第1話 森の奥で暮らす最強王女
新作小説シリーズ、始めました。
ファンタジーで魔法要素たっぷりなお話をぜひお楽しみください。
――ローズベルク王国の王都から遠く離れた場所。
人の気配がほとんどない森の中に1軒の小さな屋敷が建っていた。周囲には木々が生い茂り、屋敷へ続く道も整備されているとは言い難い。
街からは少しばかり離れていることから元々、人気がほとんどないことはあるのだが、この辺りへ近付こうとする者はいない。むしろこの周辺の道を歩いていた者達はなぜか別の道を選び、冒険者も理由もなく引き返していく。それはこの屋敷の主が張った魔力結界によるものだった。
「…」
屋敷の中にある一室で静かに本を読む1人の女性がいた。美しい銀髪に少し切れ長の瞳、白い肌と整った顔立ちをしている美人である。
自室で椅子に座って本を読んでいる女性の名前はエレノア・ローズベルク。彼女はローズベルク王国の第二王女であり、現在はこの森の奥で悠々自適な生活を送る魔法使いの女性であるのと同時にこの屋敷の主でもある。
「ふむ。こちらも興味深いですわね」
「エレノア様。お茶をお持ちいたしました」
エレノアが魔法書を読んでいると、部屋の扉が開いて1人の女性が入ってくる。
プラチナブロンドの髪に優しげな顔立ちをしており、メイド服を着用している彼女は手には紅茶の入ったティーポットとカップが載ったトレイを持っている彼女の名前はクイン。エレノアの使用人であり、この屋敷の中で唯一働いている人物なのだが普通の人間ではなく、エレノアの魔法実験によって誕生した人造生命体なのだ。
「ありがとう。クイン」
エレノアはクインが淹れてくれた紅茶が入っているティーカップを受け取ると、一口飲む。クインの淹れる紅茶はとても美味しいため、紅茶の味に癒されたことでエレノアの表情が綻ぶ。
「美味しいわ」
「ありがとうございます」
エレノアはこの世界に存在する7つの属性である火、水、地、風、雷、光、闇その全ての属性の魔法を扱うことができる。それだけではなく、その魔力量は常人とは比較にならないほど莫大で魔法使いとして見れば間違いなくこの世界でも最上位に位置する存在である。
「ところで、クイン」
「なんでしょうか?」
「家事をする上で何か不便なことはないかしら?」
「家事ですか。そうですね…」
エレノアから質問されたことでクインは少し考え込む。クインは火属性と水属性、光属性の魔法を使用できるのだが、基本的には掃除や洗濯、料理などの家事をスムーズにするために使っていることが多いのである。
「強いて言えば、床のお掃除がもう少しスムーズにできればいいと思います」
「床の掃除ねぇ…だったら、これなんかどうかしら?」
エレノアはそう言いながら部屋に置いてあった液体が入っている小瓶の中から1つを取り出してクインに見せる。
「それは?」
「これを床に撒くとあら不思議、掃除用具を使わなくてもあっという間に辺りが綺麗になる効果の魔法薬ね。クインは水属性の魔法が使えるから、それと上手く組み合わせれば広い範囲の床を効率よく掃除できるわよ」
エレノアが取り出したのは掃除に特化した効果があり、床に撒いて使うと掃除用具を使って擦らずとも綺麗になる効果がある魔法薬だ。
「こちらもエレノア様が?」
「ええ。クインが掃除をしているところを見て思いついたから作ってみたの」
エレノアは魔法薬を作ることが趣味であるため、アイデアが浮かんでは様々な魔法薬を作成している。そういったことから彼女の部屋には魔法に関する書物が本棚を埋め尽くしており、棚には彼女が作り出した魔法薬が入っている瓶や箱が多く置いてあるのだ。
「そうだったんですね。それではこの後、早速使わせていただきますね」
「後で感想を聞かせてちょうだい。何か改善点があれば遠慮なく言ってくれていいから。むしろ遠慮なく言って!実際に使った時のデータも欲しいから」
「わかりました」
エレノアは自身が作成した魔法薬が入っている小瓶をクインに渡すと、次はどの魔法書を読むか選ぼうとしていた。
「さて、次はどの魔法書を読みましょうか」
「エレノア様」
「なに?」
クインに名前を呼ぶ形で声をかけられたエレノアは気にすることなく自身の部屋の本棚を眺めている。
「本日はもう十分、本をお読みになったのでは?」
「そう?」
「はい。朝からずっと読まれておりますので」
クインの言うとおりエレノアは今朝からずっと魔法書を読んでおり、食事の時以外は自室に籠って魔法書を読んでいたため、心配して声をかけたのである。
「これを読み終わったら休憩するわ」
「そう言いながらもまた1冊追加されていますよ?」
「気のせいよ」
クインの言う通りエレノアは癖のように魔法を使って本棚にしまってある魔法書を本棚から机の上に移動してきていた。エレノアは魔法研究に余念がなく、魔法書を読むことはもちろん、魔法薬を作っては実験をしてデータを取り次回の改善に役立てている。
「エレノア様」
「ふふ」
エレノアは小さく笑うと、クインもつられて微笑む。この屋敷で暮らす2人にとって、こんなやり取りは日常だった。エレノアは魔法を研究しながらも時折、実験をしてクインは家事をこなして時々、2人で他愛もない話をする。
王城にいた頃には考えられなかったほど、静かで穏やかな生活をエレノアは気に入っている。
「クイン」
「はい?」
「私はこの生活が好きよ」
「私もですよ」
エレノアはローズベルク王国の第二王女でありながらもこんな辺境で小さな屋敷を建てて生活しているのには理由があるのだが、これはエレノア自身の意思によるものである。
「エレノア様のお側でこうして過ごせることを、私は嬉しく思っています」
「そう言ってもらえると、私も嬉しいわ」
「こちらの魔法薬を早速、使おうと思うのですが、使うところを見ますか?」
「ぜひ見せてちょうだい!」
「かしこまりました。使う魔法は初級魔法にしましょうか」
「中級魔法以上は部屋が水びたしになるからやめてちょうだい」
クインはエレノアからもらった魔法薬を床にばら撒いた後に水属性の魔法を使ってみる。
「アクアスフィア!」
クインが水属性の初級魔法を放つと床に撒かれていた魔法薬が発生して泡が発生して床が見る見るうちに綺麗になっていく。クインが魔法の軌道を変えて床の隅々まで魔法薬の効果が届くようにしていくと、エレノアの部屋の床が綺麗になった。
「ふむ。実験は成功ね」
「さすがはエレノア様の魔法薬ですね。同じ物のストックはありますか?他の部屋のお掃除も今の魔法薬があれば楽になるので」
「今、クインが使ったものは試しに作った物だったからストックは作ってないんだけど問題なさそうだからすぐに量産しておくわね」
エレノアは魔法薬を作る際は量産できるようにデータを記録して残すタイプであるため、その気になればすぐに量産できるようにしてあるのだ。
「さて、次はどの魔法薬を作りましょうか」
新しく作った魔法薬の実験が成功したことでエレノアは楽しそうに微笑んでいた。




