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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済/最終章突入!】  作者: 角乃とうふ
第十章 暗闇の中で神剣を掴め

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第五十一陣 その女、万夫不当

 ――ハッ、と尋人は意識を取り戻した。


 気が付けば、そこは、闇と沈黙に沈んだクラウスのコックピット。だが、今見たものは幻なんかじゃない。胸の奥に、にゃん丸――帝の遺言が、痛いほどの重みとなって残っていた。


「にゃん丸……帝……っ!」


 悲嘆に暮れる暇はなかった。外部集音器が、二股口街道を進軍する帝国軍の不気味な地響きを拾い上げている。動けぬ皇國軍をあざ笑うように、鉄の軍勢が皇都へと向かっているのだ。


「佐藤! 佐藤、無事か!!」


 通信機から響いたのは、必死に声を張り上げる大鳥居の声だった。


「司令! 俺は大丈夫だ! それよりも、帝が俺に天岩戸の最奥にある神剣を引き抜けって言ったんだ! それがあれば、クラウスをもう一度動かせる!」

「な、何だと……!? しかし、ここから天岩戸までは距離がある。その動かぬ機体では――」

「走るんだよ! この足で!」


 尋人がハッチを蹴り開けると、隣で沈黙する桔梗(ききょう)のハッチからも、凛が身を乗り出していた。その瞳には、悔し涙の膜が張っている。


「凛!」


 尋人は機体から飛び降り、桔梗の足元へ駆け寄った。上を仰ぎ見、真っ直ぐに凛の瞳を見つめる。


「凛、俺を信じて待っていてくれ! 必ず、必ず、お前を、みんなを助けに戻る!!」


 凛は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに武人としての毅然とした面持ちを浮かべ、強く頷いた。


「尋人……。ああ、信じている。お前なら、きっとやってくれると。――皇國の未来、お前に託すぞ!」

「佐藤、よく聞け!」


 大鳥居が桔梗の無線越しに叫ぶ。


「クラウスから五時の方角、突き当りの岩壁を見ろ! 良く調べれば、隠された石扉があるはずだ。そこが天岩戸へ直通する地下道だ。……本来は帝の緊急脱出用に作られた避難経路だが、おあつらえ向きだ! そこを逆にひた走れ!」

「助かったよ司令! 行ってくる!」


 尋人は大鳥居に指示された岩壁の隠し扉をこじ開け、暗い地下道へと飛び込んだ。一秒でも早く、一歩でも前へ。皇都を、仲間を、凛を守るために、尋人は力を振り絞り暗闇を疾走し始めた。


* * *


 一方、地上では最悪の光景が広がりつつあった。

 二股口街道の防衛ラインを悠然と素通りした帝国の無人機巧兵(スチームドール)団は、もはや目前に迫った皇國の首都を蹂躙せんと、着々と進軍を続けていた。


 皇都の北の玄関口「一本木関門」。

 避難が遅れた住民たちが恐怖に怯え、逃げ惑うなか、無人機巧兵の尖兵が刃をぎらつかせて門前に迫る。凄惨な虐殺が始まる――誰もがそう絶望した、その瞬間だった。


 ドォォォォォンッ!!


 物見やぐらの屋根から飛び降りてきた「赤い閃光」が、先頭の無人機を真っ二つに叩き潰した。

 猛烈な爆煙の中から姿を現したのは、朱塗りの具足。身の丈の倍近くある長大な大薙刀を構えるのは、ご維新の戦場(いくさば)で「鬼夜叉姫」と恐れられたお千代の姿だった。


「景虎ごめんなさい……。帝をお守りする約束を果たせなかった……。なれど、皇都の最後の楯となる帝との契りは一命を賭して果たす!!」


 鋭い眼光が面頬の奥で光る。

 無人機巧兵が一斉に襲いかかるが、お千代の動きは生身のそれとは到底思えないほど苛烈だった。大薙刀が滑らかな円を描いて一閃。刃が鉄の装甲に触れた瞬間、まばゆい霊子の光が爆発的に膨れ上がり、無人機を木っ端微塵に爆殺した。


 一撃、また一撃。機巧甲冑すら身に付けていない一人の荒武者が、帝国の最新鋭機を次々に破壊していく。


* * *


「……ほう! これは、信じがたい光景だ……!」


 【アイアン・クラーケン】のブリッジで、イワンが最前線から転送されてきた画像を確認して、心底不思議そうに口元を歪めた。


「機巧甲冑もなしに、我が軍の無人機を圧倒している……。理論上、ありえない話だが……。いや、あの戦士の持つ武器の刃紋……まさか、『流星剣』! よもや、皇國にも存在していたとは……。隕鉄の力で大気中の霊子を刀身に異常吸着させ、接触と同時にボイラーのように大爆発を起こしているのか。あれなら、霊脈を断たれようが、蒸気機関がなかろうが、お構いなしという訳だ」

「フハハハハッ! 敵ながらあっぱれな女騎士よ!」


 指令席のアレクセイが愉快そうに笑い声を上げる。


「せいぜい、踏ん張ってみるが良い。このアイアン・クラーケンがそこへ行くまで立っていたならば、褒美に儂の妃の末席に加えてやろう!」


* * *


 その頃、尋人は地下道を走り抜け、天岩戸の最奥へと辿り着いていた。

 崩落した神殿の瓦礫の山。その中心に、一本の古びた(つるぎ)が、鋭い青白い光を放って突き刺さっていた。神剣「天流星あまのながれぼし」。


「これが……帝の遺した、希望……!」


 尋人は両手でその柄を握りしめ、渾身の力を込めて引き抜いた。


 ズバァァァァンッ!!


