第2話 ピーター・クーリエの実験室
結婚式の翌日から、俺は普通にアカデミーの授業を行った。
ベクトル教授は基本的に教授がみんなに対して授業をする様な事はなかったが、俺はこの世界にはない知識や、科学技術を持っている。
俺の前世の知識の中で、この世界に伝えても問題にならない事は、どんどん伝えていこうと思っていた。
俺はすっかり前世の化学教師に戻ったみたいな気持ちになっていた。
前世では化学にほとんど興味のない女子高生を相手に、授業をするのは辛かった。
ほとんどの学生は俺の話を聞かず、ネイルをいじったり、睫毛の手入れをしてたり、酷い奴らはお菓子をボリボリ食ってたりしていた。
授業中に俺の話を真面目に聞いていたのは白井真里亞くらいだったなあと思い出した。
その白井真里亞はマリーとなって、今も俺の前で俺の授業を一生懸命に聞いている。
マリー以外の学生達も真剣に俺の話を聞いて、一生懸命にメモを取っている。
こんなに向学心に燃えた学生たちを相手にした事はなかったなあと、講義をしながら、俺は嬉しくなっていた。
俺はピーター・クーリエの実験室で、希望をする学生に対して授業をするが、授業に参加するだけでは単位を与えなかった。
ベクトル教授と同様に課題提出にのみ単位を与える事にした。
日本の教育では単に知識を獲得する事に重みが置かれすぎていると俺は思う。
知識を学ぶ事は大事だが、それを使いこなす事がもっと大事なのだ。
知識を獲得するのに失敗はほとんどないが、それを使いこなすには失敗がつきものだ。
失敗をすると痛い目にあう。
失敗の責任を追及される。
失敗を非難されるかもしれない。
失敗をしないためには、何もしなければ良いのだ。
しかし俺は何もしない人間が唯一の人生の失敗者になると思う。
発明では成功するまでに何度も失敗する。いや成功は最後の一回であって、それまでの全てが失敗だった筈だ。
最後の一回の成功が生まれるまでに、何度も失敗を糧にしたものだけが、最後の成功を手にできるのだ。
エジソンは電球の開発に成功するまでに、1万回失敗したと言われている。
そして開発成功時にあと1000回失敗していたらどうしていたかと尋ねられて、開発の楽しい時間があと少し伸びただけだと応えたそうだ。
なので、自分で成功したと思える課題を提出できた者には、僅かなりとも単位を与える事にした。
まあ単位1でも、学生には励みになった様だ。
それをさらに改善して提出したら、一旦前に与えた単位を取り消して、さらに追加で単位2を与えたりした。
また俺は授業に顔を出すだけで、課題を全く提出しない学生も授業の中で色々と意見を言わせるようにした。
学生も教授の話をただ聞いているだけではつまらないだろう。
俺の性格はポジティブ思考で自立型だ。
前世の何かの本で読んだことがあるのだが、ポジティブ思考で自立型の人というのは、前向きに新しいことに取り組んでいく傾向が強い。
このタイプは創業者で社長をやっているワンマンな人に多いらしい。
性格的には楽観的で、人の面倒を見たがる。大きなヴィジョンを持ち、問題解決指向だ。
しかし反面他人の感情には無頓着で、過去の問題を軽視しすぎる傾向がある。
そういう人がどんどん積極的に自分のペースで突っ走ると、他の人はついていくのに苦労をしてしまう。
結果として周りにイエスマンばかりが集まってきてしまい、みんなが俺に依存するようになるのだ。
俺の恩師であるベクトル教授はポジティブ思考だが、依存型のタイプだった。
このタイプはなごみキャラで、場を柔らかくする特性がある。
自分のことを無能だと思っているので、学生の良いところを認めるのが潔い。
おかげで学生たちの方がベクトル教授を引っ張っていって、どんどん積極的になることができたのだ。
そして俺の妻のマリーはネガティブ思考の依存型タイプに分類される。
ネガティブで依存って何かイメージが悪く思われるかもしれないが、このタイプは周りの人の気持ちに敏感で、共有共感能力が高いのが特徴だ。
有能なカウンセラーなどに求められる能力で、問題を発見するのが得意なのだ。
一人だけで置いておくと、過去にとらわれて、感情的になりやすい弱点があるが、コミュニケーション能力では最強の属性なのだ。
ちなみにネガティブ自立型は俺の友人ではエドガーがそれにあたる。
有能な管理職タイプで、チェックが厳しく、綿密な仕事ができる、完璧主義者だ、
能力にみあった仕事をしていると素晴らしい働きをする。プロフェッショナルなタイプだ。
ただ能力と評価が見合っていないと、イライラすることが多く、批判的になりすぎることもある。
そういう時にはいじめっ子になって、ポジティブ依存型の人をいじめることが良くあるみたいだ。
この4つのタイプ分けはどれが良いとか悪いとかではなく、うまく組み合わされることで相互に良い影響を与えることができるように使うべきものなのだ。
だから俺は夫婦生活でも、実験室でもマリーに意見を聞くことが多かった。マリーは俺が気づかない学生たちの小さな反応を感じ取って、俺に伝えてくれる。
俺が一人で突っ走るのではなく、マリーがいつも俺にくっついてきてくれるのだ。
マリーが意見をしゃべった後は、学生たちも意見が言いやすいみたいだ。
おかげで俺にとっても意外に面白い意見を言ってくれる学生を発見する事が出来た。
やはりこの世界は魔法が使えるファンタジー世界だ。
俺は前世では不可能だとされている事や、まだ開発できていない事が、逆にこの世界では開発できる事もあるのではと思い始めたのだった。
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