第33話「これからは」
すずの家の問題を解決して、より一層思うようになった親との問題。
まさか、こんなすぐに話が進むとは思っていなかった。
休日の朝。久しぶりに父親から連絡がきた。
『ちょうど同じ地方にいるから一度どこかでご飯でもどうか』だそうだ。
複雑な心境だ。行きたいけど、行きたくないような。
既読を付けて早三十分。「行くよ」と打つ手が止まっている。
『予定があるなら、また今度にしよう』
それじゃあいつ会えるか分かんないだろ……。
スマホに映る「あ」に手を持っていく。
その時、チャイムが鳴った。
「はぁ……」
スマホを机に置いて、玄関扉を開けた。
「にゃ」
まあ、だろうな。
すずが買い物袋を持って立っていた。
「上がって」
「うん」
すずは慣れた様子で家に上がった。
すず……どうしよう。
というか、すずと付き合ってるって言わないといけないのか。
「渉流?」
「ん?」
「何か考えてる」
「まあ……」
「当てる」
「無理だろ」
すずは「んー」と頭を悩ます。
前までは父さんと会いたかったのにな……。
「分かった。お金がかつかつ」
「んー……それも問題だな」
「じゃあ正解?」
「んー、まあ正解」
欲を言えばこのまますずと話していたい。
父親と会うことが義務だと感じてしまう。
どうしたんだろ俺……おかしいな。
「もっと深刻そう」
すずは声のトーンを下げた。
まあな……。
「私でよかったら、話聞く」
すずは俺の肩に手を伸ばした。
身長が小さくて足がプルプルと震えている。
「ふっ、届いてない」
「失礼だよ」
「ごめんごめん」
すずはそっぽを向いてリビングに向かっていった。
今は、こっちの方が楽しいんだろうな。
「あ……」
リビングの方からすずが小さく声を上げた。
「どうした?」
すずが俺のスマホを持っていた。
あー……。
「私お昼に帰った方がいい?」
「いかな……」
続きの言葉は喉で止まった。
「行かないの?」
「いや……行くよ」
「……怖い?」
「……っ」
今の俺の状態を、うまく言い当てられた気がする。
怖い……のか。
「かもしれない」
前あれだけ言っておいて、いざ自分の番になった膝が震える。
すずはすごい。
それと同時に自分がどれだけ意気地なしなのかが分かっていい気分がしない。
はぁ……。
「私も、行こうか?」
「……いや、まずは一人で行かなきゃ」
「そっか……」
なんで怖いんだろ……。
「雫石先輩から聞いてるよ。渉流、転校が多かったから一人暮らししてるんでしょ?」
あー……そうか、そこ二人は親し気ではあったもんな。
「そう。高校までも転校ばかりじゃ嫌だしな。でも……父さんとは居たかったよ」
「甘えたいよね」
「うん……」
すずとは家庭環境が似ている。
俺の気持ち、分かるんだろうな。
「すず、あのさ……」
「うん」
「やっぱり、来てほしい……」
「分かった」
すずはにっこりと笑った。
その笑顔に救われた気がする。
「ありがとう」
「にゃん」
ほんと、助けてもらってばっかだよな。
父さんに早速「行く」旨を伝えておいた。
「お父さん怖い?」
「いや……なんだろうな。心配性で、たまに意固地で、過保護な人だよ」
「それなのに一人暮らしさせてるんだ」
「そう。意味わかんないよな。すずと会えたのは嬉しいし、瑛大とか潤一とかと会えたのはすげー嬉しい。でも……父さんが居なきゃ、誰に伝えればいいか分かんないだよ……。猫が話聞いてくれるか? 鳴くだけだよ。家具が聞いてくれる? 亡くなったお母さんでもいるのか? もういねぇよ……」
「渉流……」
すずは俺をそっと抱きしめてきた。
やるせない感情が涙を生む。
「ごめん……取り乱した」
「ううん。いいよ」
そうだよな。すずにぶつけても意味ないよな……。
深呼吸してすずをソファーまで連れて行った。
「映画見よう」
「映画?」
「うん。それで時間つぶす」
「うん、いいよ。渉流のしたいこと、しよ」
「……ありがとう」
なんだか落ち着いた気がする。
映画一本見ただけで昼前になった。
「行こうか」
「うん!」
すずはなんだかご機嫌のようだ。
それがちょっと俺を勇気づける。
すずが彼女でよかった。
電車に乗って、知らない道を地図を見て歩いて、一件のカフェに入った。
父さんがここにいるんだな。
