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剣士霧ヶ谷  作者: 竹崎 優
学内トーナメント編
9/45

まさかの対戦カード

「まあ、誰かがそうなるとは思っていたけどあの二人か」


 霧ヶ谷蓮華VS月島凛

 フィルミネスはそう書かれている闘技場のモニターを見てそう呻いた。そんな彼女の発言に秋久とカルミラも賛同する。


「そうだね。どっちが勝つのかな」

「能力を持ってる凛が有利」


 そんな三人の会話にいつの間にか後ろに座っていたマリとアンナが割って入ってくる。


「私は霧ヶ谷くんかな。自分が推薦したからだけど。アンナはどう思う?」

「普通に考えれば月島さんよね。でも、霧ヶ谷くんは何してくるかわかんないし……私はとりあえず彼が能力持ち相手にどう戦うかが気になるわね」


 しっかりとコンパクトにまとめてくれたアンナ。それを聞いていた後輩三人は口々に言う。


「さすが会長ね」

「うん。なんか勝手にまとめてくれたね」

「会長は博識」


 三人はチラッとアンナを見た。その視線に気づいたアンナは、


「私、別にツッコまないわよ」


 そんなやり取りを横で見ていたマリはフィルミネスたちに向かって胸を張って言う。


「そうだぞ、君たち。アンナはボケ担当だからな!」

「私、一度もボケたことないんだけど」


 マリとアンナによる今の一連の流れを見て三人はこう思った。


――今……ツッコんだ?





 蓮華が闘技場に到着すると、すでに凛はそこにスタンバイしていた。


「来ないかと思ったわ」

「ここまで来たらさすがに最後までやるよ。昨日はいらん期待もされたし」

「期待?」

「いや、こっちの話」


 そう言った蓮華は口元をつり上げた。その相手をひけらかすような笑みを凛に向ける。


「なあ、月島……勝っていいか?」


 そんな蓮華の挑発に単純な凛は試合が始まる前から鼻息を荒くし、同じく挑発で返す。


「あんたがあたしに勝つ? いやいや無理でしょ」


 売り言葉に買い言葉。

 だが、蓮華は凛とは打って変わって、いたって冷静だ。そんな姿がまた火に油を注いだ。


「この試合であんたのそのポーカーフェイス絶対に崩してやるから」

「……やってみ?」


 そう言ってまた蓮華は凛を見下す。凛は悔しそうに歯を軋ませた。

 しかし、正直なところ蓮華は凛を下になど見てはいない。いざ試合が始まれば油断などみじんもする気はなかった。






『バトルスタート!』


 その声と同時に凛が前に出る。その勢いのまま蓮華に殴りかかった。しかし、その拳はいとも簡単にかわされてしまう。無防備になった横っ腹に一発入れようと蓮華は考えたがそんなことをしている暇はない。


「うぉぉりゃぁぁぁ!」

 

 凛の手足から小さな爆発音と炎が噴き出した。蓮華の視界から凛の横っ腹は消え、代わりに上から蹴りが飛んでくる。その蹴りを蓮華は間一髪、剣で受け止め、体勢を整えるため距離をとった。


 だが凛の攻撃は止まない、蓮華のことなど恐れることなく果敢に攻めてくる。

 

 経験の差か、蓮華の剣が凛に届きつつある。そして、蓮華の袈裟斬りが決まった――はずだったのだがガキンという音を立てただけで凛にダメージはなかった。それを好機と見て凛は蓮華に蹴りを一発入れた。左腕でなんとか防いだが大きく飛ばされてしまう。




「霧ヶ谷くん苦戦してるわね。彼もここまでかしら」


 アンナはそう言った。事実今は凛のほうが優勢なのは誰が見ても明らか。しかしフィルミネスは少しだけ疑問があった。


「確かにそうですけど。そんなに今までの戦いと違うんでしょうか?」


 フィルミネスの疑問に秋久も続く。


「そうだよね。やってることは近接戦闘だからレンの独壇場だと思うんですけど……」


 そんな二人の疑問に今まで黙っていたマリが答える。


「やはり、月島くんの『硬化』の能力とアクセプションの相性がいいからかな。それを考えると最初の一撃霧ヶ谷くんはよく防いだと言える。彼女の今までの相手はあれでやられていたしな」


