3 ルシェラの日記
1話をちょっと書き直しました!
少しだけ内容が変わっています。
(ルシェラへの嫌がらせがパワーアップしてます)
「夜会とは言うが、ルシェラは一度も参加したことがなかったじゃないか。我が家主催の夜会も、出たくないといって部屋に……」
「あ、うちでも開催してるんですね!」
さすが侯爵家!
王城へ行くのも楽しそうだけれど、家でやっているのであれば参加しない手はない。
「いつですか?」
「え? あ、明日の夜……だが……」
「明日! すぐじゃないですか! 私も参加するので、よろしくお願いしますね!」
「あ、ああ……」
そうと決まれば、明日のためにいろいろと準備をしなければいけない。だって自室の衣装部屋には、ドレスが四着しかなかったのだから。
(別に地味なドレスが駄目っていうわけじゃないよ? でも、ルシェラちゃんの社交界デビュー? になるわけだし、華やかに着飾らなきゃでしょ!)
「私は準備がありますので、これで!」
美桜は執務室を飛び出して、「リノちゃーん!」と朝に一方的に仲良くなったメイドを呼んで部屋へ戻った。
執務室からは「許可なんてどういうつもりですか父上!!」という叫び声が聞こえたが、知ったことではない。
***
――翌日の夜。
「え、夜会にお姉様が参加されるの?」
鈴の鳴るような声で言ったのは、ピンク色のドレスと、キラキラ輝くたくさんの装飾品に身を包んだ少女だ。
彼女はコーデリア・スリズィエ。スリズィエ侯爵家の次女で、ルシェラから見れば二歳下の妹にあたる。
「ああ。だが、今まで夜会になんて一度も出たことはなかっただろう? 家の迷惑になることは目に見えている」
歓談室のソファに腰をかけ、頷いたのは長兄のレイドリックだ。
「迷惑どころではないわ! だってルシェラお姉様は、今までなぁんにも勉強をしてこなかったじゃない!」
どうしてお父様は許してしまったのかしら? と、コーデリアがため息をつく。
「それに今日はアレクシオ様がいらっしゃるのよ。わたくし、絶対に婚約者になりたいのに……お姉様のせいで不利になったら」
コーデリアは表情を顰めながら、ギリと爪を噛む。自分のこれからの華やかな人生を、ルシェラに邪魔されるなんてとんでもないと思ったからだ。
それは、レイドリックも同様で。
「俺は次期当主だ。コーデリアが王族になれば、家の権力だって強くなる。ルシェラに足を引っ張られるのは、困るんだよ」
「ええ、ええ、本当に! でも、お姉様には何もできませんわ。ドレスだって流行のものを持っていないし、上手く会話もできなくて、おどおどして終わり……じゃないかしら。でもそうなったら、わたくしが引き立てられていいかもしれないわね」
なんて考えて、コーデリアはクスクス笑う。
「でも、お姉様が夜会に出るなんて……リノは何も言っていなかったのに」
「リノ?」
「お姉様に付けてあげてるメイドよ。ちゃんとお世話するように、わたくしが言いつけてるの。いい働きをすれば、わたくしの侍女にしてあげてもいいわ」
コーデリアの言葉に、レイドリックは失笑する。
「お前が平民の使用人を侍女に?」
あり得ないだろう。レイドリックが暗にそう言えば、コーデリアはこれが返事だとばかりに笑みを深めた。
ルシェラが夜会に出ると聞いて嫌な気分だったけれど、無様に振る舞うであろうルシェラを見るのは楽しみかもしれないとも思う。
もうすぐ始まる夜会は、スリズィエ侯爵家が主催する定期的な夜会だ。半年に一度ほどの周期で行われていて、多くの王侯貴族が参加する。
今日も、コーデリアが夢中になっている第一王子のアレクシオ・アルセリアが参加予定だ。
「アレクシオ殿下も、そろそろ来るころじゃないか?」
「そうですわね!」
すると、タイミングよく談話室にノックが響く。入室の許可を出せば、コーデリアの侍女が「アレクシオ殿下がいらっしゃいました」と知らせを持ってきたようだ。
***
「ルシェラ様、夜会が始まってしまいましたが……行かなくていいんですか?」
「ん? ん~~……」
