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甘い香りに群がる乙女

「いやいやちょっと!飛躍しすぎじゃない!?」


俺は東から差し出された紙、もとい婚姻届けから目を離せずにいた。おっぱい触るだけで結婚をしないといけないのであれば独身などこの世から消え失せることだろう。


「だって、だって・・・」


東は差し出した紙を受け取ってくれないことを察するとみるみる意気消沈していった。


「あの件については謝るから!なんでもするから!!」


東は自分の名前だけが書かれたそれを丁寧に四枚に折った。


「やっぱりダメかぁ」


「え?」


「いやあのあと雫ちゃんに言われたんですよ。おっぱい触れたのならもうそれは結婚だ、婚姻届けを持って行けって」


何がしたいんだ秋野は!


「私も、そうなのかなぁとは思ったんですが、私が藤宮さんを好きなのは事実ですし、結婚できたら幸せかなって思ってつい、やっちゃいました」


東はそうして寂しそうに笑った。それがほんとに申し訳なくて、俺は俯いた。


「・・・なんでもするって言いましたよね?」


「え?」


「なんでも、してくれるんですよね?」


なんでもとは言ったが、もしかしてやっぱり結婚を・・・?


「じゃあスイーツおごってください」


「あ、あぁ、それならまぁ全然」


「やったぁ!!じゃあ準備してくるんでちょっと待っててくださいね!」


そう言って東は自分の部屋に戻っていったのだった。あ、これからもう行くんですね。


俺も東に倣って身支度を整えた。ひょんなことからデートになるとは思いもよらなかった。まぁスイーツで事が済むというなら願ってもいないことだろう。そこでゾクッと背筋が凍った。背中に一筋の水滴を流されたような、気付いてはいけないことに気付いてしまったような。そういえばあのとき、


東はホールケーキを食っていなかったか?


ホールケーキなんて食われた日にはいったいいくらかかってしまうんだ。確か1ピースが600円くらいだったはずだ。単純に10倍したら6千円程になるだろう。ケーキで、6千円。怖すぎる。


程なくして部屋の呼び鈴が鳴った。


「藤宮さーん!いきましょうー!」


扉の先で東が大声を上げている。インターフォンって知らないのかな。部屋の壁に設置されているカメラ付きインターフォンからも東の声が聞こえてくる。スピーカーのようだ。うるさい。


「はいはい、今行きますよ」


スニーカーを履いて部屋を出る。東はちょこんとした格好で佇んでいた。「お待たせしました」そう言ってにぱっと笑う彼女は先ほどの意気消沈からは復活したと伺える。


「どこ行くの?」


「この間のお店はあんまりだったので、いつも行きつけのお店に行こうかと」


ホールケーキ食っておきながらいまいちとは。


「スイーツバイキングのお店なんで・・・あ!!」


「え?どうしたの?」


「・・・藤宮さん、スイーツバイキングって知ってます?」


「お前は俺を馬鹿にしてんのか。それともお前が馬鹿なの?」


そんな話をしながらアパートの階段を降りようとすると、誰かが下から上がってくるのが見えた。


「あ、春宮さんだ」


「あぁ、おはよう。いやこんにちはかしら」


咄嗟に身を隠す。なぜだか、今のこの状況は春宮には見られたくなかった。


「お出かけ?」


「そです!そです!ちょっとスイーツ食べに!」


「へぇ、そうなんだ」


「あ!!!」


東は俺の体を引っ張り出す。


「うわ、ちょっと、やめ」


「この人のおごりなんですよ!いいでしょう!」


春宮の前に姿を出す俺。途端、春宮の目線が冷たくなる。


「へぇ」


「あ、春宮さんも一緒に行きます?」


「「え?」」


唐突な提案に俺と春宮の声が重なる。それにちょっと嬉しく思いながらも、内心はすごく戸惑っていた。なんだこれ。なんだこの状況は。


「うーん」


春宮は考え込む。いやそんな必要なんてない。断ってくれ!東の世話だけでも大変なのにここで春宮も来るなら俺の心臓がもたねぇ!!!


「そうだねぇ、どうせ暇だし。おごりならついていっちゃおうかな」


終わった!!!!!なにこれ!!!!収拾つくんか!?!?!?!?


「じゃあ準備してくるから少し待っててくれる?」


「わかりました!!!」


春宮は足早に階段を登り、自分の部屋へ。東は顔をにまにまとしながら、


「よかったですね、藤宮さん?」


と言った。


いやもうほんと何がしたいんだよお前は。

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