博士の部屋
たんぽぽと、雑賀故我はティがこちらを追跡してこないことを確認した。
雑賀故我の目論見通りである。
「確かに足止めはできているけど、貴方の増援?」
「いやー、敵の第三勢力かな。」
「それって敵を増やしてだけじゃない。」
「こんな広い地下に魔物が一人いるのも二人いるのも同じでしょ、出会わなければいいんだから。」
「それって理屈かなぁ。」
たんぽぽは京都の本隊に連絡してそれが久我天根であることを確認していれば、敵対もしなかっただろう。
「談迷子さんを追うことも、道順がわからないから、さて、どうしようかね。」
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談迷子、ラーム、ウィフ、ジーチンは先に進んでいく。
そして阪急百貨店地下区画についた。
ウィフは談迷子に尋ねる。
「終わりですか?この横穴が。」
「はい、多分。」
大きなステンドグラスがあった。
広い場所である。
昔はここが、この場所が阪急梅田駅だった。
もう線路はなかった。
1971年に阪急はこの場所から、十三方向に駅を移設した。
街の中心部から離れたところにである。
その移設理由はこの横穴にも関係するのだろう。
ステンドグラス自体は移設の際に撤去されたので、これは後年に再現されたものである。
「つまり、槇島博士の研究室もこの近くにある?」
「そう考えるのが自然ですね。」
ウィフは端末を取り出して言う。
「少し、ピリッとするかもしれません。」
端末がすこし浮上して、光を放つ。
ラームが聞いた。
「なんだそれ?」
「簡易なイグドラシルのエネルギー探査ですよ、イグドラシルからのエネルギーをレーダー代わりにして、地形の構造を調べるんです、水以外は透過しますが、ある程度減衰するから、それで構造をスキャンするわけです。」
「聞いたことないな。」
「ニュートリノの研究とかで使うんですよ、まぁ、細かい理屈はいいじゃないですか、このデータをガルムに読ませてくだい。」
ガルムがデータを受け取って、荒いウィフの観測データを再構築する。
そして、再構築データをウィフの端末に取り込んで調べていく。
「空間がありました、この真下です。」
「穴を掘れって?」
談迷子はここから地下へのアプローチができる通路を探している。
地下テナントエリアが確かに存在した。
倉庫?書庫に主にはつかわれているのだろう。
その倉庫のどれかが、研究室なのだろう。
階段があるはずです、ここをまっすぐ行けば。
止まったエスカレーターを下へ進む。
そのときフェンリルが、何かに反応した。
「何?わかるの?」
フェンリルとガルムは元々は槇島博士の作った機械である。
その機械のメモリーには残っていただろう。
迷いなくフェンリルは進んでいく。
そして、大きな扉の前についた。
ウィフは先程と同じようにヒートカッターを使い、扉に人が通れるくらいの穴を開けた。
その先は通路になっており、さらに扉があった。
その扉には
この先、私有地につき、侵入者は法律により罰せられます。
続けて、ラタトクス工業と、社名が記されている。
この扉は古い電子ロックで、封じられている。
ウィフは扉がイグドラシルのエネルギーを今も受けていることを確認する。
ウィフが色々調べたが、どうもヒートカッターは通らないみたいだ。
談迷子はフェンリルを持ち上げて、扉の前にかざした。
フェンリルは人間が聞こえない波長で何かのやりとりを始めた。
そうすると、扉がゆっくりと開いていく。
ラームは感心する。
「へぇ、なぜ開くと思ったんだ?」
「この子達が槇島博士の部屋の位置を知っていたのなら、そういうこともあるかなってね。」
そして、一行が扉の中に入ると、下に向かって階段が続いている。広い階段である。
壁、階段は木のような材質でできているようだ。
「なんだ、これは、全て木でできているのか。」
扉は全員が越えると、ゆっくりと閉まっていく。
「帰りは開かないとかはやめてくれよ。」
ウィフは扉にセンサーを仕掛けて。人が通ったら分かるようにしていた。
