第二話 最高にレアな最弱スキル
「今日は君たち三十二名が待ちに待ったクラス分け試験の日! 三月二十日、木曜日、大安吉日である!!」
学校前の公園に、野太い声が響き渡った。
声の主は、ヒゲモジャの大男。
ぴっちりとした軍服に身を包んでいるが、服の下で盛り上がる筋肉が今にも布地を弾き飛ばしそうだ。
「ワガハイは建御雷神である!」
自衛軍大将が直々に監督に来るとは、今日の試験がいかに重要か物語っている。
「総理からありがたいお言葉が届いておる!」
建御雷神大将がそう宣言すると、公園に設置された大型モニターが起動し、国民なら誰もが知る特徴的な老人の顔が映し出された。
「ほっほっほ。ワシは大国じゃ。ちっとは名も知れておるかのぅ?」
ツルツルに光る頭と、真横にピンと伸びた白い口ヒゲ。
そのヒゲはまるで飛行機の主翼のようで、一度見たら忘れられないインパクトがある。
「おいおい、リモートとはいえ総理大臣まで挨拶するのかよ」
「見て見てあのヒゲ。片側だけでも五十センチはあるんじゃない?」
「すげえ。ホンモノの総理だ……」
総理大臣の登場に、クラス中がざわついた。
「静かにせよ!」
建御雷神大将が一喝すると、瞬時に辺りは静まり返った。
「よいよい。ほっほっほ。元気があってよろしい。この国の平和と未来は、君たち若き力にかかっておる。大いに期待しておるぞ」
大国総理が短く激励すると、モニターの映像はプツンと切れた。
「総理はお忙しい方である! 激励に応えるよう全力を尽くせ! これより試験を開始する!!」
◇ ◇ ◇
「うりゃあああ!!」
ドームの中で、猿田が渾身の力でスライムをぶっ飛ばした。
スライムは勢いよく金網に激突すると、パンッと弾けて光の粒となり消滅した。
「よっしゃあああ! レベルアップ!!」
猿田がガッツポーズを決める。
建御雷神大将が右手をかざして何かを唱えると、空中にホログラムのように猿田のステータスが表示された。
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猿田正彦 17歳 男 レベル:1
HP:20/20 MP:0/0
攻撃力:16
耐久力:8
速 度:6
知 性:2
精神力:2
幸 運:3
スキル:黄金の鎧(発動すると耐久力を110%アップ)
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猿田は晴れて「ステータス持ち」となった。
一般人のレベル0からレベル1へ。冒険者としてのスタートラインに立ったのだ。
「なかなか見どころありだ!」
建御雷神大将が満足げに声を張り上げた。
「『黄金の鎧』というスキルは、発動すると耐久力を110%アップさせるようだ。猿田君と言ったか、卒業後は我が隊に入りたまえ!」
「は、はい! ありがとうございます!」
猿田はビシッと敬礼した。
彼が誇らしげに金網から出ると、次の生徒が入る。するとまた都合よく、スライムが一匹だけ現れる。
空中にステータスを表示したり、スライムを意のままに出現させたり。
これも建御雷神大将のスキルの力なのだろうか?
世界トップクラスの実力者と言われる彼の能力は、底が知れない。
「炎のスキル! 火炎を身にまとい攻撃力と防御力をアップさせる! これは珍しいぞ!」
「分身スキル! 己の完全なる分身を作り出すスキル! レアスキルだ!」
「光のスキル! 光線を指先から発する! これもレアだ!」
次々と生徒たちがスライムを倒し、レベルアップしてスキルが判明していく。
「お、お願いしますっ!」
必死に絞り出すような声で金網に入ったのは、ミキだ。
足が震えている。大丈夫だろうか?
