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王国の秘密  作者: ヒエログリフ
19/20

ヒッタイト語象形文字が刻まれた粘土板



     2021年8月1日(日)、エジプト考古学に関する発表があり、非常に大きな反響を呼んだ。   エジプト考古学博物館に所蔵される、19王朝の歴代のファラオ達、ラムセス一世、セティー一世、ラムセス二世、メルエンプタハ、セティー二世、計五遺体のDNA分析調査が実施され、結果が発表された。

     それによると、セティー一世とラムセス二世の間には、親子関係が確認されず、血縁関係が否定された。  従来、ラムセス二世はセティー一世の実子とされてきたので、大きな驚きで迎えられた。  ラムセス二世は養子である?  18王朝の血統の者が養子に入ったのか?   19世紀に行われた遺体の身元確定に疑問があるのでは?  本当にファラオの遺体なのか? 王妃の浮気???

     反響は非常に大きく、19王朝の王権の在り方に対する再検討も必要ではないかと言う意見も提出されている。  またDNA鑑定調査に対する再検証も、必要であろう。


     なお、他のファラオの間の親子関係は全て確認された。 








     BC1272年、ラムセス二世の統治六年目。 エジプトは繁栄を極め、ファラオの威光はエジプト全土に輝き、異国にも轟き渡るのであった。


     今や、ラムセスはホルス神と見なされるだけでなく、戦いと性欲の神セトと同一視されるようにもなっていた。 ラムセスに対する信仰心は、長いエジプトの歴史でも、空前のものになろうとしていた。 全ての民はラムセスを神として崇め奉るのであった。  ファラオの性の力はエジプトに豊穣をもたらす源泉とされていたのだ。


     後継者の問題が不安視されていた王家であるが、王妃の懐妊に続き、複数の側室達の懐妊により、後継者の問題は解決されようとしていた。

     

     そして、王妃の出産。  王女、ビントアナトの誕生。

     

     二か月後には、側室メリエトラーの出産。 ビントアナトに続き、王女の誕生であった。  王女はネベイタウェイと命名される。




     セテムは今回も王女の誕生で安堵していた。 彼は恐ろしいのだ、もはや真実が露見してしまう事を恐れるのではない、もはやその可能性が低い事はある程度認識していた、彼が恐れるのは自らの存在の欺瞞性、背徳性にあった。  神々の存在を恐れるのだ、偽りのファラオである自分が、王家の谷にあるあの巨大墓に葬られ、再生を待つ事が恐怖なのだ。 本来、死後の再生などには無縁なはずの自分が、死後もファラオとして葬られ、再生するのが恐ろしいのだ。 偽りのファラオの再生、何という醜聞!  エジプトの神々、歴代のファラオを冒とくする、何という悪事だ。 死後でさえ、偽りのファラオとしての再生するなど、エジプトの神々を信仰する彼に恐怖を与えた。

      せめて王朝の後継者の血は残さぬ事、それがせめてもの彼の願いであった。 嘗てのラムセスがそうであった様に、セテムも後宮の女達を寄せ付けなければ、血が残る事はない。 そうすべきであったかもしれない?

      彼はファラオとして振る舞う事により、常時大変な緊張を強いられて来た。  そして恐るべき秘密を持つ者として大変に孤独でもあった。       ラムセスである彼に、付き従う数千の人々の誰一人も、真実を察知し、疑う者はいない。  然りながら、彼を人間として扱い触れ合う者は一人もいない、ファラオは神なのである、誰もが命令には絶体服従であり神として崇め奉り、足元に頭を垂れ、絶対者につき従うだけである。   実はこれは大変に辛いことでもあるのだ。 非人間的立場とも言えるのだ。  


      そうした彼の唯一の逸楽は、後宮で美しい女性達とふれあい、愛撫し肉体関係を持つことくらいであろうか。  テーベの都への帰還途中、あれほど恐れていた後宮こそ、今や彼の唯一の慰めの場と化していた。 若く、美しく、清廉な娘達に彼は惹かれ溺れ、無我夢中で女達と夜を過ごすのであった。


      不道徳な立場にある者ものとして、子孫を残したくはない。      しかし彼は我慢出来ない、懐妊を恐れても、やはり我慢出来ない。 何しろ、夜を過ごす後宮はファラオの女だけの世界だ。 しかもファラオは懐妊可能な女性の寝室で休むというのが、絶対的不文律なのだ。 彼には、後宮唯一の男性との行為を熱望する正妻、側室が二十人以上も控えているのだ。   どの娘も有力者、高官の娘達で、以前の彼など生涯目にする事も許されない高貴な身分の女達なのだ。 彼は我慢できない。 とても、我慢出来ない。 沢山の女性を抱くというファラオの重大な義務を果たしてしまう。 積極的に果たしてしまう。 それどころか、とても淫乱な行為に励んでしまう。  ファラオは強靭な性能力が求められ、性の強者であればあるほど評価されるので、ラムセスの評価はその意味でも上昇していく。 以前のラムセスと違い、多数の女達に喜びを与え、次々と懐妊させていく彼をセト神にたとえ崇拝する風潮が現れていた。  後宮の女官や宦官達も以前とは違う意味で更に多くの側室を揃える必要に迫られていた。  国中の身分のある、美しい娘達には後宮への誘いが絶え間なく行われていた。 そして、アメン大神殿での儀式が執り行われ、側室の地位に就かされた、若い清らかな娘達は、ファラオの欲望の餌食となり、次々と懐妊させられて行くのであった。



