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温泉卓ゲ部の奇妙な日常  作者: 宵宮祀花
SYSTEMⅠ◆デバッガー最終試験
22/23

帰還

 とても久しぶりに実家へ帰ったような気分になりながらベッドに横たわり、目を閉じて、意識を集中する。寝起きのような浮遊感に包まれたかと思うと、今度は全身に重力を感じた。

 目を開ければ其処は、見覚えのあるモニタールーフの内側。


「戻って……きたんだ……」


 モニタールーフを開き、ヘッドギアを外して息を吐く。ぼんやりしていると、視界にサマエルの顔が飛び込んで来て思わず息を飲んだ。


「お疲れさまです。大変でしたね」

「は、はい……」


 視界いっぱいのサマエルが退いて、天井のLEDから放たれる白い光が目を突き刺す。

 のろのろと体を起こして辺りを見回せば、三十基あるうち開いている筐体は二つしかなかった。そしてその二つを使用していた候補生であるジャターユともう一人、開始前にロノウェの同級生と言っていた少年の片割れバロンが、疲れた表情で所在なげに佇んでいた。

 ジャターユはイマジナリーフレンドを現実世界でも使用出来るパートナーロイドを所持しているらしく、肩に鷹のような鳥型ペットロイドを留めている。


「……な、なあ、アンタしか戻れなかったのか……?」


 チラチラと様子を見ていたバロンが、怖々訊ねる。ジャターユも黙ってはいるものの事の顛末が気になるのか、意識はルーナに向いているようだ。


「ううん、教官と、あとはカラヴィンカとコロンビーナがあとから来るよ。他は……」

「そっか……つーか、これだけしか助からなかったのか……」


 閉まったまま沈黙を保っている筐体を眺め、沈鬱な面持ちで溜息を吐く。阿鼻叫喚の声が外から聞こえるのを知らない振りで戻った手前、何とも言えない罪悪感が胸を渦巻く。


「あー! つっかれたー!」


 かける言葉も無く、しんと静まり返った室内に突如カラヴィンカの元気な声が飛び込んで来て、候補生たちはビクリと肩を跳ね上がらせた。見れば、ルーナの右隣と斜め後ろのモニタールーフが開いていて、上体を起こした格好の少女が其々肩を回したり伸びをしたりしている。


「ただいま、ルーナ」

「お帰り、カラヴィンカ。コロンビーナも、大丈夫?」

「はい。異常はなさそうです」


 リクライニングを戻して立ち上がり、改めて室内を見回す。

 閉じたままのモニタールーフの内側がどうなっているのか、座学の教本で見たことが事実なら、彼らは中で抜け殻になっているはずである。電脳世界に潜行した精神は、破壊されれば戻らない。何度も何度も、しつこいくらいに念を押されて言われてきたことだ。

 わかっていたつもりだった。だが、実際に自分の目で崩壊を見るのとではわけが違った。


「戻ったよ。候補生たちも、ちゃんと戻ってるね」


 部屋の奥の扉が開いて、別室でDiveしていたフレイが合流した。


「教官。他の候補生たちはどうなるんですか……?」

「彼らは然るべき手続きをしたのち、ご家族の元へ返されるよ」

「そうですか……それって、アイツもですか?」


 アイツと言ってバロンが視線をやったのは、ロノウェがいる潜行シートだ。

 フレイは言いづらそうにしながらも、静かに首を横に振った。


「彼は肉体も此方で処分することになっている。違法コードを使用した者は誰であれ家族や知人に会うことも葬儀を行うことも許されない。それくらい重い罪なんだよ」

「それに、一般の方に見せられるものでもありませんしね」


 呆れと侮蔑を溜息に乗せて、サマエルが補足する。

 どういうこと? と書かれていそうな表情の候補生を見回し、手招きをしてロノウェのシートを指差した。


「ちょっと、サマエル……」

「いい機会です。薬にもなるでしょう」


 そう言って候補生たちをロノウェのシート周りに集めると、外側から解錠してモニタールーフを開いた。


「ヒッ……!」

「きゃああ!?」


 シートに横たわっているロノウェだったものを一目見た瞬間、バロンは引き攣った声を漏らして目を逸らし、コロンビーナは顔を覆って叫び、その場にしゃがみ込んだ。ジャターユは顔色を悪くしながらも、眉を寄せてキツく睨み付けている。ルーナは無意識にカラヴィンカの腕に縋り付き、カラヴィンカはルーナを支えながら唇を噛みしめている。

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