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方向音痴の半竜娘は旅がしたい  作者: 揚げパン大陸
第2章 シャロル海の船旅
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第52話 休息!馬車の時間まで

 魔物問題を解決した俺達の次なる目的地は―――ハートフィル。そう、エリルを故郷に送り届けるためだ。


「ハートフィルって遠いよ~。西の果てだし。海沿いだから船は必須だね」


 宿屋の食堂で朝ご飯を食べながら、クレアがそんなことを言う。


「船!乗ってみたいです!」


 エリルはわくわくしている。意外。長旅してるから乗ったことあるもんだと思ってた。…てか、西の果て…か。遠そうだなハートフィル。


「えーエリル、ハートフィルからずっと歩いてきたの?すご」

「船に乗ったらどこか遠いところに行っちゃいそうで…」


 歩いても見当違いのところに行っちゃいそうじゃん…っていう野暮なツッコミは口に出さず、静かに朝食のパンを口に運ぶ。

 あぁ…そろそろ和食が恋しくなってきた…。白い米が食べたい…。魚が食べたい…。味噌汁飲みたい…。日本料理店とかないかな…。何言ってんだここは異世界だぞ…。


「まずは港町パルマに向かうべきね。そこからシャロル海を船で進めば、比較的楽にハートフィルまで行ける」

「パルマへはどうやって行くんですか?」

「一旦フローベルまで戻って、そこから西に進むの」


 フローベルまで戻るのかぁ。また馬車で7時間…。移動となるとどうしても一日がかりになるのは致し方ないところ…。…いやはやそれにしても


「クレア詳しいじゃん」


 意外にもクレアはこの国の地理に詳しいようだ。俺は素直な気持ちで褒めたのだが、すぐに失敗したと思った。案の定クレアがふんぞり返り、反対にミストが敵意剥き出しで睨み付けたのだ。


「んん?なんか不穏な気配を感じるぞ…?まさかこんな街中に魔物が!?」


 敵意を感じたクレアがわざとらしい演技を見せつける…。そしてミストに目を向け――


「あ…、魔物じゃなくてミストだった」


 ガタッ…!


 耐え切れなくなったミストは勢いよく立ち上がり、食事半ばに離れようとする。それを俺が慌てて彼女の腕を掴んで引き止める。


「まぁまぁ…ミスト、気持ちはわかるがここは耐えて」


 すると、ミストは大人しくイスに座り直した。ホッとした俺はクレアに目を向ける。


「クレアも仲間を傷つけるようなこと言わない」

「そうですよ!ミストはとっても優しいんですよ!」


 エリルも援護してくれたおかげか、クレアは一転してシュンと縮こまる。はぁ…ミストとクレア…、性格の真逆な2人は果たして仲良くなれるのだろうか…。

 エリルという天然緩衝剤がいるから成り立っていると言える。まぁ、ミストも最初はトゲがあったし、クレアもそのうち丸くなるだろ。

 ……と、その時、ミストが水の入ったコップに手を伸ばした。…俺の。……え?

 彼女はそのまま何のためらいもなくコップを持って、自らの口へと運んでいき……コップを口に当てて水を飲み干した。


「ごめん。私のが空だったから」


 飲み終わった後に後付けで詫びを入れてきた。俺はあまりにもびっくりして言葉を返すことができなかった。か、空だったら水を注げばいいんだよ…?



 フローベル行きの馬車は10時に出るようなので、それまでの間、俺達は町を散策することに……した途端、ミストが俺の手をぐいぐい引っ張っていく。俺はズルズルと引っ張られるがまま、過ぎていく景色をボーっと眺める。のどかでいい町だなぁ…。

 しばらくすると動きが止まったので、体を起こしてミストの方に顔を向ける。俺達はとある店の前に立っていた。窓越しにカラフルな小物類が棚に並んでいるのが見える。雑貨屋…?


「買い物に付き合って」


 ということで、俺はミストの買い物に付き合うことに。事前にリサーチしてたのか。ハムスター相手に卒倒してたし、小物類も好きなんだろう。

 中に入ると、店の中はかわいらしい小物類で溢れていた。大量生産に溢れたあっちの世界のようなものではなく、一つ一つが手作り感満載で、民芸品みたいだ。どんなものがあるのか気になってきたので、俺も店の中を見て回る。

 ふとミストに目を向けると、彼女はじっとあるものを見つめていた。傍に寄ると、その視線がハムスターの置物に向いているのがわかった。


「本物そっくり!」

「木を彫って作ったのか…。いやはやすごい」

「はぁぁ…、あのハムスターかわいかったなぁ…」


 ハムスターの置物を見て、以前フローベルで遭遇したハムスターを懐古している。記憶力良いと言うか、本当にかわいいもの好きだな。


「フローベル戻ったらまた会えるんじゃないか?」

「じゃあフローベルでハムスター探ししない?」

「え…?」

「あはは!冗談っ!」


 冷や汗を垂らす俺を見ておかしそうに笑うミスト。なんていうか…楽しそうで良かった。最初は笑顔なんて絶対見せなかったのに、いつの間にかすごい変わったな…。

 ――なんてことを思いながら、俺はこっそりとあるものを買ったのだった。


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