美桜は夜会へ行く支度を終えたものの、自室であるものを見つけてしまい足を止めえていた。
それは、この身体の持ち主――ルシェラの日記帳。
(まるで呪いみたい)
日記が、この世界の文字が読める! なんて美桜が思ったのも束の間で、その日記の内容を見て心が痛んだ。
それは、ルシェラが今までされてきた仕打ちが記録として残っていた。
(ルシェラちゃんは、ずっと一人で生きてきたんだね)
日記の中のルシェラ・スリズィエ。
幼い頃に母親を亡くすと、すぐに父親は新しい妻を子供とともに屋敷へ連れてきた。兄妹になるのに同い年だということは、父親が外で浮気をしていたことに他ならない。
それだけでも悲しかったのに、後妻とその子供たちはルシェラを快く思ってはいなかった。
無視をされるなんて当然、衣食住の世話も最低限。綺麗だった髪はぱさついて、栄養が足りず不調な日が増えた。
ルシェラを心配する使用人は後妻に暇を出され、あっという間に屋敷内にルシェラの味方はいなくなってしまったのだ。
そんなことが書かれている日記の最後のページには、『死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい、会いたい』と綴られていた。
「死にたい気持ちはわかるけど、会いたいっていうのは?」
誰に? と、美桜は首を傾げる。
「あ、お母さん……?」
先に旅立った母親に会いたいと願うのは、至極当然のことだろう。
母親に会って、抱きしめてもらった孤独を埋めたいと思ったのかもしれない。
「なら、ルシェラちゃんは……自分で命を絶った? でも、身体は特に不調もないし」
食事が少ないため疲れなどは多いけれど、病気をしているとか、怪我をしているとか、そういったことはなかった。
いたって健康体だ。
「…………死にたいって、どれだけ辛い毎日だったんだろうね」
美桜はぽつりと呟いて、部屋を見回す。
昨日会った家族――エドワードとレイドリックは、ルシェラはほとんど部屋から出ないと言っていた。
つまり、引きこもっていても自分を守ることはできないのだ。水をぶっかけて起こしたメイドのリノがまさにその一角なのだろう。
「私は、ルシェラちゃんの身体で生きていていいのかな?」
死を望んだ少女の身体を、勝手に動かして。
「でもま、落ち込んだ時は筋トレっしょ。ダンディス様も、筋肉はすべてを解決するって言ってたし!」
まずは健康になってから考えるのが吉。
ということで――と言いながら元々死ぬ気なんてまったくなかった美桜は、にんまり笑顔でリノを見た。
「さっ、敵情視察に行くよ!」
「えっ!? 夜会に参加、されるんですよね!? なんですか、敵って! というか、私を連れ歩くのもやめてほしいんですが……!!」
リノが抗議してくるが、美桜はまだこの世界のことを把握できていないので案内人は必要だ。
日ごろのルシェラの様子だって、聞いておきたいと思っている。
「私のドレスアップを手伝ってくれた時点で、共犯みたいなものじゃん?」
そう、今の美桜――ルシェラは夜会用のドレスに身を包んでいる。
白色を基調にした淡いドレスに、差し色は桜色と水色の二種類。髪はハーフアップにしてオイルを付けて、花とリボンの髪飾りでまとめている。
花の妖精が現れたと言われても、きっとみんな信じてしまうだろう。ドレスアップしたルシェラは、それだけ美しかった。
美桜はダンディスが出てくるアニメのオープニングテーマを口ずさみながら、「友達一〇〇人できるかな~」なんて笑う。
(家の中にルシェラちゃんの味方はいないみたいだから、まずは社交界で友達を作ろう)
そうすればきっと動きやすくなるだろうし、今はもう存在していないかもしれないけれど――ルシェラにとっても、きっとそれがいいと美桜は思ったのだ。
(だってもしかしたら、ルシェラちゃんはまだいるかもしれないからね)
異世界転生に憧れる高校時代の同級生の田中だったら、それは前世の記憶だからナイナイ――なんて言われるのだろうけれど、美桜はルシェラと友達になれたらよかったのにと心の中で呟いた。




