表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

1

初投稿です

 どこまでも続く茶色い石の壁と天井。ところどころに淡く光る魔法石がはめ込まれており、薄暗くはあるものの視界はそれほど悪くない。見ようによっては幻想的な景色だが今の僕にはとてもそんなところに気を配る余裕もなかった。


「フッ、フッ…」


 荒くなっている息を整え、眼前の敵がいつ動いても対処できるように右手に握った剣を眼前へと構えなおす。

 

 ぐちゃり、ぐちゃり。

 

 湿った足音が洞窟内に重く響くと同時に、先ほどから僕が戦っている相手が暗がりから姿を現した。


 オーク。


 背は高く、肩幅は異様に広い。赤茶色の皮膚は分厚く、生半可な攻撃ではとてもダメージを与えることはできないだろう。肥え太った見た目とは裏腹に、その皮膚の下には鎧のような筋肉が幾重にも折り重なっている。


 潰れた鼻、突き出た顎。そこから覗く黄ばんだ牙は、何度見ても慣れない。しかし、その顔には心なしか苦痛の表情が浮かんでいるように見える。


 僕──アレン・ノーツが何度も切りつけ、血を流させた成果だろうか。


「来るなら来い」


 そう呟いた直後、オークが喉を鳴らし、低い雄たけびを上げながら地を蹴り突進してくる。


 その鈍重な見た目に似合わず、素早い踏み込みだ。だが当初は素早かったその動きも、今は全身から血を流しすぎたのか鈍っている。


 目の前まで迫ったオークが腕を振り上げ、こちらに叩きつけようとしてくる。


 その振り上げによって露わになった脇に思い切り剣を斜めに振り抜き、そのままオークの後ろに回り込んだ。


 ――ガンッ!!


 振り下ろした拳が石を砕き、破片が舞うが、もうそこには標的はいない。


 何度も見た攻撃だ。体勢を立て直す前に、がら空きになった背中に追加で攻撃を叩き込む。


「グォッ!!」


 オークが吠え、振り向きざまに腕を伸ばしてくる。


 だが、僕はすでにその間合いの外へと跳んでいた。


「フゥ──…」


 息を整えながら、間合いを測る。


 オークの傷口から血が溢れる。だが、まだ倒れない。こいつらはしぶとい。しかし、この出血量だ。そう遠くないうちに倒すことができるだろう。

 

 このままヒットアンドアウェイに徹して奴に傷をおわせ、動きが鈍くなったところでトドメを指す。

  

 オークが再び突進してくる。


 同じ動き。

 同じ癖。


 当初の素早さは失われたものの、その圧倒的な質量による攻撃は、人の骨なんてクッキーのように簡単に砕いてしまうだろう。そうならないよう油断せず、先ほどから繰り返している攻防を続けるのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「グ……ォ……」


 声にならない音が漏れ、オークの体が、前のめりに崩れ落ちた。


 オークと戦い始めてからどれだけ経過しただろう。薄暗い地下──ダンジョンでは時間の流れなんてものはわからない。まぶしいばかりの輝きと恵みを与えてくれる太陽の光もここには届かず、刻限を教えてくれる機械なんてのは高価でとても買えたものではないのだ。


「……今日はこれで終わりかな」


 小さく呟き、周囲の安全を確認してからオークの解体に取り掛かった。


 オークの魔石は売ればそこそこの金になるし、この分厚い皮膚も加工すれば鞄や財布になる。

 

 オークを一人で狩れるようになって初めて冒険者は生計を立てれるようになるのだ。


 ただ、自分一人ではオーク一体を倒すのに時間がかかりすぎるし、武器の損傷も激しい。装備のメンテナンスや道具の準備なども考えると純粋な儲けはかなり減るだろう。


「そろそろ一緒にダンジョンに潜ってくれる仲間が欲しいなあ。敵の攻撃を受け持ってくれる戦士と、後方で支援してくれる魔法使い!」


 仲間がいればオークを倒すのももっと楽になるし、ダンジョン探索の効率も上がる。その代わり一人当たりの取り分だとか、チームワークだとか色々考えなきゃいけないことは増えるが、それはまあ仲間が出来てから考えればいいことか、と思い直したところでオークの解体を終え、魔石と使える部位を鞄に詰め込みダンジョンの外へ歩き始める。


