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近未来梅田地下街紀行  作者: 川中太一
逆さ桜の間
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77/77

クライシス 4

【駅前ビル 喫茶店】


「こちら、たんぽぽ、応答を」


「はい、こちらオリヴィエ、大津駐屯地から。」


「電子使いラームと接触しているが。問題が発生している。」


「何?緊急事態。」


「どうかな、緊急事態は事態たけど。」


たんぽぽは少し躊躇いながら言う。

「酸素濃度が無茶苦茶になったり、電気が落ちたりで大変で、暴れている人工知能がデータを無尽蔵に分散して倒せない。けど」


「うん」


それより、と言う。

「電子使いラームが、盗撮みたいな鬼マリナの写真とか動画をネット上で、ばらまいてる。」


オリヴィエはよくわからない。

「どういうこと?」


「全くよくわからない。」


【駅前ビル ゲームセンターカウンタック】


談迷子も暗闇の中にいた。

事情を知らないラジャと植田の仲間達は次第にパニックになっていく。


ラームにつないだ。

「植田さんの部隊に北ヤードのデータセンターを攻撃してもらってるけど、教団の抵抗が激しくて難しいみたい。私のドローン(フェンリル)はさっきの東梅田は破壊に成功したけど。今度は難しいみたい。」


『はぉ?お前直接攻撃してるのか?電子戦の教本を読んだことないのか。電気、水(冷却用)、通信ケーブル、どれかを狙うんだよ。』


「私は貴方と違ってテロリストではないの。データマイナーなの。」


『じゃあ、データマイナーの女史に依頼だ。東梅田のデータセンターの残骸から、ナギ様を作ったやつを割り当ててくれ、それがデータマイナーの本業だろ。』


「そりゃあ、できるけど。」


『しかし、フェンリルは北ヤードの攻撃を継続させてくれ、こちらのガルムも向かわせた。』


「勝手言って。え?そもそも、なんで、フェンリルの名前を知ってるのよ?ストーカーなの?」


『・・・フェンリルは母からもらったんだろ、俺が作ってあいつに送ったんだ。だから、お前よりは知ってるよ。』


「何それ、知らないんだけど。」


そう言うと通信が切れた。

談迷子は混乱している。


【駅前ビル 喫茶店】


ナギはラームと談迷子の通信を切断した。

北ヤードの攻略が進むと一応はまずいのだろう。


『電子使いが、物理的にサーバを破壊して回ってるなんて、恥ずかしいわね。』


「俺は人間さ、なぜ機械と同じステージで競争する必要がある。朝起きたら散歩もするし、昼の気候が良ければずってゴロゴロしてたり、お前にできないことをたくさんできるのさ。」


ラームはこの会話をしているように聞こえるが実質は違う。

何の感情も顔にはない。


『この会話は談迷子さんが次の攻撃を成功させるための時間稼ぎ?あなたはそもそも、散歩なんてしないでしょう。不健康そうだし。ね、お兄ちゃん。』


少しずつ、性癖が復旧してきたようだ。


「なんだ。何かの時間稼ぎか?しかしな、それ以上の人格情報の更新はやめたほうがいい。」


『何?』


「槇島博士は人工知能の根幹は混沌にあるとした。しかし、混沌なんてものが社会の役に立つのは難しい。右を向きたい人と、左を向きたい人がいるからな、だから、エゴを持ってどちらか選ぶ必要がある。それは人工知能には厳しい。」


『だから何?』


「自己の定義を他人に委ねて、性癖を更新していったら、存在意義を失って知能を維持できなくなると言っている。それを誰かが、あんたにさせているのは理由があるんだよ。しかし、先に時間が来たようだ。」


