第8話_侵入の罠と脱出の兆し
デシラ王国への侵入をする前の日の夜、リーンはレオンの情報が乗ったカードを見ながら考えていた。
(カーターには伝えてないけど、侵入するときは問題ないとして、脱出する際の成功率は、せいぜい30%ってとこね。私一人の力だけでは限界があるけど、カーターとレオンの力があれば......あるいは)
風の音が聞こえる室内で、ミアを抱えながらこうつぶやいた。
「はあ、何でこんな博打に挑戦しようとしたんだか......ねぇ」
「みゃう」
「あんたは今回は連れていけないわよ。」
そのミアにそう言うと、まだ口の中に残る昨日流した血の匂いが消えないまま、眠りについた。
翌朝、カーターと合流したリーンはあきれていた。
「あんた。その恰好は何?どう見ても一般客に紛れられないじゃない。昨日も伝えた通り、昼に決行するということは、一般客に気を紛らわすためなのよ......」
カーターは、一般客とは一線を画す真っ黒な動きやすそうな服装でマスク、眼鏡、黒い覆面姿で来ていたのだ。
「いや、プロってのは形から入るもんだろ?黒は影に紛れる最強の色じゃんか!」
カーターはそう言うとリーンは首を横に振りつづけている。
「そもそも今回の影は一般客なんだから黒だと逆効果でしょ......でもまあそうだろうと思って、上着は持ってきたわ。覆面は取って眼鏡だけにしなさい。」
リーンにそう言われ、カーターはその通りにした。
「それじゃー。レオン救出作戦スタートと行こうか!」
カーターはそう言うとあきれるリーンを横目に意気揚々と城に向かって歩いて行った。
「はあ、うるさい。」
(守衛の位置、侵入経路に入るまで完璧すぎるわね。そしてこの守衛たちからまるで感情がない。)
当初の予定通り、西側に警備が集中していたが、一元管理をしているかの如くどの守衛も同じタイミングで同じ方向を向くように教育されていて死角が丸わかりのようだった。
「......まるでロボットね。。じゃあ、予定通り橋の下に向かいましょう」
リーンはそう言うと、カーターは頷いた。
「誰にも見つかることなく、侵入は出来たようね。」
橋の下にある、つたやコケだらけの木のドアを開けて、東棟に一直線の道を進んでいた。
東棟に行く真ん中あたりで途中でリーンが止まった。
(かすかにだけど風を感じる......ここが工事関係者の入り口かしら)
何もないただの壁に恐る恐る手を触れるとその先は、上へと続く階段があった。
(想定通りってことかしら)
「脱出経路を確認したわ。ここね。」
リーンに続いてカーターも壁に触れ、その先に道があるのが分かった。
「あの情報屋のばあさんのとこみたいな仕掛けか。城の中にもあったとは......まあいい、脱出経路が分かったんだからあとはレオンを助けるだけだな!」
カーターはより急いで歩く足を速めた。リーンもそれに続く。
(期待、、カーターにあった不安がなくなったわね)
その後も予定通りに守衛のプログラムされたかのような動きに対するように進んでいった。
(ここね。この先から人の気配や感情が見えるわ)
リーンは東棟の地下二階にある部屋の前で立ち止まった。
「おーい。レオン。聞こえるか?」
カーターがそう小声で話すと壁の向こうから鳴っていた剣を振る音が止み、ドアのほうへと歩いてくる音が聞こえた。
「その声....カーターか!」
何日もしゃべっていないようなしゃがれた声でそう聞こえてきた。
リーンはその声を聴いて、眉をひそめた。どうしてこうなったのか。
「そうだ。この城から助けに来た。脱出経路も確保済みだ。」
そう言うとカーターが、ドアに手をかけた瞬間に微弱な電気が体を走るのが分かった。
「あ......やば......」
(ここまでは順調ね。後は脱出するだけ)
その刹那、警報音が鳴り響いた。
『侵入者を発見。侵入者を発見。直ちに捕獲すること。』
「どういうこと?」
リーンはそう尋ねたが、声を遮るかのようにカーターはつぶやいた。
「説明は後だ、レオンすぐ動けるか?脱出場所は東棟と西棟の間にある。」
「分かった。すぐ動けるからドアを開けておいてくれ......ん?女?」
レオンはドア越しにいるリーンを見て少し驚きつつも続けて説明をした。
「守衛たちの動きもある程度わかるから、俺についてきてくれ。」
そう言うと、レオンに続いてカーター、リーンは脱出場所への最短経路で進んでいった。
「ここよ」
リーンは、工場関係者用のところに、レオンとカーターを案内すると壁の中に続けて入っていった。
