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温泉卓ゲ部の奇妙な日常  作者: 宵宮祀花
STORYⅠ◆沼への入口
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運命の出逢い

「適当に広げますよ」


 トレーの中に、じゃらじゃらとダイスが撒かれていく。硬質のものをばらまいたのに音があまり響かないのは、このトレー自体がクッション素材で出来ているからだと巴が言う。


「音や声は、常に我々が気にしなければならない事項です。気分が盛り上がると知らず識らず声が大きくなりがちですからね」

「こういう個室ならまだいいけど、オフセはオープンな場でやることもあるから、そういうときは隣の卓の邪魔にならないように気にしないといけないんだよ」

「なるほど……そうですよね。わたしも気をつけます」


 先日も羽月に声量を注意した手前、自らも気を引き締めなければと真剣な顔で頷くと、またもや隣から腕が伸びてきて風月を囲い込み、犬猫を可愛がるかの如く撫で回し始めた。


「ふふふ。いい子でしょう」


 自慢げに言う羽月に苦笑を返し、千景は風月に「好きなのを三つ選んで」と言った。


「あとでまた説明するけど、ゲーム中は十面ダイスをいくつか同時振りすることがあるんだけど、キャラメイクの計算は単純に合計値だから難しくないと思うよ。取り敢えずは三つどうぞ」

「わかりました」


 トレーを見ると、様々な色のダイスが散らばっている。クリア素材のものやいちごミルクの飴と見紛う甘い桃色のもの。翡翠を切り出したかのような深い緑色をしたものや、黒地に金色で文字が彫り込まれたものなど。そしてよく見てみると、零から九までが書かれたものと、十から始まって00という見慣れない数字で終わっているものがある。


「あの、これとか、十ずつ増えてるみたいですけど……」

「うん。そういうのもあるよ。一の位と十の位を別に書いてあるやつだね。別のゲームで使う判定なんだけど、一の位の零と十の位の00が同時に出たら百になるよ」


 感心の溜息を漏らしながら、色とりどりのダイスを眺める。と、一つ気になるものを見つけて、手に取った。零の代わりに桜の絵が刻まれた、クリアピンクのダイスだ。中にラメが混じっていてとても可愛らしい。


「これ、凄く可愛いですね」

「おや。お目が高い。それは桜ダイスといって、あるメーカーが春限定で売り出したものですよ」

「限定品なんてのもあるんですね。凄いなぁ……」


 光に透かせばラメ入りの素材がきらきらと煌めく。

 感嘆しつつ眺めていると、巴が「気に入ったならそれにしますか」と風月に問うた。


「はい。良かったら此方、お借りしたいです」

「桜ダイスは桜色の他に白と黄緑もありますよ」

「そうなんですね。……あっ、本当だ。こっちも可愛いですね」


 手のひらに三つ並べると、尚更砂糖菓子のようで。目を輝かせて桜もちカラーのダイスに見入る風月を、千景と巴が微笑ましいものを見る目で見つめていた。


「そんなに気に入りましたか」

「はいっ。限定品じゃなかったら買いに行きたかったくらいです」

「なら、差し上げますよ、それ。一つずつどうぞ」

「えっ!」


 そんなつもりではなかったと遠慮しかけた風月に、巴は淑やかに微笑みながら言う。


「家に帰ればまだ数十個ありますから」

「数十!?」


 いま目の前にある分でさえ風月にとっては無数としか言えない数だというのに、彼はさも当然の顔をしてこれ以上所持していると言うのだ。しかも驚いているのは風月だけで、周りの誰一人全く何の反応もしていない。


「ああ、数量限定ではなく期間限定でしたので、買い占めにはなっておりませんよ」

「え、あ、あの、そういう心配では……」

「そういうわけですから、どうぞご遠慮なく。お近づきの印です」

「は、はい。ありがとうございます……?」


 わけがわからないままに押し切られ、こうして風月の手の中に、初めてのダイスが転がり込むのだった。

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