 今僕がいるのはリオネル王国の都市、グローラント。その近郊にあるダンジョン「ブロスメイリ」である。


 ダンジョンとは、地下に広がる巨大な空間のことである。その形は場所によって様々で、僕が現在探索中のブロスメイリのように迷路になっている洞窟もあれば、なんと空が広がっているダンジョンもあるらしい。


 そして一番大事なのがダンジョンに生息する魔物や、ダンジョン内で採れる鉱物などの所謂「ダンジョン資源」だ。

 ダンジョンがある場所に探索者が集まり、ダンジョン資源を交換し合い市場が発展し、ダンジョンの近くに栄えた都市が出来上がっていくのだ。この都市、グローラントもダンジョン「ブロスメイリ」目当てでやってきた人々が作り上げた街だと聞き及んでいる。実際、リオネル王国でもこの都市は有数であり、豊富なダンジョン資源による交易が盛んだ。


 今から僕が行く探索者ギルドではダンジョン資源の買い取りの他、ダンジョン内部の安全性の確保、ダンジョン資源の管理、探索者の登録などダンジョン関係の多岐に渡る業務を行っている。


 要するに、ダンジョンに関わる人たちの拠点ってことだ。


「ま、行けばだいたい何とかなるってことだよね」


 たまに現れるゴブリンやコボルトを倒しながら元来た道を進み、ダンジョンの出口にたどり着いた。


 探索者ギルドは、ダンジョンの真上に建てられている。無骨な石造りの壁に、高い屋根。正面には大きなアーチ状の入口があって、その上には竜を模した紋章が掲げられている。


 広いホールには長いカウンターが並び、それぞれに「依頼受付」「登録」「買い取り」なんて札が掛けられている。

 

「えっと……あ、あれだ」


 僕は「素材買い取り」と書かれた窓口に向かい、赤い制服を着た女性職員から申請用紙を受け取る。


 「こちらにお名前、探索者番号、買い取り希望の素材の種類をご記入ください」


 言われるがままに紙書きこんで職員に手渡し、代わりに受付番号62と書かれた紙を受けとる。

 

 「準備が出来ましたらそちらの番号でお呼びいたします。館内で少々お待ちください」


 オークを倒すのにだいぶ時間がかかったからもっと遅くなると思っていたが、窓から差し込む光はまだ日が沈んでいないことを告げていた。この時間ならまだ他の探索者も戻ってきていないだろうし、すぐに呼び出されるだろう。


 果たしてその予感が正しかったのか僕の番号はすぐに呼ばれ、別室へと案内された。


「お願いします」


 軽く頭を下げてから、背負った鞄をカウンターに乗せる。


 中から取り出したのは、折りたたんでまとめたオークの皮と牙、小さな布に包んでいたいくつかの魔石だ。


「オークの素材と魔石です。さっき取ってきました」


 受付の男性は慣れた手つきでそれを受け取ると、状態を確認し始めた。


「そうですね、皮もちゃんと処理してあるし、魔石も傷なし。いいと思います。」


「ほんとですか? よかった」


 思わず顔が緩む。最初にオークの皮を買い取ってもらった際は皮は傷だらけで処理も下手、こんなんじゃ買い取ってもらえるだけありがたいと思えなんて言われたものだが、人は成長するものだ。


「少々お待ちください」


 男性は手際よく書類に何かを書き込み、奥の計量台に素材を乗せていく。


 カチャカチャと音がして、しばらくしてから顔を上げた。


「お待たせしました。今回はこちらの金額になります」


 差し出されたトレーの上には、銀貨が数枚乗っかっていた。


「おお、思ったよりいいかも」


 思わず声が出た。


 これまでで最高の買い取り金額である。ちょっとしたコツが掴めてきたのかもしれない。


「最近慣れてきました?」


 受付の男性が尋ねてくる。


「そんな感じです。まだまだですけど」


「いえいえ、おひとりでこれなら十分ですよ。パーティーは組まないんですか?」


「組みたいんですけどなかなか募集もなくて、ただ今より下の階層に潜るなら最低でも後二人は仲間が欲しいところです」


 そんな会話をしながら、お金を受け取る。


 ずしっと手に乗る感触に、自然と口元が緩んだ。


「また、お待ちしております!」


 軽く手を振られて、僕はカウンターを離れる。


 ポーチに報酬をしまいながらホールに戻ると、なにやら依頼掲示板のあたりに人だかりが出来ており、だれかの怒鳴り声も聞こえる。


 気になった僕は他の野次馬たちと同様に何が起こっているか見物することにし、人が集まる方へ歩いて行った。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