エピソード3:旅商人、リアンの朝
私にとって、記憶を失ってから初めて迎える朝だった。
昨日までは行く当てもなかった私にも、今日は約束の時間があり、隣にはリアンがいる。
旅商人の助手としての、新しい一日が始まろうとしていた。
旅商人、リアンの朝は早かった。
約束通り朝6時に宿屋の前に出ると、リアンはもう行商の準備を始めていた。
「おはようございます」私がそう声をかけると「おお、ちゃんと起きれたか。よく眠れたか?」リアンがにっこりと問いかけてきた。
私はそれにこくんと頷いた。
改めて積み荷を見ると、リアンはどうやら衣類を生業とする旅商人だったらしい。
いつの間に服を調達したのかとおもっていたが…と私は一人納得した。
「今日はアステード北部、’’ヴェル―ラまで行くぞ’’」リアンがそう言った。
私は頷き、荷馬車の後ろに脚をぶらぶらさせた状態でちょこんと座った。
ヴェル―ラという街は活気のあるところだった。
その一角にリアンは馬車を止めた。
「先に露店料を納めてくる。」
リアンはそう言い残すと私に馬車車を任せ、役所で木製の営業札を受け取り、露店へ戻ってきた。
「さて、今日も商売繁盛を願って…だな。食いぶちも増えたことだし。」
リアンのその言葉に、私は少し俯いた。
いきなりリアンに拾われた…拾ってもらった私。
そのせいでリアンの負担にならないか、とここで初めて考えたのである。
そんな私を見て、リアンが言った。
「おっと…気にさせちまったかな、俺はこう見えて一流の旅商人だ。一人養うくらいなんてことない、その分働いてもらうがな」そう言ってガハハと笑った。
「私…頑張ります、ありがとう。」私はペコリと軽くお辞儀をした。
昼前にもなると、露店の通りは更に賑わいだした。
「安いよ安いよー!良いもの揃ってるよ!」リアンが大きな声で客を呼ぶ。
ちら、っと私を見てリアンがウインクする。私にもやれということだろう。
「お安い衣類をご提供します…!」私は緊張しながらそんな風に、リアンを真似て呼び込みを始めた。
「あら、この服良いわね…お値段は?」一人の老婦人が声をかけてきたのをきっかけに、その日店は大繁盛だった。
夕刻になり、露店を締める作業をしていると「お前のおかげで大盛況だ、小娘とはいえ顔の整った奴がいるとこうも変わるんだな…明日はまた新しい衣類を仕入れに旅に出るぞ」…そうリアンが言った。
私はリアンの力になれたことは嬉しかったが、『顔が整っている』という点に関しては不思議だった。
今日は、お客さんという形で様々な人物に出会ったが…昨日鏡で見た、私の容姿がそこまで整っているとは感じなかった。
また、緑や赤、白や青の髪色が多い中、私のような髪色と瞳の色の人はいなかったのである。
『たまたま…かな。』私はそう心の中で呟いた。
その日の夜は、ヴェル―ラの宿に泊まった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
記憶を失った少女が、旅商人リアンと出会い、初めて「居場所」と呼べるものを見つけ始めた一日でした。
リアンは豪快で少し大雑把ですが、とても面倒見の良い人物です。
これから二人は各地を旅しながら、さまざまな街や人々と出会っていきます。
ですが、主人公が気にしていた「他の人とは違う髪や瞳の色」、そして失われた記憶には、まだ誰も知らない秘密が隠されています。
この旅は、ただ商品を売るだけの旅ではありません。
一つひとつの街での出会いが、主人公の過去へと繋がる小さな欠片になっていきます。
次回は、新しい仕入れ先へ向かう道中で、二人は思いがけない人物と出会います。
その出会いは、主人公の運命を少しずつ動かし始めることになるでしょう。
次回も、ぜひお付き合いいただけると嬉しいです




