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楽園戦争  作者: 如月十五
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第十三話 文化祭実行計画②

「で、さっきも言いましたがまずは現状から確認しましょう」


 二人が握手を終え、さっそく話し合いが始まることになった。

 まず口を開いたのは藤咲で、皆は彼女の意見に同意した。現状を把握し整理しておくことは重要で、何より文化祭を実現可能なものにするためには、それは最初にやるべきことだ。


 そして蓮たちが共有している情報は──。


「2024件……」


 蓮は呟いた。それは特定の誰か、あるいは全員に向けて言ったものではなく単なる一人言だったのだが、皆はその一人言に注目した。


「何のことですか?」


 蓮を見ながらそう問う藤咲に、隣にいた小牧が代わりに答える。


「クラスの皆にはさっき言ったんだけど、今回のことに関連すると思われる書き込みの数がたったそれだけだったんだ。今は2800件くらいまで増えてるが、それでも少ないよな?」


 小牧が述べたその事実には藤咲もかなり驚いていた様子だったが、同時に何となく想像していたような表情もした。


「たしかに、こんなことが起きたわりにはそれはあまりにも少ないですね。考えたくはなかったですが、もしかすると人類はもう滅亡寸前なのかもしれませんね……」


 滅亡。その言葉が人類にも関係のあるものになるとは、つい三時間ほど前までは思ってもみなかった。しかしそれは当然のことだ。七十億以上も存在し文明まで築き上げた生命が、一瞬にして絶滅の危機にさらされるとは誰も想像できまい。


 ただ、ここにいる誰もが現実を受け入れなければならない。皆が不安を押し殺し、話し合いは再開する。


「皆さんにきいてみたいのですが、今回の一連の事件、何が原因だと思いますか?」


 藤咲のその問いかけに対して答えられる者はいなかった。蓮もそうだが、皆はこの現実を理解するだけで精一杯だったのだ。なぜこんなことになったのか、そのことにまで頭が回る余裕などなかった。


 しかしここにいる藤咲は違った。彼女もまた、恐怖を感じていないはずなどなかったが、それでも冷静に分析することを怠らなかったようだ。

 黙る皆を前にして、藤咲は自身の推測を語り始める。


「まず私はウイルスによるものだという考えに至りました。ここまで広範囲で起こったのであれば、それが一番妥当なところだと考えたからです。そこで私はまず、ウイルスについて調べることにしたのですが……」

「で、でもさ、それじゃあ何で私たちは生きてるんだろう……?」


 疑問を口にしたのは、雪乃だった。雪乃は直後、藤咲の話を遮ってしまったことに気づき申し訳なさそうな表情をしたが、藤咲の方はというと、その質問を待っていたと言いたげな様子だ。


「そうです、私たちは生きているんです。しかしそれでは説明がつかない。調べてみても全身から血を噴き出す症状を引き起こすようなウイルスは確認できませんでしたし、今日突然発生したものであるならば、ここにいる私たちにだけ抗体があるというのもおかしな話です」


 ──だと言うなら、一体何が原因なんだ……?


 ここまでの藤咲の話をきいて、蓮のなかで疑問はますます深まる一方だった。それは皆も同様で、だからこそ藤咲の話のなかに答えを求めるしかなかったのだが、


「よって私は、常識で考えていてもわからない、という結論に至るほかありませんでした」


 という彼女の発言に期待を裏切られることとなった。


 クラスメイトたちは口々に落胆の声をこぼしていた。原因が分かれば状況がよくなるわけではないものの、それすら分からぬまま人類の滅亡を見届けるなど、残酷にも程がある。


 しかし──。


「ですが、それはあくまでも常識で考えていた場合の話です」


 藤咲の話は、それで終わりではなかった。クラスメイトたちはその先に再び答えを求めて、耳をたてる。


「もし、私たちの常識では計り知れない何かの力がはたらいているのだとしたらどうでしょう。例えばそうですね……。ファンタジー世界ではお馴染みの、魔法……とか」

「ま、魔法!?」


 まさか藤咲の口からそんな言葉が出てくるとは思ってもみなかった。蓮の上げた驚きの声は、同様にして驚いたはずのクラスメイトたちから見ても不自然すぎたようで、皆の視線は自然と、その声の主に集まった。


 しかし蓮が驚いたのは、唐突に出てきた魔法という言葉そのものではない。藤咲のような現実主義者が、そんな非現実的な思考にたどりついたことに対しての驚きだった。もっとも、すでにあり得ないはずのことが起こっている以上、その思考の方がある意味現実的なのかもしれないが。


「なるほど。こんな起こるはずもなかった事象が現にこうして起こっているのも、そんな訳のわからない何かのせいって考えりゃ、案外しっくりくるぜ」

「いや、でもそれじゃあ、何の手がかりも掴めないんじゃ……」


 小牧はうんうんと頷いているが、蓮の胸中では不安が募る。それは非現実的で想像のしようもないような未知の何かに対する恐怖から来ているのだろう。蓮にとって、いや人類にとって、無知は恐怖の源なのだ。


「いいえ、手がかりならあります。それは何より、私たちが生きているということです」


 しかし藤咲の佇まいは、まるでそんな未知に対しての恐怖を抱いていないかのように思わせた。


「どういうこと……?」

「考えてみてください、なぜ私たちが生き残っているのか。私たちに何か共通点はありますか?」

「えっと、この学校の三年ってことくらい……」


 そう答えていた蓮の頭に、死んでいった他の者たちの無惨な姿がよぎった。なぜ彼らが死ななければならず、なぜ自分たちだけが生きているのか。蓮は違和感を抱かずにはいられなかった。


 考えてみれば不自然なことだらけだった。人口二千万を誇る神根市の町中にさえ生存者など一人も見かけなかったのに、学校にたどり着いた途端、これだけの生存者に会えた。とても偶然とは思えない事実だ。

 蓮はそこにヒントがあると感じ、そしてそれは藤咲がすでにたどり着いた考えだったようだ。


「そうです。全くの見当違いかもしれませんが、私はそこに何者かの意図を感じました。悪意のある、何者かの」

「悪意のある、何者か……?」

「ええ、世界中で起きているというのなら何らかの大きな組織という可能性もありますし、あるいは神のような人智を超えた存在かもしれませんが……。しかしいずれにせよ、どういうわけか私たちは生かされた。そして生きている以上は抗い続け、悪意と絶望に支配されることはないと知らしめなければならない。それが、私がこの文化祭に同意した一番の理由です」


 教室にいる誰もが例外なく、未知の何か、何者かに対して恐怖した。戦慄した。しかしそれでも、悪意に屈するようなことはあってはならない。皆は口を開かなかったが、絶望しているわけではなく、そう覚悟を決めているに違いなかった。


「会長の言うとおりだぜ、皆! 超能力でも持った悪者がいるとしても、いつまでもびびってても仕方ないし、希望を捨てちゃいけない! だからやってやろう、そして見せつけてやろう! 俺たちの文化祭を!」


 小牧が皆を鼓舞し、教室中に拍手と喚声が沸き起こった。


 そして議論の内容は、文化祭の具体的な中身へと踏み込んでゆく──。

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