圧倒的な自由強者
「よく来たな。東南の勇者」
彼等と別れたオレたちは、階層を登って行き、気づけば魔王の所まで難なくたどり着いていた。
広い空間には玉座が一つ、そしてそこに座る一人の少年の姿のみがあった。
「お前が魔王か?」
「あぁ、そうだ。俺がこの国の魔王、レンだ」
レンは玉座に鎮座し、頬杖をつきこちらを見ていた。
(確かにかなりのオーラだが、魔王にしては大したことがない。ヘタしたらさっきの側近のほうが強い……力を隠しているのか?)
「にしても、俺も随分と舐められる様になったな。まさかたった二人で魔王討伐なんて」
「ふんっ!お前など、勇者様さえいれば瞬殺なのよ!」
ロイムが胸を張って言う。
「へー結構自信あるんだ。イイじゃん」
その表情はまるで純粋な笑顔である。
「なんでそんなに楽しそうなんだい?君は今からオレ達と戦うんだよ」
剣を抜き、刃の先を突きつけながら問う。
「だって、楽しみたいから」
「……どういう意味だ?」
何を言ってるのか分からず、率直に尋ねる。
「俺はね、無駄なことをしたくないんだ」
そう言うとレンは玉座から立ち、こちらの方へと歩み寄ってきた。
「やろうと思えば、お前たちがここに来るまでに、俺はお前たちを殺すことだってできたんだ。でもしなかった。何故だと思う?」
「そんなの、ただのハッタリにしか聞こえないね」
「ああそう?まぁいいんだけど、答えは楽しみたいからだ。俺はずっと退屈だった。大体、二年間だ。二年間ずっっっとね。まぁ俺らからしたら本当は大した時間じゃないんだけどね」
レンは楽しそうに会話を続ける。おそらく誰も止めなければ、永遠と話しを続けるだろう。
「で……結局何が言いたいんだよ」
動き回りながら話しを続ける魔王に、オレは段々の苛立ちを覚えてきた。
「え?別に話したいことなんてないさ。ただのひつまぶし…じゃなくて暇潰し……てか、イライラしてる?俺が落ち着きないからかな?」
緊張感のないその素振りに、オレは屈辱を感じた。相手にもされてないと思ったのだ。
「そんな巫山戯る余裕があるのかな!ロイム!!」
掛け声を掛けると後ろから密かに詠唱魔法を唱えていたロイムが自慢げに出てきた。
「喰らえ魔王!『悪滅す火炎渦』」
その突如、禍々しい業火がいきよいよく飛び出し、レンの全身を包み込んだ。
「へん!どうよ!あたしの全身全霊の最大魔法は!一溜まりもないはずよ」
ドヤ顔で言い放つロイムに声を掛ける。
「流石ロイムだ。この技を受けたやつは皆んな塵になるからね。あの魔王と言えども───」
その時、業火が消え、人影が現れた。
「ふーん、これが最大、か。………中々の質量だ。流石は勇者パーティだな。熱かったぞ」
そこにはすました顔で出てきた無傷のレンの姿があった。
「!?」
「嘘……あの攻撃を受けて無傷なんて……到底人とは思えない」
すぐさま臨戦態勢を取る。
「いや、無傷って訳でもないんだけど。痛いのは痛いし、好きじゃない。まぁ今のは大した痛さじゃなかったけど」
「バケモノめ……!」
奴のことを睨む。奴は未だ剣を抜こうとしない。オレ等との距離は7mと言ったあたりか。
「今更かよ。そりゃそうだ。だって一様魔物だからな。お前らと一緒にされちゃ困るってもんさ」
そうだ……こいつは魔王。並大抵の技ではびくともしないほどの体だ。
「油断するなよ、ロイム。こいつは強敵だ…!」
「はいっ!」
「お!いい気合だなぁ。ただ………」
刹那、真横から斬撃音と、液体の垂れる音がした。
慌てて振り向くと、そこにあったのは、腹部に深い切り傷を負い、吐血しているロイムの姿だった。
「!?ロイ…ム?」
「あ…ああ……ゆうしゃ……さ…ま……」
そしてロイムの体は傾き、床に倒れた。オレは急いで傍に駆け寄った。
「おいっ!ロイム!!大丈夫か!?おいっ!しっかりしろ!!?」