「ここまでくれば安心ね。私はリーン。カーターよりレオンの依頼を受けてここにいる」
階段をのぼりながら、レオンにそう言った。
「俺はレオン。デシラ王国の次男だよ。こんな危険なところまで助けに来てくれてありがとうな、リーン。そしてカーター」
「そしてカーターなんでドアに手をかけた瞬間に警報音が鳴るのが分かったんだ?」
そういうとカーターは安堵した感情のままこう答えた。
「いやな、ドアに触れた瞬間、微弱な電流を感じたんだ。直感的にやばいと思ったんだよ」
レオンは少し沈黙して考えて、ハッとしたが何も言わなかった。
そう言うとリーンは階段の先を指さした。
「もう少しで出口よ。いつまでもこんなに暗くて湿ったところにはいたくないわ」
そう言い、階段の先の出口に向かった。
階段の先のドアを開くとそこには、レッドカーベットが引かれていて、目の前にデシラ国王と長男と長女が拍手をしながら立っていた。
レオンを家族とも思っていないような殺伐とした不穏な空気感が漂っていた。
「ほう。工事者専用の抜け道とは、大したものよ。だが残念だったな。工事関係者は毎朝ここで異物を持ち込んでいないかの確認のため、必ずここを通るのだよ。」
国王がそう言いながら、床が磁石のように足元を固定された。
(まさか、抜け道の先が王の間につながっているとはね。性格の悪いこと)
全員が驚く間もなくその場にうつむいて跪いた。
数刻立ち、国王はお茶を一口飲み、レオンに家族とは思えない目を向けながら質問した。
「さて、レオン。お前は侵入者がどうなるかわかっておるよな?」
「......地下牢に閉じ込められて餓死か、その場での処刑だろ。性格の悪い......」
レオンが答えると、国王は頷いた。
「この通りだ。お姉さんと元守衛さんよ。さあどちらがいいかな?」
リーンは、間違いなく殺されると感じていた。次に発する一言が人生最後になるかもしれないと。
「ねえ、国王様、ほしいもは持ってない?最後に食べたくて......」
「回答をする前の最後の晩餐ということか。いいだろう。持ってこい。」
国王は側近に声をかけ、探してくるように指示した。
(これで幾分かの時間は稼げそうね。)
リーンがこう考えていると、カーターは意を決した表情で国王に訴えた。
「この計画は彼女に俺が持ち込んだものだ。何か処罰を下すなら俺だけにしてくれ。俺はどうなってもいいから」
カーターは必死に国王に訴えたが首を縦に振ることはなくこう言い放った。
「この城の秘密を知っているものすべてを生かしておくわけにはいかないのでな。それは聞けぬお願いだ」
(!!秘密を知っている者は処刑......これは生かせるわね)
そうリーンが思い再び国王に発言した。
「......電気を使った感応式のセンサーの秘密をこの中の誰かが持っているといったところかしら。そしてそれがばれると電気を通さない道具があれば、この国の宝は持ち逃げされてしまう。」
その場にいる全員が驚いてリーンのほうを見た。
「ほう。では続きを申してみろ」
国王がそう言うと、リーンはこの場にいる全員の感情を見て続けて発言した。
「そしてその秘密を持つものは......あなたね。」
リーンが指を指した瞬間、長女の足先がわずかに震え、床と磁石が擦れる微かな音が静寂に響いた。
「へ、へぇ、なぜ私だと思ったの?」
長女がそう言うとリーンはじっと見つめた。
(彼女が一番、この発言に対しての動揺があった......とは言えないわね)
「まず、この秘密を知っている者をすべて生かしておくわけにはいかないというセリフね。この段階で身内の中の誰かであることは分かるわね。そして彼女だけ今の状態に対して引き続き”何かに”集中している。それは足元にある鉄板と関係している。緊張を解けば、足元の仕掛けが外れてしまうから......理由としてはそんなところかしらね?」
長女が何も言えずにいると国王がこう言い放った。
「面白い。さすがとしか言いようがないな。側近をこの席から外したのもわざとか?側近も知らない秘密であることはすでに見抜いておったか。」
リーンは頷くと、国王が笑いながら続けた。
「ははは。この行き先の見えない脱出経路の発見と実行するその度胸やわしを感服させる観察眼は見事よ。彼女に免じて一つゲームをしよう。クリアできれば全員を解放してやろう」
一筋の望みがつながった瞬間だった。
次回更新:7月20日(月)18:30




