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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話完結】  作者: 角乃とうふ
第七章 新興大国と新たなる剣

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第三十三陣 賭けの勝算

 龍京(りゅうけい)宮殿敷地内の迎賓館。

 合衆国の特命全権公使グロリアは、立ち尽くしたまま、末席の少年――尋人が放った言葉を脳内で激しく反芻(はんすう)していた。


(――部品の完全な互換性。そして、移動式の組み立てラインによる徹底した流れ作業……!)


 ゾク、と背筋に走る戦慄。

 それは、熟練工の勘や経験という不確定要素を完全に排除し、素人であっても均一な品質の兵器を爆発的な速度で生み出すシステム。合衆国のトップ企業ですら、未だ概念すら模索段階にあるモノづくりの「未来の答え」そのものだった。


 しかし、彼女はただの技術屋ではない。合衆国巨大財閥の利権を背負う、冷徹なリアリストであり、一流の政治家だ。驚愕の直後、グロリアの脳細胞は凄まじい速度で「損益計算」を叩き始める。


(この少年のアイデアを我が合衆国が得るとして、本当に、彼らにベットする価値があるのか……?)


 グロリアは静かに座ると、腕を組んで沈思黙考する。

 思想的に相容れない、インペトラル帝国の覇権主義を阻止したいのは合衆国とて彼らと同じ。しかし、帝国と直接戦うとなれば、合衆国も相応の犠牲を強いられる。ここで彼らを後方支援することで、帝国の拡大を阻止できればベストだ。首尾よく勝利に導ければ、戦後、恩を売った大秦国と皇國に対し、大きなビジネスチャンスが生まれるだろう。仮に帝国の侵略が止められなかったとて、尋人のアドバイスから得られる利益は残る。工場の近代化が進めば、合衆国の力はさらに増すことは間違いない。

 何より――極東の守護者を気取りながら、今回の会談にすら出席していない、あの傲慢なブリタニア王国を出し抜き、この地域における合衆国の存在感(プレゼンス)を決定的なものにできる。……フフッ、さぞかし、アーサーは悔しがることでしょうね。


 完璧な勝算。これ以上ない、世紀の投資案件。

 グロリアはルージュの引かれた唇を吊り上げ、いつもの不敵な笑みを取り戻した。ただし、その瞳の奥にある光は、先ほどまでとは比べ物にならないほど輝きを増している。


「大秦国女帝陛下、ならびに皇國代表団の皆様。……我が合衆国は、あなた方を『全面支援』することに決定したわ」


 突然の態度変化に、会議室の重鎮たちがざわめき立つ。白龍(ばいろん)が怪訝そうに眉をひそめた。


「有り難い申し出だが、どういう風の吹き回しだ公使殿。先ほど、我々の工業力が前時代的だと切り捨てたのは貴殿ではないか」

「ええ、前時代的よ。だからこそ、我が国の協力で根底から作り変えてあげる、と言っているの。――ただし、一つだけ条件があるわ」


 グロリアは一同の視線を一身に浴びながら、尋人を指差した。


「少年。あなた、我が合衆国の工場近代化における『特別顧問』に就任しなさい。あなたのその頭脳(アイデア)を我が国に惜しみ無く提供すること。それが、全面支援の絶対条件よ」

「えっ!?  お、俺が顧問……?」


 突然の指名に、尋人は素っ頓狂な声を上げた。

 凛が慌てて間に割って入る。


「ま、待ってくれ、グロリア殿。尋人は帝国の侵略に対抗する我らの要! いくら貴国の援助のためとは言え、渡すわけには……!!」

「あら、それくらいは私も心得てるわよ。彼が抜けて戦線が維持できなくなったら元も子もないものね。だから、顧問と言っても非常勤よ。私が必要な時に通信で相談に乗ってくれれば十分よ」

「そ、そういうことなら……」

「それとも、恋人がさらわれるとでも思ったの? 美しいお嬢さん」

「なっ!? こっここ恋人などと……!!」


 耳まで真っ赤にして噛みまくる凛を見て、機嫌よく高笑いしながらグロリアは続けた。


「決まりね。彼を顧問とする見返りに、合衆国は最新の技術と必要な資材を供給する。あなた達の工業レベルをすぐに半世紀は進めてあげるわ」

「ま、待たれよ!」


 今度は、皇國の将校が慌てて遮る。


「確かに魅力的な提案だが、新大陸から外洋を越えて資材を運ぶには海路で数ヶ月もかかる! それでは、帝国の再侵略には到底間に合わん! そこはどうお考えか!?」

「あなた方もさっき見てたでしょう?」


 グロリアは不敵に笑い、テラスの外――広大な中庭に鎮座する銀色の巨体を指し示した。


「あれはただの空飛ぶ船じゃないわ。合衆国が誇る蒸気航空技術の結晶、『大型輸送艦』よ。あの同型艦をフル稼働させれば、合衆国から大秦国への高速補給線となる!」


 圧倒的な工業力、そして他国が持ち得ない航空技術。

 合衆国という超大国の「本気」と、それを一瞬で引き出した尋人の価値に、同盟軍の首脳陣はただ息を呑むしかなかった。

 グロリアは満足げに頷くと、最後に、もう一度凛へと視線を向けた。


「迫り来る帝国の大軍を迎え撃つには、まずはあなたたちの(ソード)を新たに作り出す必要があるわね。さっきの彼女」

「な、なんだ……!?」


 またぞろ、からかわれるかと、凛がわずかに身構える。


「あなたの『機巧甲冑』、皇國独自の優れた技術の結晶だけど、これから始まる未曾有の物量戦に挑むには、いささか華奢すぎるわ。私の船に積んである最高級の特殊鋼と加工機械、そこに少年のアイデアを詰め込んで――手始めに、あなた専用の『機巧武者』を新たに作りましょう!」


 グロリアは尋人と凛を見つめ、いたずらっぽく片目をつむって、両手を合わせた。


「クラウスにもガールフレンドが必要でしょ?」

というわけで、凛専用の機巧武者の開発がスタートします!

どんな機体が出来上がるのか?

次回をお楽しみに!


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