体が冷めてきて、皮膚の色が薄くなってきたのが分かった。
「………やっぱり、脆い」
振り返ると先ほどとは反対側に、ロイムのものと思われる血のついた細い剣を持ってこちらを見ているレンの姿があった。
オレは奴から目を離していなかった。一瞬もだ。だが、オレでも認識出来ない、刹那とも呼べるその間に、奴はロイムを切り、あそこまで移動したと言うのか?そんなの……
レンは剣についた血を振り払い、微笑んでこちらを覗いた。そしてその一言を告げた。
「期待外れだ」
無理だ……勝てない。とても人間の手には負えない化け物だ。オレはあまりに軽率だった。今更、手遅れってものだよな。
ロイムの顔を見つめる。苦しそうだ。腹からは血が出ている。
「すまない、ロイム。オレの力不足だ。オレ達では到底敵う相手ではなかったんだ。」
「ゆう…しゃ……さま。どうか…あなただけ…でも……生きて……」
手を差し出す彼女を抱きしめた。
「お前を一人にはしない。俺も一緒に逝くさ……」
ロイムの目に涙が浮かぶ。気がつくと、オレも泣いていた。
「勇者さま……」
「ロイムッ……!」
「あのさ……俺の前でイチャイチャしないでもらえないか?あぁ……俺のトラウマ…古傷が……じゃなくて、なんか俺が悪いみたいじゃん!こっちは正当防衛なのにさ。悪いことあんましてないのに」
つくづく緊張感が感じられない。子供なのか?
「……オレ達の負けだ。さぁ、早くトドメをさせよ」
そう言って両手を広げた。
「いや、別に殺さねぇけどさ……あ!じゃあ一つ提案を」
「てい…あん?」
予想外の言葉に素っ頓狂な声を出してしまった。てっきり殺される気でいたからだ。
「あぁ。提案を呑めば、お前のカノジョさん、助けてやれるぞ」
「本当か!?」
「もちろん。俺は虚言癖持ちだが、契約や約束は守る魔王だからな」
正直、藁にも縋る想いだった。ロイムを死なせたくない。その一心だった。
「お前、ロクリクスのとこの勇者だろ?ってことはリーゼ教だろ?」
リーゼ教とは、東の国々で熱く信仰されている宗教で、勿論オレもその一人だ。
「ああそうだ。それでどうした?」
「お前のとこの神って天界に戻れるのか?」
「天界?なんのことかわからないが……」
「あ、勇者でも分からないんだ。まぁいっか。じゃあお前んとこの神様に伝言だ」
「伝言?」
そう言うとレンはこちらに歩み寄ってきてそっと耳打ちした。
「ああ、『左翼が白、右翼が黒の天使について、知っていることがあれば教えよ』ってな」
「??あ、ああ。分かった」
「よし!決まりだな。そんじゃあ……」
そう言うとレンはロイムの傷口に手を置いた。すると傷口は塞がり、ロイムの顔色も元通りになった。
「これで治ったから、あとはカノジョさん抱えて帰りな」
「ほ、本当にいいのか?」
気になって尋ねた。
「別に。殺すのが好きな訳でもないしさ。でも、もっと楽しみたかったよ。まあ、収穫がなかった訳でもないから結果オーライかな。んじゃ、お幸せに」
そう言うと魔王レンは部屋をあとにした。
「本当に自由な魔王だ。国から聞いていたほど邪悪ではなかったな。……それはそうと、帰ったらなんと王に伝えよう……まあ今は───」
倒れていたロイムをおぶる。顔を見ると、すっかり良くなって眠っていた。
「……今は生きていられたことに感謝しよう」
そうしてオレ等は転移魔法で魔王城をあとにするのだった。
ふぎゃーーーめっちゃ更新遅れたーー!!
どうもおひさです。亜ヒ酸アルデヒドです。
すいません、めっちゃ投稿遅れました。
えー言い訳をすると、一つが忙しくてあまり手を着けられなかったので、二つ目が単に気乗りしなかったからです。ほんとにすいませんm(_ _;)m
多分次回は早めに……出したい。誤字とかあるかもですけどごめんなさい。それでは寝ます!
おやすみなさい!zzz……