だが、結果は驚くべきものだった。
「承継のスキル! んん? これは超レアスキルだ! 他人のスキルを別の誰かが使えるようにする、最強のサポートスキルだぞ!」
建御雷神大将でさえ驚きの声を上げた。
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月詠ミキ 17歳 女 レベル:1
HP:6/6 MP:0/0
攻撃力:1
耐久力:2
速 度:2
知 性:4
精神力:4
幸 運:4
スキル:コネクト(他人のスキルを別の誰かが使えるようにする)
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「ミキ、良かったな!」
金網から出てきたミキに、俺は駆け寄って声をかけた。
「う、うん。人のために役立つスキルでよかった。相手が魔物とは言え、直接戦うのはあまり気が進まなかったし……」
「ミキらしいな。次は俺の番だ。俺は戦闘に役立つスキルがいいな」
俺は金網の扉を開けて中に入った。
目の前がカッと光り、スライムが出現する。
俺は一呼吸置いて、支給された剣を一閃させた。
スライムは一瞬で真っ二つになり、光となって消える。
「ほうっ!」
建御雷神大将の感心した声が聞こえた。
実戦は初めてだが、訓練は真面目にこなしてきた。特に剣技には少しだけ自信がある。
高速剣や二刀流、あるいは魔法剣。剣技に関わるスキルが欲しい!
期待に胸を膨らませて待っていると、大将が叫んだ。
「リストリクト! これは稀の稀の稀レアスキルである!!」
「おおおおお!」
クラス全員の視線が一斉に俺に集まる。
これまでの人生でこんなに注目されたことがないので、気恥ずかしさと興奮が入り混じる。
しかし、リストリクトとは一体どんなスキルなんだ?
「建御雷神大将! 俺のスキルはどんな効果があるんでしょうか?」
大将が説明を続けないので、俺は思わず尋ねた。
しかし、大将はこちらを見つめたまま固まっている。
「う、うむぅ……」
全てに勢いがあるはずの建御雷神大将が、なぜか口ごもっている。
嫌な予感がした。
「教えてください!」
俺は頭を下げて頼み込んだ。
大将は重い口を開いた。
「レベルを常に『1』にするスキルのようだ……」
「えっ? どういうことですか? レベルを常に1にするって……」
「言葉通りの意味である。自身のレベルを強制的に1にするスキルだ。経験値を積んでレベルが2や3になっても、即座に1に戻される」
は……?
そんなスキル、あるのかよ……。
「おいおい! なんだよ、そのハズレスキル! ぶわーっはっはっは!!」
沈黙を破り、猿田が大笑いした。
それにつられるように、クラス中から笑い声が沸き起こる。
「こ、こんなスキル、一生使えないじゃないですか!」
俺が悔しさに震えて叫ぶと、建御雷神大将が静かに、だが残酷な事実を告げた。
「稀で稀で稀なことに、これは『自動発動スキル』だ。つまり、スキルはすでに発動している」 「え……? つまり、俺は……一生レベル1のまま?」
目の前が真っ暗になった。
悔しくて、情けなくて、涙が溢れそうになる。
こんな顔、誰にも見られたくない。
俺はたまらず駆け出した。
「ヒサシくん!」
ミキが追ってくる気配がした。
「来るな!」
俺が怒鳴ると、ミキの足音が止まった。
振り返らなくてもわかる。彼女はきっと悲しそうな顔をしているだろう。
だが、今の俺の泣きそうな顔を見られるよりは何倍もマシだ。
「おいおい! 逃げ出したぞ!」
「あっはっは! おもしれー!」
背後から、俺を嘲笑う声が追いかけてくる。
悔しさと恥ずかしさで頭の中がいっぱいだった。
そして、この時の俺はまだ知らなかった。
この「ハズレスキル」の本当の価値を。
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天野ヒサシ 17歳 男 レベル:1(リストリクト効果発動中)
HP:8/8 MP:0/0
攻撃力:4
耐久力:2
速 度:2
知 性:2
精神力:2
幸 運:4
スキル:リストリクト(常にレベルを1にするスキル/自動発動)
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