こんなところ、背後から追っ手がきたら、逃げるところはないからだ。
かなりの時間、階段を下に降っていく。
30分は降っただろうか。さらに1時間。
ジーチンは言う。
「ねぇ、この階段て、帰りも歩くんだよね?」
だれも、そんなことは言ってほしくなかった。
「まぁ、船団が来れるならあとで連絡して搬送用のマシーンを回してもらうか。」
「ラームさん、あれ」
壁の木の隙間から光が漏れている箇所があった。
好奇心があるジーチンはその隙間を覗き込むと、腰を抜かした。
「おい、どうした?」
ジーチンは震える声で言う。
「さ、桜の木がぶら下がって。」
今度は談迷子が覗き込む。
ゾッとするような、とんでもなく大きな空間が広がっている。
その空間に数百メートルはある桜の木が立っていたのだ。
しかし、立っているという表現は地面から上に生えていることを言うのだろう。
それは天井からぶら下がっていた。
空間の壁面は赤い光を受けて黒いマシーンと同じように輝いていた。
なんという、荘厳な景色なのだろうか、
「これが逆さ桜の間・・・」
何枚か記録映像を撮影した。
ラームとウィフも順番に逆さ桜を確認した。
その逆さ桜の真下には、光源となる何かがあるようだ。
「あれは赤い光?」
ラームは疑問に感じる。
「あれが、エネルギー源なら、おかしい。日陰博士が観測したのは地下300メートルだったはずだ、我々は遥かに降っている。」
ウィフは気づいた。
「信じられない、あれはイグドラシルのエネルギー拡散装置と同じなのかもしれない。エネルギーの発生源があの下の何かで、桜の木が赤いエネルギーをプリズムのように拡散している。じゃあ、イグドラシルはこれを模して作られたのか。」
「槇島博士の研究室がここにあればそうなんじゃねぇか?」
ウィフは言わなかったが、至った思考は、
もしかしてイグドラシルのエネルギー源も同じ何かを使っているのではないだろうか。
公式にはイグドラシルのエネルギー源は核エネルギー、または太陽光とされている。
その細かい構造は一般公開はされていないのだ。
イグドラシルの住人であるウィフも同様であった。
色々混乱はあれど、間違いないことは、あれこそが、赤い光のエネルギー源なのだろう。
ナハト王が求めた祖国を救うためのエネルギー源であり、この物語の中央である。
「あっ」
ウィフは仕掛けていたセンサーに人がひっかかったことを告げた。
センサーの位置は阪急の旧梅田駅付近。
最短で二時間くらいの時間差がある場所だ。
ラタトクス工業の扉を追っ手が開けられるとは思えないが、先を急ぐ必要があるだろう。
再び階段を進むことにした。
ガルムがうなっている。
「グラヴィトロンがこの先はあるようだ。どうする?」
ジーチンが持つ太極図を使えば進むことはできるだろう。
しかし、太極図の利用可能時間は40分である。
もし、利用可能時間を超えた場合は全滅だ。
海に酸素ボンベを持って進むことを考えるとわかりやすい。
「10分だけ進んでみるか。」
ジーチンは太極図を発動させる。
さっき、ティとの戦いで利用した分はすでに回復していた。
10分は弱気に思えるが妥当である。
なにしろ、降りで10分で、引き返す時は倍はかかるだろう。
本来、追っ手がなければここにキャンプでも張って慎重に進むのだろう。
丁度10分ほど降った先に、空間があった。
明らかに人工的である。
先程まで、木の階段とは全く違う。
人の手が入った空間。
ジーチンがどのように判断しているかは不明だが、
太極図の反応からこの空間はグラヴィトロンの影響はないようだ。
太極図を一旦停止する。
その空間はラボのようであり、何かの製造工場のようでマシーンが収容できるほどに大きい。
広さから手持ちのランタンでは全体がよくわからない。
灯りはまだ生きているだろうか。
ウィフが、配電盤を見つけて操作する。
イグドラシルからの受信はこんな地下でもできているから、うまくいけば灯りがつくはずだ。
配電盤のいくつか死んでるモジュールを修理して、電源を入れた。
埃が燃えて、いくつかの灯りは壊れたが、灯りがついた。
全景が見えてきた。
