだ変えるつもりはねえよ」
周辺を監視している警備員もいたが、先程の封鎖とは違い移動しながらのものだったので簡単に抜けて行くことが出来た。もうすぐさっきのBOWと同じもんと戦い行かないといけないというのに、体の震えが止まらない。いきなりあんな事になったのだからしょうがないか。というかさっきの行動の時に腰が抜けなかったことの方が驚きだ。
見たこともない化け物、掠れただけで肉が裂ける腕力とスピード。誰か分からないが、心に直接語りかけてくる何か。漫画みたいな状況を今頃になって身体が反応しだしたとみたら、当然の反応だ。
「・・・・・・窓原、一度撤退する。今の彼の状態じゃあさ」
「イン。俺は行く。行けるから頼むよ」
「一般人をこれ以上危険な目に遭わせるわけにいかない。行きたいなら1人で行くんだ。ここで降ろすから。———スザクの事だ。本当に危険ならもう連絡してる筈だしね」
何も出来ないのは分かってる。でも行かなきゃいけねえんだ。動ける証拠を見せれば行けるかもしれない。力が思うように入らない足を無理矢理に使い、何とか立ち上がる。けどこれじゃ俺でも分かるぐらいに立つのが精一杯だと示しているような立ち方だった。けどそれでも行かなきゃいけない。
「シラヌイの安全は守ると言ったな、イン。だがお前はここにいる。それに守ると言ったがそれは店での話だ。車までは守るとは言ってない。それでどうやってシラヌイを助けてくれるんだ?本気で守るなら、シラヌイの方に乗っていなきゃいけないんじゃねえのか?」
「BOWを予想出来るとでも?開発段階のものなんて知っているだけ不思議なのに、理解が出来るとでも思っているのかい君は?」
「だが———」
「被害者面するのもいい加減にしなよ。元はと言えば、シラヌイなんて連れて来なければ、こんな事にはならなかったんだ。衣服は向こうでも買える。金なんてレシートさえ提示されれば、いくらでも渡すのに」
「金の問題じゃねえ。まあ、安いからこっちで買ったのは事実だが、シラヌイはこっちで暮らしていたんだ。ならそこで買ったほうがあった生地もあって良いと思ったんだ」
「インすまないな。目の前にスザクが乗ったトラックがある。ここからはどうするかお前の判断に任せる」
「ああっ!もういいよ・・・・・・その代わりさっきみたいな無茶はやめてよ?キュウ」
窓原はシラヌイの乗るトラックの横につける。こちらの車と違い穴が開いているようには見えない。位置的に見えないからというのもあるが、インは何のためらいもなく車の座席を飛び台にして、トラックの荷台の上に飛び乗った。落ちたら骨折だけじゃ済まない速度でよくもまあ跳べたもんだ。
俺は、そんな体力もない。出来ることといえば、もしシラヌイ達がこちらの車に来た時に手を貸すぐらいのことしか出来ない。
———本当にいいのか?もしこれでシラヌイが死ぬとしよう。自分が助けに行って守れなかった場合と、助けに行かず死んだ場合、お前はどちらの方がまだましと判断できる?———
さっきは運が良かったんだ。出来るわけがない。それに登ろうとした所で絶望病の発作が出てきたらもう終わりだ。意識のある状態の落下とない状態での落下では、ゲームでガードをしているかしてないかぐらいの差がある。俺はここで待つ。それが俺が今見出せた、最良の答えだ。
どこからか聞こえる声は、大きく溜息をつくと、俺の身体を勝手に動かし始めた。感覚的には糸に吊るされている気分だ。
———怖いのなら|俺(私)この身体に責任をもとう。何、向こうに乗れればいいのだろう?3秒もあれば十分だ———
「———窓原、俺も行く!このままお前らの本拠地に誘導する様スザクとやらに伝えて向かえ!———」
俺の身体は、窓原の返事を聞く前にトラックの上に乗っていた。屋根には大きな穴がありそこからBOWが入ったというのが一目瞭然だった。
———約束通りだ。これで不安な事はないだろう。さあ行け———
身体に力が戻る。もうこうなったら行くしかない。車に戻ったところでどうせさっきの声がまたここに飛ぶだろうからな。最後に息を整えてから、俺は穴にへと向かった。