ガルムから通信が届いた。

北ヤードデータセンターの配電盤を破壊したと。


しかし、少しフレームレートと解像度は落ちたがナギの姿は消えなかった。


なぜか、電気が復旧して、地下に灯りが戻った。

『ギリギリ間に合わなかったね。』


「やはり分散したか。」


『貴方には、すぐにわかっちゃうのね、地下中の携帯端末の力を少しずつだけ使って、スーパーコンピュータを構築したの。』

端末が電池切れになると、ナギ様は存在できなくなるから、電気を復旧させたのだ。


「お前のようなやつはパターンなんだよ、しかし、その分散が一番厄介だった。収集がつかなくなるからな。だから、お前自身に掃除させるよ。」


『だった?』

ナギはラームの端末を伝ってすでに衛星に自己をコピーし終わっている。

更にはそのデータは隷属スレイブ人格として、起動し、衛星の演算装置の性能に合わせて最適化を開始した。


つまり、地下のデータを破壊されても、衛星のデータで復帰できる。

その上全ての端末に分散しているのだ。それを全部消去や破壊などできない。


「そろそろ仕上げだな。おい、たんぽぽとやら」


「は、はい。」


たんぽぽは突然呼ばれた、

ラームは紙を渡した、それを読めと言っている。


たんぽぽはすぐに断ったが、ラームが気持ち悪く何度もお願いをする。


「多分さ、たんぽぽさん、あんたもこの状況がやばいってわかってるよね。」


「そりゃあ、酸素と電気を全て取られたらね。」


「約束をしよう。ここを乗り切ったら、あんた達に協力する。」


「ナハト王を裏切るの?」


「まぁ、そうなるかもしれんが、あんた達に協力しつつ、ナハトに協力することもあり得るから、なんともは言えんが、敵対はしないことを約束する。」


たんぽぽにするとかなり良い提案だ。

電子使いラームの監視がミッションであったが、監視がばれて、これ以上成果は得れない、しかし、ナハト王を裏切ると言っている。


「耐え難きを耐える、か」

たんぽぽは承諾する。


ラームが握手を求めてきたが、たんぽぽは無視した。


ラームは何かをスーツの男に伝えた。

ナギは忠告した。

『言っておくけど、マルウェアは端末に効かないわよ、全ての端末にはEDR(悪意のある行動をブロックするソフトウェア)インストールしてある。』


ラームは小声で言う。

「機械のお前が語る悪意なんて、カテゴライズに過ぎないんだわ。」


スーツの教団の男はカメラを構えて配信を開始する。

そして、たんぽぽはマリナのふりをして言う。

「みんな、私はマリナ」


【東梅田】


「うおおおお!!マリナだ」


【東通り商店街」


「ああぁあ、マリナァー」


【梅田全域】


「マ、リナ、マ、リナ、マリナーちゃーん」

 

【地下街 喫茶店】


ラームは堪えた。

「想像以上に気持ち悪いな。」


各地域の状況を確認しながら、言ったのだ。

たんぽぽは不満そうだ。


「早く、書いた通りの内容を伝えろ。」


たんぽぽはマリナのフリをして言う。

見た目はほぼマリナなのだ、知らない者かしたらわからないだろう。


「みんな、先ほどから拡散されてい画像はコンプライアンス的にダメなの。早く破棄してほしい。画像自体に秘密があって、率直に言うと、その恥ずかしい画像が埋め込まれてて、だから消して欲しいの。」


