第26話 暗香?迷い人の出会い
これまでの話はユウキの視点で書かれていましたが、今回は都合上、彼の視点ではありません。悪しからず。
気付くとエリルは、持て余すようなだだっ広い空間にポツンとある螺旋状の階段に立っていた。さっきまでいた本に囲まれた視界とはまるで違う。窓は無く、壁面にあるろうそくだけが寂しそうに灯されている。
「あれ…?ここは…図書館…?」
エリルはキョトンとした表情で辺りを見回す。ずっと本を探して本棚の周りをうろうろしていたのに、夢中になるあまり一般人が入り込めないところに迷い込んだのだろうか。
「こ、これは…迷子……ですかね…」
エリルは苦笑いしながら、自分が迷子になったことを渋々認める。まさか建物の中で迷うなんて思いもしなかったが、なったものは仕方がない。
「とりあえず降りてみましょうか」
この場合引き返す方が正しいのかもしれない。けれど、エリルの好奇心が前に進むことを選んだ。“迷子慣れ”している彼女はこれくらいでは不安にならないのだ。
図書館でもここまで静寂にはならないんじゃないかというほどの無音で、エリルの歩く音が良く反響して聞こえてくる。薄暗い雰囲気も相まって不気味な雰囲気も感じられる。
何回か螺旋を回ったところで一番下まで辿り着いた。しかし、視界の先は暗闇になっていて先が見通せない。
「いらっしゃい…。よく来たわね…」
「ひっ…!誰かいるんですか!?」
いきなり女性の声が聞こえてきて、エリルはビクッと体を強張らせてしまう。こんな雰囲気で姿も見えないのに声をかけられたら誰だってびっくりするだろう。
「あら…ごめんなさい。別に怖がらせるつもりはないのよ」
相手が恐がっているのを察知したのか、姿の見えない女性は少し申し訳なさそうに詫びる。
「あぁ…暗くてわたしの姿も見えないのね。今灯りを付けるわ」
すると、視界の先が明るくなって、1人の女性が立っているのが見えた。
女性はウェーブのかかった濃い紅色の艶やかな髪を腰近くまで伸ばしており、体全体を覆うような黒いマントを羽織っていた。街中で見かけたら目を見張ってしまうくらいには独特の雰囲気を醸し出している。
女性の周りにはソファーやテーブル、本棚など一通りの家具が置いてあり、生活部屋のような感じになっていた。
「あの…、あなたは…?あと、ここどこですか?」
エリルは彼女が何者なのか…と、ついでにここがどこかも教えてもらおうと尋ねた。
「ヒ・ミ・ツ。あら…そんな残念そうな顔しないで。元の場所にはすぐに戻れるわ。ここは図書館の地下だもの」
正体を明かさないのは拍子抜けだが、すぐに戻れると聞いて安堵する。それにしても、図書館の地下になぜこのような空間があるのだろうか。見た感じ書物を保管する場所というわけでもなさそうだが。
「あなたはここで暮らしてるんですか?とっても暗い感じですけど…」
「えぇそうよ。暗いのはわたしの好みなの。なんだか落ち着くのよ。あんまり他の人にはわかってもらえなかったけど…」
女性は最後に声のトーンをやや落とす。
「そうなんですね。でも、私は暗いのそんなに苦手じゃないですよ。いろんなところを旅してきて、陽の光が届かないような鬱蒼とした森の中とかも歩きましたし」
「へぇー。あなた旅人なのね。この図書館にはどんな用で?」
「実は、最近魔物によく出くわすようになって…、魔物に関する本が無いか探しにきたんです」
「そうだったのね。それならちょうどいい本があるわ」
女性はそう言うと、本棚から一冊の本を取り出し、エリルに手渡した。エリルはまじまじと本を眺める。表紙は黒一色で絵は無く、学術書のように文字が記されているだけだ。
「その本にあなたが知りたいことはだいたい載っているはずよ。それでもわからないことがあったら……、モルテナ山に行ってみると良いわ」
女性がそう告げると、突如エリルの視界が暗い世界から一転してぼやけた白い光に包まれ始める。
「ありがとうございます!あの…」
「わたしの名前はクレア。素敵な出会いをありがとう。エリル」
次の瞬間、光は強さを増し、クレアの姿が見えなくなるのと同時にエリルの意識が遠のいていった。




