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第2話 森で出会った声

森を進みながら、何体ものモンスターを倒した。


スライム、ラット、スパイダー――どれも《WARLDS》の序盤狩場で見た連中ばかりだ。


手応えはある。だが、この森に終わりは見えない。

そんな時、茂みの奥で黒い影が動いた。


丸い体、光る眼。


「……ゴブリンか」


《WARLDS》で見飽きた初期モンスター。

動きも攻撃の癖も、全部知っている。


突進してきた瞬間、横に跳んで足を払う。

体勢を崩したところを、枝で脇腹へ突き刺した。


呻き声を上げ、ゴブリンが崩れる。

光の粒が舞い上がり、視界に青い板が浮かんだ。


【LEVEL UP】


……間違いない。

この世界は、あのゲーム《WARLDS》のシステムを基盤にしている。


「本当に……転移した、ってことか」


もしこの世界が《WARLDS》と同じなら、まずは自分の状態を把握する必要がある。

特に――最初に獲得したスキルの確認はしておきたい。


「……ステータスを開ければ確認できるはずだが……」


こういうシステムなら、たぶん何か特定のコマンドを言う必要があるはずだ。


「メニュー」「ポーズ」「スキル」……反応なし。


数回繰り返して試した末、視界の前で淡い光が揺れた。


「ステータスオープン」


次の瞬間、空中に半透明のウインドウが浮かび上がる。

そこには自分のパラメータと、ひとつだけ“スキル”の欄が並んでいた。


「まずは……最初に獲得したスキルの確認からだな」


指先で項目をなぞると、中央に一文が浮かび上がった。


【スキル:死神の加護】

《鎌による攻撃時、攻撃力が素早さと同値になる》


「……鎌?」


聞き覚えのない武器だった。

少なくとも《WARLDS》には、そんな装備は存在しなかったはずだ。


それよりも気になったのは、その下に書かれた一文。


攻撃力が――素早さと同値になる。


「……素早さで攻撃力が決まる?」


思わずつぶやく。

そんなスキル、ゲームにもなかった。

けれど、それはまるで――俺の戦い方そのものだ。


速さで相手を圧倒し、一瞬で仕留める。

それが俺のスタイル。


「……なるほどな」


もしこの世界が《WARLDS》と同じ仕様なら、

鎌を手に入れれば、AGI極なのにSTR極と同じ火力が出せるってことか。


「……チートじゃねぇか」


思わず笑みがこぼれた。


――この“加護”は、たぶん俺自身から来ている。


誰よりも速く、誰よりも正確に、致死の一点だけを抜く。

それは《WARLDS》で俺につけられた異名――死神。


光の文字を見つめながら、思わず息を吐いた。

まさか、自分のプレイスタイルが“スキル”になるなんてな。


ステータスはAGIにすべて振った。

鎌さえ手に入れば、前のビルドとは比べものにならないほど強くなる。

もはやチートの領域だ。


ウインドウを閉じる。

身体がわずかに軽い。

視界の端が、ほんの少しだけ広がった気がした。


その時、風の奥から声が走った。


「――誰か、助けて!」


一瞬で体が反応した。

考えるより先に、走り出していた。


木々をすり抜け、枝を避け、地面を蹴る。

世界の流れが、わずかに遅く見える。


小さな空間に飛び込むと、少女がモンスターに襲われていた。


黒毛の牙獣。

唸り声、踏み込みの角度、爪の軌道――全部、読める。


「こっちだ!」


拾った石を投げ、視線を奪う。

一息で距離を詰め、枝で前脚を払う。

だが、火力が足りず、ほとんど効いていない。


「なら、急所だ……!」


牙をかわし、喉元へ。

枝の先が肉を裂き、光が弾ける。

モンスターが崩れ落ち、光の粒になった。


「まずは鎌を入手しなきゃな……」


その瞬間、腕に鈍い痛み。

掠めた爪の跡が、薄く赤い線を作っていた。


「だ、大丈夫ですか!?」


少女が駆け寄ってくる。

声は澄んでいて、少し震えている。


「少し、かすっただけだ」


「待ってください。いま――」


彼女は杖を握り直し、小さく息を吸った。


「《ヒール》!」


柔らかな光が手元から溢れ、傷口に流れ込む。

温い水に浸した布を当てられたような感覚。

痛みがすっと引いて、赤い線が消えた。


「……回復魔法、か」


「はい。助けていただいたお礼です」


少女はローブの裾を整え、胸に手を当てて頭を下げる。

陽を受けて、髪が淡く光った。


「私はアリシア。この先の村に住んでいます。

薬草を採りに来て、魔物に追われて……」


その言葉に、思わず顔を上げる。


「村、があるのか?」


「え?」


「あ、いや。……人がいる場所を探しててな」


少女が少し首をかしげた。


「この辺りの方ではないんですか?」


「……あー……まぁ、そんなところだ」


苦笑でごまかす。

“異世界から来た”なんて言えるわけがない。


「そうなんですね。なら、ぜひうちの村へ。森を抜ければすぐですよ」


アリシアはほっとしたように笑い、杖を支えに立ち上がる。

怜は少し息を整え、枝を拾い直した。


「助かる。……正直、どっちに行けばいいのかも分からなかった」


「じゃあ、私が案内します。無理はしないでくださいね」


「助かる」


人と話すのは、久しぶりだった。

それだけで、少しだけ心が落ち着く。


彼女が歩き出す。

俺はその背中を追った。

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