第35話 出発!モルテナ山へ その3
俺は耳を疑った。今、エリルは別行動をすると言った。別行動…?そんなことしたら……
「迷子になっちゃうじゃん!」
真っ先に浮かんだのがそれだった。なんでいきなりとかエリルらしくない言動とかそういうのはひとまず置いといて、お手軽ハイキングコースの花滝山ですらまともに進めなかったエリルが、単独でモルテナ山という割と標高高そうな山を登れるはずがない。
「んん……、どうしたの…?」
俺のツッコミ声に寝ていたミストが目を覚ます。眠そうに目をこすりながら体を起こし、俺とエリルを見る。俺は早速ミストに助けを求めた。
「ミスト聞いてくれよ!エリルがクベスに着いたら別行動するとか言い出したんだ!」
「エリル……どうしたの…?」
ミストも怪訝な表情でエリルを見つめる。
「私は普段通りですよ。ただ、早くモルテナ山に行きたくなったんです。2人はクベスでも観光したいだろうと思いますし」
いや…それも考えてはいたけども……、クベスに着いたらモルテナ山がどういう場所か調べようかとは思っていた。すごく危険な場所かもしれないし…。
にしても…、普段のフワフワした感じが無い…。人が変わったかのような雰囲気だ。
「もしかしてエリル……操られてる?」
…と思ったら、ミストが即座にそんなことを言いだした。相変わらず彼女の素早い判断力には脱帽する…。
「ギクッ…!そ、そんなことないわよ…!」
ギクッとか言っちゃうし、敬語でもなくなっちゃったし……、もしかして、クレアのしわざ…?
すると、ミストがエリルに近付き、彼女が持っている本に手を伸ばした。
「エリル!ちょっとその本貸して!」
「い、いやよっ!!」
本を取ろうとするミストとそれを阻止しようとするエリル。俺もミストに加勢しようと近づくと――
ドカッ
「おわふっ!」
ちょうどよくエリルが尻尾を振り回し、俺の顔にクリーンヒットした。
「おーいお客さーん!何してんのー!?」
騒がしかったのか、ドライバーの人が何事かと声をかけてきた。まずい…こんなところで降ろされては元も子もない。…っていうか痛い。ひりひりする。
「水の魔女ミスト……なかなか鋭いじゃない…。その通りよ…。今のエリルはわたしが操っている。フローベルでは動けなかったから泣く泣くあんたたちに付き合っていたけど、今は動ける体を手に入れたし、モルテナ山にもだいぶ近づいた。もう、これからはあんたたちに付き合う必要は無くなった。それじゃ」
次の瞬間、エリルの体を乗っ取ったクレアは身を乗り出し、馬車から飛び降りたのだ。
「え、エリル!!」
「ドライバーさん!!馬車止めて!!」
俺は慌てて馬車を止めるように叫ぶ。その声を聞いてドライバーの人も何事かと思い、手綱を引いてブレーキをかけた。
「すみません!俺達ここで降ります!」
「えぇ?こんなところで?まだクベスまで10キロはあるよ?」
「いいんです!」
動揺するドライバーに半ば強引に運賃を手渡し、俺とミストは馬車から降りた。空になった馬車は仕方なさそうにクベスの方に去っていく。周りは人工物などなく、見渡す限り鬱蒼とした森…。木々の背丈が高いせいで、遠くに何があるのかまったくわからない。
そして……エリルの姿は既になかった…。
「見失った…。エリル……」
ミストは心配そうに細い声を漏らす。迂闊だった…。まさか、俺とミストが寝ている間に、エリルを乗っ取っていたなんて…。
けど、後悔しても仕方がない。一刻も早くエリルを見つけ出して、クレアから引き離さないと。
「ミスト、地図貸して」
俺はミストから地図を受け取ると、まずはどこにいるのかを確認することにした。クベスまでだいたいあと10キロの位置で、かつ駅馬車が通るルートとなれば自ずと位置は決まってくる。
「だいたいここら辺にいるな」
俺は地図上で今いる位置を指差す。それをミストも覗きこんで確かめる。今いるのはクベスの西方で、モルテナ山の東側の麓に位置していた。フローベルから北上してきた道はここで東に向きを変えているので、クベスまでの間でここが一番モルテナ山に近いことになる。
…まさか、クレアはそれを知っていて飛び出したのか?だとすると……エリルの体はクレアが乗っ取っていて方向音痴じゃないわけだから……急いだ方が良いな。
「早く…エリルを捜さないと…!」
ミストは辺りを見回してエリルを捜しに行こうとするが、俺はそれを引き止めた。
「待てミスト!エリル……いや、クレアはモルテナ山に向かっているはず。俺達はそれより先回りして行こう」
「先回り…?どうやって…」
戸惑うミストに俺は地図上にある青いラインを示した。川だ。川幅は狭いだろうが、モルテナ山から流れているのがわかる。
道を少し走ると、その川が横断しているところに出た。案の定、川幅はだいぶ狭く水の流れも速い。けど、ミストがいればここが一番の最短ルートだ。
「ミスト、氷のいかだを作って川を上れるか?」
「任せて」
ミストが川に向かって手をかざすと、川の水の一部が凍り、あっという間に氷のいかだができあがった。そして、俺とミストは氷のいかだに乗って川の上流へと向かっていった。