 抜刀と同時に、大気を揺り動かすような透明な衝撃波が天岩戸を満たす。

 その刹那、崩れたかけた神殿の入り口から、凄まじいエンジン音とともに一台のバギーカーが派手に駆け下りてきた。


「ハハッ! 間に合ったな、サムライボーイ!」


 ハンドルを握るのはブリタニア王国公使のアーサーだった。助手席にはエレナ、後部座席には蘭と詩織、そして、先ほどまで共に帝の臨終に立ち会った弥生が乗っている。


「アーサーさん! みんな、どうしてここに!?」

「弥生がお願いしました! 私はここで『復活の舞』を奏上します! 尋人様は、エレナさんたちと早くクラウスの元へ!」


 弥生が叫び、詩織もバギーカーから飛び降りて祭壇へと走る。


「私もここで、弥生をサポートします。霊脈が復活したら、すぐ打電しますから!」

「頼んだぞ、弥生ちゃん! 詩織さん!」


 尋人は、アーサーのバギーカーに飛び乗り、エレナと蘭と共に、再び二股口へ向けて取って返す。その背中を見送りながら、笑顔で手を振る弥生に、詩織が固い声で問いかける。


「弥生……。尋人君に何も言わなくて良かったの?」

「これから決戦に向かう尋人様に後顧の憂いを持たせるなんて、乙女の恥です!」


 弥生は一切の迷いなく破顔してそう答えた。その覚悟に詩織はそれ以上、何も言えなかった。


* * *


 ガタガタと激しく揺れる車内。バギーカーが前線へと続く一本木関門に差し掛かったとき、前方の戦場を凝視していた蘭が身を乗り出して驚愕した。


「あの赤備えの武者……。ひょっとして、伝説の鬼夜叉姫!?」


 見れば、朱塗りの具足を纏った武者が、たった一人で帝国軍を足止めしていた。そこに、角砂糖に群がる蟻の如く、無人機巧兵が殺到している。


「アーサー、車を止めな! 助太刀に行ってくる!」


 蘭が叫ぶ。


「無茶だ、蘭! 機巧甲冑が機能しない今の君じゃ……!」

「それなら、これを持っていけ、ビッグガール!」


 尋人の制止を遮り、アーサーが座席の下から、重厚な金属製の籠手を蘭へと投げつけた。


「ブリタニア製の蒸気籠手(スチームガントレット)だ! 内蔵された小型圧力シリンダーで動く。皇國の霊脈が断たれていようが、これなら生身でも重機並みの怪力を叩き出せる!」

「最高だね、ブリタニアのダンディ!」


 蘭はガチリと両腕に蒸気籠手を装着すると、バギーカーから豪快に飛び降りた。愛用の巨大な戦斧を背中から引き抜き、一本木関門の泥土へと着地すると、赤い武者目掛けて猛然と駆け寄る。


「伝説の『鬼夜叉姫』とお見受けする! 特務隊六花分隊の蘭、助太刀に参る!!  ……ってお千代さん!?」


 叫びながら面頬の隙間から覗く素顔を見た瞬間、蘭の頭は真っ白になった。まさか、いつも美味しいご飯を作ってくれる夕凪亭の女将さんが、憧れの伝説の戦士だったなんて……。


 プシューーーーッ!!


 驚愕を吹き飛ばすように、ブリタニア製の籠手から苛烈な排気蒸気が噴き出す。蘭は戦斧を大きく振りかぶり、お千代の背後から迫っていた無人機の頭部を、一撃で木っ端微塵に叩き割った。


「……ら、蘭ちゃん? フフッ、とんだところを見られたわね……」


 お千代は驚きに目を見開いたものの、すぐに鋭い戦士の顔に戻って大薙刀を構え直す。


「あとでじっくり話を聞かせてもらいますよ!」

「……しょうがない子ね。あなたが一緒じゃ、死ぬに死ねなくなったじゃない!」


 伝説の鬼夜叉姫と、新時代を担う怪力姫。

 二人の生身の豪傑が背中を合わせ、一本木関門に絶対不可侵の防衛線を築き上げる。その先、凛たちが待つ二股口街道に向けて、尋人たちの乗ったバギーカーは、星の神剣を乗せて疾走していった。

ついに、お千代さんこと鬼夜叉姫が出陣!

次回、動けぬ凛たちにアイアン・クラーケンの魔手が迫ります。

はたして、尋人たちは間に合うのか!?


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