      今宵も後宮に戻り、王妃の間で娘のビントアナトを抱いていると、ネフェルタリの美しさに刺激され、二人はお互いにもう耐えられないといった雰囲気になってしまう。 抱き合い接吻するファラオ夫妻を慌てて、女官と宦官が止めに入る。   出産からまだ日が浅い王妃にはファラオと結ばれる資格はないのだ。  女官や宦官はやっとの事でファラオを側室の寝室に向かわせる事に成功する。  

   



     その翌月には、側室のメシェネトの出産。  アメンヘルケブシェフ誕生、王子であった。  男子の誕生に後宮を中心にテーベの街は歓喜の声に包まれた。 遂に19王朝は第4代ファラオに即位出来る方を獲得したのである。

     王子を出産したメシェネトの声望は大きく上昇し、王妃と肩を並べるほどになっていた。 メンフィスの有力者である、メシェネトの一族の評価も一挙に上昇し、権力にすり寄る者も出始めている。  将来のファラオ外戚を睨んでいるのだろうか?


      その月の月末、側室のティティ出産。  今度も王子であった。 気位の高いティティは鼻高々である。  王妃の祝いの訪問を受けたとき、放漫な態度があったという事で、女官長、宦官長から注意を受けた。しかし王子を産んだ側室にあまり強い事は言えない様だ。  王妃とティティは従姉妹どうしで親しい関係だが、ティティは対抗心を抱いてしまう様である。  王子はカエムワセトと命名された。



      現在、側室のティーの出産が近ずいき、多くの見舞いの者が訪れている。


      更に、側室のヘヌトミラー懐妊。 ヘヌトミラーはラムセスの異母妹である。  セティーの娘と言う事もあり、後宮では高い地位にある。

      王子を出産すれば、王妃の権勢を上回るのではないかと噂される。

   

      側室のタウセレト懐妊。 タウセレトは後宮の女官であったが、王妃が側室として差し出した者である。  噂では、ファラオが望んだのであろうと言われる。 19歳である。


      側室のネフェルセヴェク懐妊。  彼女はメンフィスの行政長官アメエンムハトの娘である。  ハープの名手であり、演奏する姿の美しさが称えられる。 18歳になる。


      側室のクネメトネフェル懐妊。  クネメトネフェルはへリオポリス近郊の豪族センウセルトの娘である。 ファラオの即位時に立てられた側室の一人である。  六年目での懐妊である。 今年二十歳になる。


      更に、ファラオの同腹の妹、イシスネフェルトが第二王妃に立てられる事が決まり、大規模な儀式が挙行された。 後宮で生まれ、現在も後宮で暮らされているが、これからはネフェルタリの居住スペースの隣に移られ、ファラオの御寵愛を受けることになる。  王子を出産すれば、次のファラオの最有力候補になるだろうと噂される。  母、トゥ―ヤに似て美しい女性だ。

      様々な意味で、ネフェルタリに対抗出来る方である。  しかし、性格は穏やかで権勢欲が強い様には見えない。 後宮では、一番に懐妊が期待される方である。  18歳になる。 









2021年8月1日(日)、AP通信。  イスタンブール大学考古学研究科教授アジズ・サンジャル氏よりの資料提供。

      ヒッタイトの都、ハットゥシャより出土した粘土板にヒッタイト語楔形文字で記載された文書。 BC1210年前後の文書。 記述者はヒッタイト王宮のエジプト人宦官と推定される。 文書によるとこの人物は、カデシュの戦いで捕虜になり、ヒッタイトの奴隷になる。  宦官になりハットッシャの後宮で仕える。  ムワタリ二世の妃であるタワナアンナのダヌへパ、ハットゥシリ三世の妃であるプドゥへパ、王女のサウシュカンヌに仕える。

      60年以上、後宮で宦官を務めたという。 自分はエジプトの王族の出身で、ラムセス二世とは会ったことはないが、極めて近い関係にあるなどと主張している。 ラムセスの王妃ネフェルタリ、王妃イシスネフェルトの事など詳しく述べられている。  やや荒唐無稽な内容を含むが、興味深い一級の歴史資料と評価されている。

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