第十四話 文化祭実行計画③
まず初めに話し合われたのは、学校の敷地内およびその周辺にある死体をどうするかだった。それは文化祭をやろうという以上、そして他の生存者たちを集めようとする以上、放置しておくわけにはいかない問題だった。
「はいっ、健くん!」
「お、雪乃ちゃん。何かアイデアがあるのか?」
「えっとね、死体の処理とか難しいことはわかんないんだけど、簡単にでいいからお墓をつくってあげたいなって思って。ね、いいでしょ、会長?」
雪乃は餌をねだる仔猫のような瞳を藤咲の方へと向けていた。
死体の処理方法も分からない状況で、本来ならば墓のことなど考えている場合ではないのかもしれないが、一切の悪意を知らないかのような雪乃の表情に、藤咲もたじろいだ様子だった。
「え、ええ、簡単に済ませるのであれば差し支えありませんし……。ですが今考えなければならないのは校内にある死体をどうするかです。何か良いアイデアがあるといいのですが……」
藤咲は困り顔で皆を見渡していたが、クラスメイトたちのなかからアイデアが出る気配は感じられなかった。
しかし蓮には一つ考えがあった。それはただ問題を先送りにするだけのものだったが、しかしとりあえずは文化祭の開催を可能にしてくれるだろう。
蓮は口にすべきか迷ったが、やがてゆっくりと口を開く。
「この学校の冷蔵室ってさ……、けっこう広いよな?」
蓮の発言に皆が注目し、同時に蓮の考えを察した。
「おい蓮、まさか死んだ皆をそこに入れるってか?」
「うん、ダメかな? 遺体安置所みたいにさ」
皆は顔を見合せていたが、蓮の言う通りにすべきかどうか、そしてそもそもそれが可能であるのか否か、判断しかねていた。
この案の問題点は二つ。一つは問題の根本的解決にならないということ。そしてもう一つが、校内にある死体が冷蔵室に入りきるのかということだ。
調理室の隣にあるこの学校の冷蔵室は、給食のための大量の食糧を保存する目的もあり、かなりの広さではある。しかし約千人の全校生徒および教職員の死体のうち、どのくらいの数が校内にあるのか把握しないことには、何とも言えなかった。
「可能かどうかはわかりませんが、今回の事件が起こったのは始業時刻から三十分以上も前のことで、まだ生徒はあまり来ていませんでした。そのことを踏まえたうえで、私の体感では校内にある死体の数は五十体程度だと思われます」
「五十体か……」
「入るかはわかんないんだけどよ、蓮。けどそれって何の解決にもならないんじゃないのか?」
「そうさ、ただ問題を後回しにするだけだ。だけど二週間程度ならそれでもつし、その間に処理を考えながら、文化祭をやればいいんじゃないかと思う」
二週間。低温下で保存しても死体の腐敗が止まるわけではないので、おそらくそれくらいが限度なのではないかと蓮は推測していた。
その間に文化祭の準備から開催をこなし、同時並行して死体の処分方法、場所等を考えておく。それが蓮の意見で、今思いつく数少ない選択肢のなかでは、それが最適解なのではないかと蓮は思っている。あとはクラスメイトたちが納得するかどうかだ。
「んー、よくわかんないけどそうせざるを得ない気もするよな。会長はどう思う?」
「ええ、その方針にするしかないのかもしれませんね。しかし入りきったとしても、どこに何体あるのかもわからない死体を運ぶのはかなりの重労働でしょうし……」
「それは気にするな。全部俺が一人でやろう」
そう発言したのは、ここまで一切口を開かなかった銀次だった。その発言に皆は驚き、人だかりからやや離れた距離にいる彼を一斉に見た。
銀次は相変わらず壁にもたれかかりながら腕を組んでいる。これまで場の空気を乱すことしかしてこなかった彼だが、しかしこのとき、彼の目が真剣であることに蓮は気づいた。
「銀次、お前……」
「俺はめんどくせえことが嫌いだ。けどな、全然関わりのなかった奴だろうがよー、いざ死んじまったら俺にでも思うところがあるんだよ。だから最低限の弔いくらいはしてやりてえ」
そう語る銀次の声はどこか寂しげで、そして表情には何か決意が含まれているように感じた。
「それに力仕事は得意だ。全部俺に任せてほしい」
銀次は固く締まった筋肉を備えた大きな身体を見せながら言った。たしかに彼の身体つきを見る限りは頼もしくも感じるが……。
「いい……のか……?」
「ああ」
「そうか……。なら頼む」
皆申し訳なさと心配を抱きながらも、こうして死体の運搬は銀次に任された。
しかし死体の処理に関する問題は、ひとまずではあるがこれで解決された。そのおかげで本題、文化祭で何をするのかについて話し合うことができる。
「では文化祭ですることについてですが、まず初めに言っておきたいのが、優先すべき目的はあくまでも、他の生存者たちを一人でも多く集めて協力していこうということです。ですから災害ボランティアのようなものを行うつもりで、できる限り現実的に考えていきましょう」
自然と司会役という役割が板についた藤咲がそう前置きし、話し合いは進んでいく。
まず最初に出たのはメイド喫茶をやりたいという意見だったが、これはメイド服がないということで却下された。創作のなかではよく挙げられる題材ではあるが、そもそも現実にメイド喫茶が行われているところなど、蓮は見たことがない。
次に出たのは、綿菓子店をしたいという意見だった。しかしこれも綿菓子機がないという理由から同じく却下された。どうやら藤咲の前置きもむなしく、皆が出す意見には現実性がないようだ。机の上に広げられた紙に皆の意見をメモしようとしていた藤咲も、これにはペンを置きため息をつくしかなかったようだ。
「そういえば蓮、何か作って展示したいとか言ってなかったっけ?」
そんななか、小牧が蓮を見て言った。
「あ、ああ……。たしかに言ったけど……」
その案は、まだ現実をあまり考えずに言ったときのものだった。それは藤咲に叱責された今となっては蓮の頭のなかにはなかったものなのだが、
「なるほどそれはいいですね。作れるものはかなり限定されますが、この文化祭のトレードマーク、象徴にすることもできるでしょうし」
珍しく、藤咲が食い付いた。どうもクラスメイトたちは藤咲が良しとすればそれは実現可能なものだと思っている節があるようだ。そんな彼らは藤咲の顔を伺い、その様子を見て期待を高めていた。
「ただし、やるからには高いクオリティが要求されますが、発案者さんにはできますかね?」
藤咲の挑戦的な瞳が、蓮の方を向いていた。その瞳に、蓮はまた居心地の悪さを感じたが、しかし今度は目をそらさなかった。そして覚悟を決めたうえで、
「できる」
とだけ言った。
こうしてようやくではあるが、文化祭の内容が一つ決まり、徐々にその形が見え始めてきた。




