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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話完結】  作者: 角乃とうふ
第六章 女帝の帰還

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第二十七陣 六花の一番槍

「……ダメだ、このままじゃ追いつかれる」


 クラウスのコックピットで、尋人は歯噛みした。

 尋人の的確な荷物の差配と動線整理によって、街道を埋め尽くしていた避難民と大秦国軍の移動速度は劇的に向上した。しかし、それを上回る勢いで、戦術マップが更新されるたび、帝国軍の赤い部隊記号が背後から急接近している。

 詩織の索敵情報によれば、それは帝国が放った追撃部隊――機動力を優先した軽量無人機巧兵(スチームドール)団だ。


「尋人君、敵の先遣隊が街道の最後尾に接触するまで、あと十五分を切りました。このままでは、避難民の列が背後から襲撃されてしまいます……!」


 通信席の詩織の声に、焦燥が滲む。

 全員が完全に南方拠点へと逃げ切るためには、あと最低でも三十分の時間が足りない。その時間を稼ぎ出すためには、誰かがこの場に残り、迫り来る敵の軍勢を正面から食い止める殿(しんがり)を務めるしかなかった。


 だが、頼みのクラウスと氷閃(ひょうせん)は、度重なる激戦で各部の損傷が蓄積し、本格的な修理が必要な状態。そのうえ、南方の拠点へと向かう山道は狭隘(きょうあい)で、大型の機巧武者を運用するのは至難の業だった。


「……ならば、分隊長である私が残ろう。小回りの効く機巧甲冑『蒼月(そうげつ)』の機動力を生かせば、ある程度は時間を稼げるはずだ」


 凛が静かに泰然と名乗りを上げた。だが、その言葉を遮るように、快活な声が通信回線に響いた。


「ちょっと待ちなよ、凛。こういう泥臭い役回りは、あたしの仕事だよ!」

「蘭!? しかし、危険な役目だぞ……」

「危険は承知! だからこそ、分隊長様にそんな危ない橋は渡らせられないよ! それに、あたしのこの戦斧と『金剛』の出力なら、岩壁を崩して物理的に道を塞ぐこともできる。凛の綺麗な剣術より、あたしの方がこいうい荒事には向いていてると思うんだ」


 蘭は自身の機巧甲冑「金剛」をギチギチと鳴らし、愛用の巨大な戦斧を肩に担ぎ直した。


「確かに、地形を破壊しつつ足止めするなら、蘭の方が適性があるか……」


 凛もその理由に納得し、悔しそうに沈黙する。


 コックピットの窓越しに見える蘭の顔はいつものように笑っている。だが、その瞳の奥には、死地へ赴く覚悟が宿っていた。

 ゲームなら、ここは「盾役を一人配置して時間を稼ぐ」のが定石かもしれない。だが、これは現実の戦争だ。そして、一度失った命は取り返しがつかない。


「尋人。あんたが必死に頭をひねって、みんなを助けるための流れを作ってくれたんでしょ? だったら、それを無駄にするわけにいかないじゃない。あたしは六花の切り込み隊長よ。伝説の『鬼夜叉姫』に近づくためにも、ここであたしが名を上げるわ!」

「蘭……」


 尋人は息を呑み、鋼鉄の兜の奥にある蘭の瞳を、真っ直ぐに見つめた。勇ましい言葉の裏に、悲壮な覚悟が秘められていることを感じずにはいられない。でも、止めたところで、彼女は行くだろう。そして、それが現状の最適解には違いない。――ならば、尋人がなすべきことは、彼女の決意を信じて、最高の形で送り出すことだけだった。

 尋人は深く息を吸い、思いを込めて蘭に語りかけた。


「……分かった。確かに蘭がこの殿の適役だ。でも、約束してくれ。必ず生きて戻るって。こんなところで、君を失う訳にはいかない!」

「……っ!?」


 蘭の力を誰よりも信頼し、同時にその身を本気で案じてくれている――その純粋な想いに射抜かれて、彼女は一瞬、言葉を失った。巨大な戦斧の柄を握る手にぐっと力が入り、兜の隙間から覗く瞳がわずかに泳ぐ。いつもは頼れる弟分のように見ていたはずの少年。しかし、目の前で、真っ直ぐな眼差しで蘭を見つめているのは、気骨ある一人の(おとこ)だった。


(なんだよ、その顔……。出会ったときはただのひょろい奴だと思っていたのに、いつの間にか、男らしくなりやがって……)


 胸の奥がむずがゆくなるような、奇妙な気恥ずかしさ。それを誤魔化すように、蘭は視線を逸らして兜の(ひさし)をグッと深く引き下げると、ニカッと不敵な笑みを浮かべて戦斧を力強く構え直した。


「……ふん、当たり前だよ! 言われなくても、きっちり生きて帰ってやるよ!」


 少しだけ声に照れが混じってしまったことに内心で苦笑しながら、蘭は「金剛」の蒸気噴射口から爆音を上げた。


「殿だろうが関係ない! 一番槍はいただくよ! さあさあ、蘭様の一世一代の晴れ舞台、とくとご覧あれ!!」


 蘭は、その胸に宿った心地よい熱さを力に変えて、夕日に染まる峡谷の入り口へ向かって、弾丸のように飛び出していった。

古来より、撤退戦の最後尾は命を懸けた危険な任務……。

次回、蘭の大立ち回りをお見逃しなく!


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【更新時間変更のお知らせ】

8/20から、試験的に投稿時間を夜(21時以降)に変更します。引き続きご愛読いただけますと幸いです。

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