 それを聞いたフィルミネスはまた違う疑問が頭をよぎった。


「そういえば凛のアクセプションって何なんですか? ただのグローブとシューズじゃないんですか?」


 その疑問には意外と物知りなカルミラがいつもの静かな口調で回答する。


「反動推進装置。簡単に言うと小型のロケット」


 アンナとマリは「おぉ」と言って感心する。その後、カルミラの話した内容にアンナとマリが補足で説明を加える。


「ありえない方向転換と加速をした拳や蹴りが飛んでくる。ここから見てるとそうでもないけど実際の体感スピードはとんでもないはず」

「それに加えて月島くんの硬化。相性がいいったらありゃしない」

「そうね。でも、たぶん月島さんは自分のアクセプションのすごさに気付いてないわね」


 それを聞いたフィルミネスは少し心配そうに蓮華を見つめた――が、蓮華は何か策があるようにほくそ笑んでいた。




「霧ヶ谷どうしたの? やっぱりあたしには勝てない?」


 蓮華は何も言わない。劣勢なのはわかっている。だがそれを承知で蓮華の顔はいまだに笑みを崩さない。


「だいぶ、お前の攻撃の気持ち悪さもアクセプションでの加速度もだいたい理解した」

「理解したからなに?」

「……もうお前の攻撃は食らわないってこと」


 そのセリフを言い終える前に蓮華は飛び出す。右手にナイフ、左手にトンファー。斬撃系が効かないと確認が取れた蓮華は打撃系に切り替えた。


 今までの試合自分から突っ込み、それで勝ってきたため後手に回った凛は反応が一瞬遅れた。蓮華はそんな凛の不慣れな部分を突いた。


 つまり防御という行為に体が慣れていない。そのせいか蓮華が前に来るタイミングに合わせて硬化させアクセプションで加速させた右拳を繰り出す。


「予想通り」


 蓮華はそうつぶやき、その拳を屈んでかわす。それと同時に右手に持っていたナイフを自分の体でうまく隠しながら凛のあご目がけて投げた。


 凛は前に体重がかかった体を何とかナイフをかわせるほどに引いた。その瞬間を狙いすましてトンファーを凛の腹にぶち込む。凛は先ほどの蓮華同様に飛ばされる。


 凛もトンファーでの攻撃だけは硬化でなんとか防いだが一瞬遅れたせいで少し痛い。お腹に手を当てながら蓮華探すがさっき戦っていた位置にはいない。


「あいつどこに行ったの?」


 周りを探そうとするがそれどころではない。彼女の足元にはタバコほどの大きさの筒状の何かが散らばっていた。それは、ジジジジッという音を立て凛に焦りを掻き立てる。


 爆弾!?


 凛は嫌な予感がして上に逃げる。凛の思った通りそれは大きな爆発音を出して四散した。しかし上にはすでに蓮華が待ち受けかかと落としで凛を下に落とす。


 蓮華はそのまま闘技場に張られているバリアの天井に向かって銃を撃つ。すると銃口からはワイヤーが出現し空中にぶら下がることに成功する。


 次に凛が地面に落ちたのを見てから蓮華は先ほど空中で回収しておいたナイフを凛の校章に向かって投げた。

 これで、どうだ?