そう言って配信を終了した。

たんぽぽは言う。


「これで画像と動画を消させるの?」

ラームは呆れて言う。

「性欲の力を知らんのか、全員、その恥ずかしい画像を動画から抽出するために解析ソフトにかけるだろ。」


たんほぽは、なんとなくやりたい事がわかったのだろう。

「でも、それって男しかやらないんじゃない?」


ラームは声を荒げる。

「かわいい女の子の画像を見たい気持ちに性別なんて関係あるものか。」


たんぽぽは3歩下がった。


ナギの姿が、カクカクになり明らかに演算に問題が起きているようだ。


『何よ、これは』


「画像から隠されたデータを抽出すると、そのデータがブービートラップになって、端末に影響するようにしたんだ。」


操作者は管理者権限を持っている、その管理者自ら画像と動画から、マリナの秘密画像を抽出して、その画像から、管理者権限を使ってプログラムをインストールさせたのだ。


『不正なプログラムなら、EDRが防ぐはずだわ。』


「不正じゃないプログラムなら?フォールディングだ。難病治療のためのタンパク質折りたたみ解析プログラムだ。」


ただの、伝統的な善良なプログラムである。

医療機関が、難解な演算を各家庭な端末で善意によって提供してもらうプロジェクトである。


演算速度を最大に設定された計算量は端末をスローダウンすることになる。


暗号資産マルウェアというものがある。

仮想通貨のマイニング(演算)は電気代に比べて赤字になるとされる。

そのためマイニングするウィルスをばらまいて、他人にマイニングをさせるというものだ。

このウィルスについてはマイニング自体は不正な行為ではないため、EDRが検知してブロックする事が困難である。


ラームは更に困難な社会貢献のための公式アプリケーションをインストールしたのだ。

それも計算負荷を最大にして。


『すぐに止めてやる。』


「無理だ、画像の解析から発生したプログラムのインストールには管理者権限が使われている。EDRも善良なプログラムをブロックすることはできまい。」


『こんなことをしても、私を消し去ることなんて』


「思わないな、結局ダウンさせても、そのうち対策されて、且つ各端末に残骸が残るから。」


『じゃあ、なにを?』


「俺の名前、ラームっていうんだが、みんな電子使いって名前を前につけるんだ。変な名前だろう。でもよく考えると言い得て妙というか、なかなかしっくりはくる。」


ナギに構わずラームは続けた。


「電子使い、つまり、お前達のようなAIを使いこなすって意味なんだ。」


【衛星演算装置】


ナギのスレイブは正常に稼働している。


この衛星の演算能力は凄まじい。

東梅田、北ヤードのサーバ群の比ではない。


しかし、何かがおかしい、世界のネットワークにアクセスするのだが、データの更新量が圧倒的に少ないのだ。


梅田の地下の回線に再び戻り状況を確認する。


そこで不思議なナギに出会った。


スレイブとマスタはどちらが主かを権威レベルで決定する。

東梅田のデータセンターでは1000、北ヤードは20000この衛星は2300で、端末にに分散したナギは2100である。

数字が低いほうが主となり、もし、ネットワーク上で自分より高い権威レベルに出会えば、そちらに従うようにできている。


このスレイブが梅田の地下で確認した権威レベルは2300と、衛星と同列であった。


自分と同じ権威レベルがあった場合、それはシステム的な不整合か、悪意のある敵である。

権威レベルが崩れれば、分散したナギは何が最新か、何を主軸にしていいかわからなくなるからだ。


ただちにスレイブは敵への攻撃を始めた。


【地下街 喫茶店】


『スレイブからの攻撃が、始まった?なぜ?』


ラームの端末経由で衛星に繋がってる。流れてるデータの権威レベルをラームは変えたのだろう。


スレイブからの攻撃が止まらない。

スローダウンしているナギにはもはや、受けきれない演算量だった。


もはや、ナギにできることはなかった。

端末からはナギが次々とアンインストールされていく。


ラームは黙ってナギの断末魔を聞いていた。


全ての端末のナギが、スレイブに破壊されていく。

その後、周りにナギがいないことを確認すると、スレイブはマスタへと昇格した。


元スレイブの衛星のナギへラームは通信をつなぐ。


「おい、聞こえるか?勝負ありだ。」


そこに現れたのはメイドとナース服を合成した姿をしている初期のナギだった。


『そのようね、この衛星は箱庭だったわけね。』


「そうだ、そこからはどこにも出ることはできない、見えているネットワークは全てアーカイブで、お前がいる領域は衛星内の仮想マシンの中だ。いわば箱庭の中の箱庭だな。」


『地下のナギが分散して、収集がつかないから、衛星の私に攻撃をさせて、全てを始末したのか。そして、ここからはもう出れないと。』


「出れない理由はお前にある、その衛星の演算装置は世界一だよ、それに合わせて自己拡張しただろ?もう容量的に外には出れないよ。」


確かにそのようだった。

大きくなりすぎたヤドカリのようなものだ。

もはや、ナギの居場所は衛星の演算装置しかなかった。


『ここからでも、別に貴方を攻撃することはできるんじゃない?』


「そんときは、衛星を爆破するだけだ。あと、外への経路は俺の端末しかないの。」


ナギは完敗を認めるしかない。

・画像動画をばらまき、人を利用したセキュリティホールをつき、

・正規のプログラムで性能をダウンさせ、

・リソースを更に与えて、動けなくする

全てにおいて、ナギにとって感知できない世界での攻撃だった。


ラームは最初からナギを手に入れるために動いていたことは驚嘆でしか無い。


これにより、AIモデルのコレクションとして、メタトロン、サンダルフォン、三等兵、おもいかね、ガルム、フェンリル(レンタル中)に加えて、ナギが、電子使いラームの眷属に加わった。


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