ポストAI時代の検閲屋
俺の仕事はといえば、パートタイムの検閲屋。まぁそれほどたいしたことじゃないよ。今の時代、たいして大きな問題ができないようにだいたいなっているからね。それはこの割の良いパートタイムをやってて実感した。
AIがさ、ネットワーク上の檄文を抽出して、俺の方に割り振ってくるわけ。それを俺が人間100%ならではの感性で、倫理規定にのっとった中立的価値判断でラベル付けするってわけ。多少コメントをつけることもある。
基本はまあ、右からきたものを簡単な色をつけて、左に流すだけだ。それでそこそこ稼げているんだから、美味いところに落着いたなと自分では思っている。でもまぁ、稼ぎが増えて、最低生活保障が切られてしまって、結局このハイヴ暮らしからは抜け出せそうにない。それはつらい。
でもね、色々考えさせられる。ネットワークの檄文群をみていると。彼・彼女ら一様に無いのは、体系的な知識と、体系的な思考としての自己の考えを、ある程度まとまりをもって開陳して説得しようとする姿勢だよ。
ただただその場その場で、檄文を垂れ流してる。独裁者殿やAIやその周りに色々意見があるのはわかるけど、思いつきで檄文をひたすら量産したって何も変わらないとしか思えない。
AIがどうやって動いているのか、独裁者殿が俺たちをどの様に統治しているのか、みんな、そんなこと全然知らずに色々檄文を書いているから、色々と不毛に感じる。
この社会について考えるなら、独裁者殿の政治について考えるのならば、演算装置や演算装置の設計に関する知識、ネットワーク、発電周りの知識だって必要になるだろうな。プログラミングだってもちろんそうだ。
俺はハイヴ暮らしの生身の人間だから、今さら、大して何にもなれないだろうけど、パートタイムの検閲業をやりながら、色々考えてしまうね。色んな檄文を読んでいると。
だからまあ、最近は俺も演算装置の歴史とか勉強しているよ。独裁者殿がもう構築した世界だ。だからどうなるってわけでもないのは、わかっているんだけど、職域上もこういう知識は役に立つといえばたつからね。