「……残念だったわね蓮華。校章ごと硬化して守った」

「えー。それ物も硬化できんのかよ。うそだろー」


 それを聞いた蓮華はもうお手上げという感じで地面に着地する。


「これであんたはネタ切れ。あんたの策を防ぎ切ったあたしの勝ち」


 制服についた汚れを払いながら凛は勝利を確信する。蓮華も納得のようにうなづいていた。


「確かに。正直さっきのでいけると思った。校章を硬化させるとかお前から取り上げでもしない限り勝てねーじゃん」

「そうだね。でも、もう遅い。疲れたし終わらせるよ」


 そう言って凛は最初と同じように蓮華に向かっていく。

 凛の勝ちだ、と誰もがそう思った。だが、凛はまだ知らない。そういうときが一番危ないことを。


「……校章……とりゃあいいんだよなぁ?」


 そしてまた、蓮華の顔には笑みが浮かぶ。




 蓮華は凛の攻撃をかわしつつ一度ワイヤー銃を腰にしまい、アクセプションにウィースをこめ見た目が同じ銃を取り出した。足にウィースを集中させ一度大きく距離を開ける。


 蓮華が今右手に持っている銃はワイヤー銃ではなくジェンティーレが一般的に使うウィースを弾として放出する普通の銃だ。硬化の能力を持つ凛には効きにくいことは理解しつつもそれを近づいてくる凛に牽制として使う。


「そんなもの意味ないって。一か所に硬化を集中できない分硬度は落ちるけど十分耐えれる」


 凛の手足の間合いに蓮華がとうとう入る。


「じゃあ、これは耐えられる?」


 凛の視界に先ほどの爆弾が飛んでくる。回避はできない。よって防御に専念。だが、蓮華もよけられないはずと思っていたら……


「ざーんねーん。それは不発弾……偽物(フェイク)でーす!」


 そう言いつつ蓮華はまた距離をとり、腕を十の字にして顔を守っていた凛に向かって今度は煙玉を投げる。

 お互いがどこにいるかはわからないが、だいたいの位置を察しているのか銃声が四回鳴り響き、四発の銃弾が凛を襲った。


「だーかーらー。意味ないって言ってんでしょぉぉぉ!」


 凛はその咆哮で自分を奮い立たせる。

 しだいに煙ははれてきて、凛は蓮華の位置を把握する。


 蓮華は自らが張った一本のワイヤーに器用に立ち、文字通り凛を見下している。


「さーて、凛。どうする?」

「どうするって、あんたこそどうするの? そこから降りたら間違いなくあたしの餌食よ」

「いやいや、俺は……」


 蓮華は銃口を凛に向ける。


「ここからでも一応、攻撃できる」

「それは効かないって言ったでしょ」

「だから『一応』って言ったんだよ。アホ」


 凛は頭に血が上る。そして、蓮華を完膚なきまでに叩き潰したい衝動に駆られた。


「なあ、凛。俺もうめんどくせぇや」

「はあ?」


 意味が分からない。ここまで来て面倒くさい? 何か策があるのだろうか――と、いつもの凛なら考えることもできたかもしれないが、今の凛にはフラストレーションがたまるのみ。


「だからもう、言っちゃおうかなってさ。まいったって」

「別にいいんじゃない。あたしの勝ちになるわけだし」

「え? いいの。だってお前さっき、『あんたの策を防ぎ切ったあたしの勝ち』とか『終わらせるよ』とか言ってたじゃん」


 全然似ていない凛のモノマネをする蓮華。それどころか凛をバカにしている節がある。


「ここで、俺にまいったって言わせたらさー。後半ほとんど俺の手のひらで踊ってたお前はまるで俺に勝ちを譲ってもらったみたいだよな」


 『みたい』ではない。まさにその通りだ。凛は正直言って後手に回っていた。蓮華の攻撃を間一髪で防いでいただけだ。そんなことはわかっている。だからこいつをちゃんと倒したいのだ。


「んじゃ。言っちゃうぞー。まい……」


 まいったと言いかけた蓮華を止めるように、張り詰めた糸がプツン、と切れたかのように凛は地面を力強く蹴った。


「ちょっとまてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 蓮華はにやついた。

 やっぱお前、単純すぎ。


「あ。そこワイヤー一本張ってるぞ」

「え?」


 凛は何が起こったかわからない。なにかが足に引っかかり、体の上下が入れ替わる。そして凛は自分の体の横を人影が通ったのをかろうじて確認した。


 そのまま落下し状況を把握しようとする凛。10メートルほど先には誰かの校章を持っている蓮華の姿があった。


「言ったろ。校章とるって」


 凛は慌てて自分の左胸を触った。そこにはいつもあったはずの校章がなくなっていた。


「うそでしょ?」

「うそじゃない」


 そう言って蓮華は親指と人差し指で校章を割った。

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