第29話 月の仙人、冒険者になる
「アキトッ、冒険者ギルドへ向かうわよ!…護衛騎士の手配?お前と先生が同行するから必要なし!さぁ、行くわよ!」
プロミネンス王国南部特有の蒸し暑い夏が過ぎ去ったが、遂に暖かい気温が恋しくなってきた季節。小気味よく晴れ上がった収穫期を終えた秋、久しぶりに過ごす休日の予定はフランソワの鶴の一声で決まった。拒否権は持ち合わせていない。
数か月後に七歳の誕生日を控えたフランソワの成長ぶりは留まることを知らずその才能を大いに伸ばしてきた。
魔法の講師としてドミニクスを迎えてから一年数カ月が過ぎた。当初、過剰な魔力と仙気で暴走気味だった力は見事に制御し、今や初段の仙術を習得する寸前まで至っている。
ドミニクスの徹底したスパルタ指導食らいつき続けた結果、彼女の魔法は洗練を極めて並みの魔法使いを圧倒する実力を身に付けた。
そんなフランソワの一日は多忙を極めている。
日の出と共に起床した彼女はまず、我との組み手で身体を解すことから始まる。仙気を纏いながら行う組み手は自然エネルギーの吸収力が効果的。
朝食後はマナー教師による貴族令嬢としての勉強。いずれデビューする社交界での振る舞いや、ダンス、音楽、流行りの刺繍、ハープ演奏など。王国一の淑女に育てたいシェヘラザードは、国中からその分野のエキスパートを高報酬で抜擢した。
我なら数日で逃げ出すであろう礼法の後はドミニクスによる魔法の勉強。午後3時から夕方までは我が剣術と仙気の稽古をつける。終わりに全ての技術を使用した模擬戦を行う、魔法、仙気、剣術を駆使した実戦形式の訓練は最早、七歳の子供が行う段階を飛び越えていた。
夕食後は当日の復習と瞑想を欠かさない。訓練で消耗しきった魔力と仙気を回復するには瞑想が一番だ。
話は少し逸れるがこの一年の間、平穏だったかと問われれば我は食い気味に『否』と即答するだろう。むしろ、厄介事が満載だった気がする。
やっぱり印象深い出来事は…王家との関係がより一層拗れた件だろう。
原因は単純明快。良い意味でも悪い意味でも高名な『深淵魔導士』ドミニクスがヴァニシア公爵に雇われたからだ。その噂が王都を駆け巡る速度といったら、飢えたブルドッグがハニーブレッドを平らげるよりも速かった。
引っ越しの準備が忙しいので今回は短いです…。