店内を見渡すと、窓側の席で父さんは座っていた。
久しぶりに見たからか、だいぶ老けているような気がする。
父さんも、一人で頑張ってたんだもんな……。
「父さん」
席の前、俺が呼びかけると父さんは顔を明るくさせた。
「渉流。久しぶり」
「うん」
後ろに隠れていたすずを横に立たせる。
「あれ、その子は?」
「俺の彼女」
「あ、あの……猫宮 小鈴です」
すずは顔を赤く染めた。
何緊張してんだよ。
家を出て以来、久しぶりに笑みが出た気がする。
「そうか。渉流にもとうとう春がやってきたんだな」
「うん」
「さあ、座って座って。今日はなんでも奢るから」
そう言って父さんはメニュー表を俺たちの方に向けた。
ハンバーグ、オムライス、唐揚げ。
なんかすずと作ったものばっか並んでるな。
「チョコ……パフェ」
すずは特大サイズのチョコパフェが映るページに移動すると、目を輝かせた。
「食べたかったら食べていいよ」
父さんの言葉に、すずは恥ずかしそうに頷いた。
なんか……親子みたいだな。
「渉流はー、あれだろ。これこれ。ステーキ」
悪くないか。
「んー、妥協点。それにしようかな」
「なんだ妥協点ってー」
「ふっ、なんでもないよ。そういう父さんこそ、オムライスでも食べるんでしょ?」
「お、覚えてたかー」
「忘れるわけないだろ」
「そりゃ嬉しいな」
父さんは昔から色んな店のオムライスを食べ比べしている。
転勤族だからこそ、どこの県のオムライスが美味しいかとかも比べられるのは唯一の特権だろう。
「どこが美味しかったの?」
「父さん好みは、この店だよ」
「あ、そうなんだ」
「そうそう。渉流が小さい時だな。まだ母さんも居た頃に一度来て。あの時は父さんの分まで渉流食べたんだぞ? 覚えてないのか?」
「ごめん、覚えてない」
母さんがいたときか……。
「じゃあ、ここには三度目?」
「そうだなー……。五度目くらいになるな」
「俺が一人暮らし始めてから、ここには来なかったの?」
「なかなか、ここには来れなかったな。途中は東北でぐるぐる。次は九州でぐるぐる。なかなか時間は取れなかった。本当に申し訳ない」
まあ、知ってたよ。
「父さんさ。俺とは暮らしたくない?」
俺の言葉に、父さんは口ごもった。
「できれば暮らしたい。でも、なかなか今の会社も辞められないもんでな。お前の家賃も払えなくなるかもしれん」
「俺、バイト頑張るよ?」
「……親って言うのはな。時には子のために……」
「その子供が一緒に居たいって言ってるのに?」
父さんは口を開けて、目を伏せた。
「父さんが頑張ってくれてるのは、知ってるよ。いつまでも笑ってほしいから、俺も一人暮らし始めたよ。でも……家が静かなのは、辛いって、思わない?」
父さんは頭を下げた。
「全部分かってるよ。お前に辛い思いをさせてしまっていること。でもな……父さん抜けちゃうと、倒産する会社が多数存在してるんだ。理解をしてほしいわけじゃない。ただ、父さんが選ぶ仕事を間違えたんだ……ごめんな……」
「そんなことはないよ……父さんは立派だよ。ただの俺のわがまま……。ごめん。すずもごめん。一回、食事取ろう」
本当に怖かったのは、俺のわがままが暴走することだ。
呼び出しベルに手を伸ばすと、すずが俺の背中をさすった。
「渉流。ちょっと、上と話をしてみようと思う」
「え?」
「父さんな……正直、お前の我慢強さに甘えてたところもあると思うんだ。だから、責めて休日の日だけでも、ここにいる日だけでも、一緒に暮らそう」
父さん……。
「その時はぜひ、猫宮さんも連れてこい。とびっきりの料理をごちそうしてやるよ」
「……分かった。待ってるよ? 俺、今度こそ父さんの帰り、待ってるからね」
「おう。絶対に帰る。約束するよ」
「うん……!」
「そうと決まったら、まずは飯だ。お腹を満腹にしないと戦には勝てないからな」
そう言って父さんは色んな商品を注文していった。
大食いなところは相変わらず変わっていないようだ。
来てよかった……。
隣ですずは微笑んでいた。
「ありがとう」
「私、何もしてない」
「勇気もらった」
「にゃん」
親の前でもやるのかよ。
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