72.狙撃手と火山
俺がジャッティの面々を再び視界に捉えたときには、彼らはもう火山エリアに入っていた。
俺も慎重に後を追う。
火山エリアはゴツゴツした岩肌が剥き出しの山だ。
大小様々な岩がごろごろしており、身を隠す場所には困らない。
そして山肌をずっと登っていくと山頂があり、そこに大きな火口がある。
火口からは少量ではあるがモクモクと煙が立ち上っており、どうやら活火山らしいことが窺える。
リアルでいえば活火山に登るなど正気の沙汰ではないが、これはゲームなので何も問題はない。
ジャッティの10人は山肌を登りながら、時折襲ってくるモンスターたちを撃退していく。
このエリアのモンスターは主にオオトカゲだ。
あと何かダチョウのような鳥。このダチョウは小さな火を吹く。
何で火山にダチョウがいるのかは知らん。
モンスターたちは見るからに強そうで、オオトカゲは攻守ともに優れており、ダチョウは突進からの攻撃力と火吹きが脅威だ。
しかしジャッティの面々も上級プレイヤーであり、また10人という盤石の体制で、モンスターたちをものともしていない。
ダンチョーの槍捌きは見事なもので、的確にオオトカゲの鱗を貫いているし、クッコロもナイトとしての防御力を遺憾なく発揮している。
その他の筋肉たちも腕力に物を言わせてモンスターたちを叩き潰している。
気になるのはリコッチだ。
何もしていない。魔力を温存している様子だ。
そして周りの面々もリコッチが傷つかないように立ち回っている。
ふむ・・・。
何となくジャッティの目的が見えてきた。
恐らく火口にいるエリアボスと戦おうというのだ。
ここは火山エリアであり、火属性のモンスターが多い場所だ。
当然、エリアボスも火属性だろう。
となれば氷系魔法使いのリコッチのスキルが有効だ。
雑魚相手にはスキルを温存し、ボス戦で一気に魔力を使い切る作戦と思われる。
もちろん俺も思考しながら足は止めていない。
かなりの距離を保ち、万が一にもジャッティに気づかれないように追跡している。
モンスターは俺のほうにはあまり寄ってこない。
先を行く脳筋軍団が露払いをしてくれているからな。
ジャッティの目的はわかった。
となれば、俺はどうするべきか。
上手い作戦を立てねばなるまい。
しばらく山肌を登っていくと、ジャッティの面々が火口に到着した。
火口は大きなクレーターのようになっており、脳筋軍団10名はナイトのクッコロを先頭にして火口に降りていく。
俺はそれを遠くから見届ける。
面々が完全に火口に姿を消したのを確認して、俺も火口に近づく。
火口はクレーター状ではあるが、かなり底が深い。
ジャッティの面々は底のほうまで降りており、姿が小さくなっている。
うん、ここでいいだろう。
山頂から火口の底を見下ろす位置。
地形的に上を取るというのは、狙撃手にとって重要なことだ。
下から上に撃つより、上から下に狙撃するほうが有利だからな。
俺は火口を見下ろす。
火口の底は溶岩が池のように溜まっており、超高温でボコボコと泡立っている。
ジャッティの面々はその近くまで降りると、先頭のクッコロが溶岩に何かを投げ入れる。
・・・何だ?
エリアボスを呼び出すアイテムだろうか?
俺は固唾を飲んで見守る。
すると溶岩がボコボコと膨れ上がり、ざばあああ!と巨大な影が姿を現した。
ジャッティの面々が素早く散開して陣形を取る。
ダンチョーが何か声を張り上げて、脳筋たちの士気を上げている。
あれは・・・!
俺は目を見張った。
このゲームを始めてから、初めて目にする。
どのゲームでも、いやゲームに限らずどんなファンタジー作品にも登場する最も有名なモンスター。
ある作品では最強の象徴として描かれ、また別の作品では主人公にやられるだけの噛ませ犬にも成り下がっている。
だがどんな作品でも、そのモンスターの特徴は変わらない。
遥か見上げるほどの巨躯。
全身をびっしりと覆う硬い鱗。
鉄をも砕く巨大なアギト。
その口内にチロチロと燃える赤い灯火。
小さきものを凝視する獰猛な爬虫類の瞳。
『ゴアアアアアアアアアアアア!!』
聞くだけで心臓が縮み上がりそうな咆哮。
空気がびりびりと震撼する。
――ドラゴンだ。




