第10話 電動飛行機開発2
誘拐騒動の後は、しばらくセキュリティー関係の研究に明け暮れていたが、電動飛行機開発に向けて、グライダーに続いて着手したのが、軽量、高出力のエンジン開発だ。
この世界の魔法は個人の魔力で発動しているが、魔術具は魔石のエネルギーで動かしている。
個人の魔法を効率的に魔法式に書き起こし、それに魔石のエネルギーを与える感じだ。魔法はその属性を持つ個人でなければ発動できないが、魔術具になっていれば、誰もが起動に魔力を少しだけ注ぐだけで、魔石のエネルギーだけで継続的に魔法を実現できるのだ。
俺には圧縮の魔法があり、ナンシーの娘のイレーヌには回転の魔法がある。
この二つの魔法を魔法式に描き起こしたのだ。
俺がやったのではない。
やってくれたのはピエールだ。
ピエールはハンナとエレーヌの間に生まれた男の子だ。
ピエールはエレーヌの優秀な頭脳を受け継ぎ、様々な魔法から魔法式を書き起こす天才だったのだ。
エヴァの誘拐事件の時にハンナから借りた闇魔法の魔術具もピエールが製作したものだったそうだ。
フルショア公国からの留学生として、リガリア王立アカデミーに来て、俺の実験室のメンバーになった。
回転の魔法を提供してくれた俺の娘のイレーヌも今では実験室メンバーで、ピエールとイレーヌは付き合っているみたいだ。
圧縮と回転の魔法式を組み込んだエンジンはターボプロップエンジンだ。
ターボプロップエンジンは現世ではターボファンエンジンが後継として使われていて、一世代前のジェットエンジンって感じのものだ。
ただ低速から中速ではターボファンエンジンよりも効率的だし、圧縮、回転の魔法との相性が良かったのだ。
電気と魔石のエネルギーの併用しているので、現世のものよりも大幅に小さくて軽いが、航空燃料並みのパワーが出るものを用意できた。
通常は航空燃料を燃やして、燃えたガスの力でプロペラを回して圧縮し、高温高速の圧縮空気にして後方に吹き出すのがジェットエンジンの理論だ。
この燃料を燃焼して回転と圧縮を生み出す部分を魔法式と魔石で補った。
そうしてこの小型高出力のエンジン2つを翼の上に取り付けた新型の機体をデザインした。
翼の上にエンジンをつけるのは、翼の下よりも上側に流れる空気の流れが早いと、翼に発生する揚力が増すからだ。
翼の上にエンジンをつけることで、離陸や着陸に必要な角度が大きくなり、離陸、着陸に必要な滑走路の長さも短くなるのだ。
こういう離着陸距離が短い飛行機をストール機という。
この新型飛行機の製造工場がツルーズに作られた。これまでは王都のケルトンの工房で作ってもらっていたのだが、飛行機の様な大型のものを作るには流石に手狭であり、王都でのこれ以上の拡張は不可能な状況であった。
ツルーズにはジョルジュが整備してくれた2000メートルの滑走路があり、飛行機を組み立てて、テストフライトを行う環境が整っている。
ツルーズフライトアカデミーでは優秀なパイロットが育ってきていた。
このため王都の工房の中で製作系が得意な工房にはツルーズに移ってもらい、王都はアカデミーと連携して、開発研究だけを担当する体制に移行した。
飛空挺の定期飛行ルートが王都からツルーズを経由してラケルトまで伸びており、今後飛行機の開発が進めば、さらに南大陸まで海を越えて伸びていくことが見込まれたからだ。
こうして新しく航空産業都市となったツルーズで新型飛行機が製造された。
新型エンジンを搭載した飛行機は操縦士2人と、乗員8人を乗せて、満タンの魔石エネルギーとバッテリーの状態で約1時間の飛行ができた。
搭載人数はやっとこ飛空挺1号機と同じレベルだが、飛行機は飛空挺とは速度が全く違う。
またちょっと風が強くなると飛べない飛空挺よりも新型飛行機は圧倒的に便利だった。
これまで丸一日かかっていたツルーズと王都が、1時間のフライトで結ばれるようになったのは非常に大きかった。
新型飛行機は離着陸に500メートルの距離が必要だったが、将来を考慮して王都の郊外にも2000メートルの滑走路が建設された。
このおかげで王都-ツルーズの定期航空路が運行される様になり、時間的には1日に3往復可能になった。
しかしながら1時間の航続時間はまだまだ短すぎる。
やはり次はバッテリーの改善が必要だ。
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