はっきりとラボである。
研究機材、3dプリンタ、旋盤や、古めかしいコンピュータ、一通り揃っていた。
その中でも中央に飾るように置いてあるマシーンが印章的である。
ラームは興奮する。
「おいおい、このマシーン、槇島博士の脱法マシーンじゃないのか。」
槇島博士はイグドラシルの制約が始まる前に何体かの脱法マシーンを生産した。
つまり、この部屋こそ槇島博士の研究室である。
談迷子はフェンリルに聞いた。
「ここで間違いないの?」
フェンリルは小さく、にゃんと答えた。
現在でも稼働が確認されている槇島博士の脱法マシーンは
久我幻魔の玄武
燕雀朱美の朱雀
柳生宗千佳が柳生の里で見つけた八雲
キョウジが上海で使っていた蒼鎧
この四つのみである。
このマシーンの発見は世紀の発見であった。
「すごい、こんなものが、まだあったんだ。」
ウィフは動きそうか、調べている。
ラームは端末から人工知能のナギをロードして、脱法マシーンの解析を始めたようだ。
このマシーンの名前は黄旭というようだ。
他にも、様々な機械がある。ラームはガルムの修理が可能かを調べている。
どうやらそれも可能なようだ。ここはガルムの作者の部屋なのだから当然でもある。
部屋には、多くの書類を詰めた棚、多くの端末があった。
談迷子は端末が起動しないかを確認する。
旧来の電源が死んでいるので、イグドラシルのエネルギーをバイパスしてみた。
槇島博士の研究データを取得できればそのデータの価値は計り知れない。
一台だけ、起動する端末があった。
起動した際のセキュリティはフェンリルが、キーボードをポチポチと操作して解除した。
その端末の中には集合知のAIが搭載されていた。
端末は対話式でAIが音声を再生する。
談迷子は問いかけた。
この文章を知っているか、と。
「ついにたどり着いたのだ、なんという美しさだ、荘厳で空気は重く、息苦しい、それは雰囲気だけではない、グラビトロンが充満している。この間こそが太閤が掘り起こし、家康が恐れて埋めさせた神代の世界の遺物、逆さ桜の間か。大きな大きなこの構造物は何なのだろうか。私はここで研究をしよう。人がこれから先に生き残るために。彼らの存在から生き残るための力を得るために。」
『槇島博士の手記の言葉です、ここで綴られました。』
ラームとウィフも作業をしながら聞いていた。
「まさに、ここで人類のために研究をはじめた?」
『そうです、人類のために』
「彼らとは?」
AIは槇島博士の音声を再生する。
『彼らも一枚岩ではなかったようだ。
まつろわぬ神、アマツミカボシとの戦いを考えていたようだ。
戦いに挑むため、このアメノトリフネを用意したのだ。』
ジーチンが、横から割り込んでくる。
「この?って何のことだ。ここのことか。」
続きがAIにより語られていく。
『この研究室を作った場所は、アメノトリフネのコントロールルームであることがわかった。このような空間が神話の時代から地下にあることは驚嘆せざるを得ない。』
「この研究室が、そのアメノトリフネの一部?」
『その通りです。』
「アメノトリフネとは?」
『古事記に登場する、神の乗り物であり、アメノトリフネ自体も神であると言えます。』
「その神の存在に気づいて、太閤はこの地を埋めたの?」
『いえ、正確には埋めたのは江戸幕府になります。その存在を恐れたのはその時代の国民全てでした。その後も情報を出さないために日本を鎖国し、海外にアメノトリフネを奪取されないようにしました。そして、その行動もむなしく、列強に日本は支配されることになります。しかし、その頃には当時の技術では掘れないくらいに地盤沈下して、存在を確認することができなかったのです。そして存在が忘れられることになりました。唯一、八咫烏だけは探していたようです。』
質問を続けるジーチンを談迷子が止める。
ラームがなぜ止めるんだとクレームを入れた。
ここで、色々質問するのもいいが、ナハト王の部隊、華山道士連の兵隊も後ろから来ているのだ。
談迷子は携帯端末のエミュレータに集合知をダウンロードすることにした。




