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62.狙撃手、釣りをする

「では諸君、これより素材集めを開始する」


ダンチョーの一声で思い出した。

そうだ、俺たちはこの浜辺エリアに素材集めに来たのだ。

リコッチがそう言っていた。

決して砂浜を駆けてキャッキャウフフのためにやってきたわけではないのだ。

いや、こんなおっさんが本当にキャッキャウフフしたいのかというと微妙だが・・・。


「その素材だが、いったいどう集めるんだ?」

「実はですねえ、このエリアって沖のほうにシャチが出るんですけど・・・」




そういうわけで俺たちは小舟を借りて沖へと漕ぎ出した。


シャチなんてテレビの中でしか見たことはないが、確か姿かたちはイルカに似ているものの、かなり凶暴な性格をしていたと記憶している。

学名はオルカで、何でも自分より何倍も大きなクジラでさえ集団で襲い掛かって捕食するらしい。

人間以外に天敵はいないとさえ言われる海のハンターだ。


とはいえここはゲームの世界だ。

最強のシャチもHPゲージを持つただのモンスターであり、攻撃すれば倒せる相手だ。

懸念があるとすれば・・・。


「何で俺、釣り糸で簀巻きにされてるの?」

「何を言ってるんだい、ケンタロ。釣りをするために決まってるじゃないか」

「俺の知っている釣りと違うんだが?」

「我らジャスティスウィングではいつもこうして釣りをしてるんだ」


何なの? つまり餌は俺なの?

俺を海に投げ込んでシャチを釣るの?

仮にシャチが食いついたとして俺は耐え切れるの?


「なあダンチョー。そうだとしても、何も俺じゃなくてもいいんじゃないか? 頑丈そうなクッコロとか」

「釣り上げたシャチの攻撃を受け止める者が必要なんだ」

「ならダンチョーでもリコッチでも」

「釣り上げたシャチを倒す者も必要なんだ。ケンタロは役に立たない」


まあな。

それは正論だ。

こんな狭い小舟の上で戦闘になっても、俺は何もできない。

狙撃手には距離が必要なのだ。


リコッチとクッコロを見ると、2人とも当たり前のような顔でうんうんと頷いている。

むしろ俺がおかしいと言わんばかりの表情だ。

だがどう考えてもおかしいのはお前らだからな?

断じて言うがこんなものは釣りじゃないからな?


「センパイっ、安心してください! 海中では継続ダメージを受けるだけです!」

「それの何が安心だというのか」

「即死はしないので」

「そうかよ」


こいつはダメだ。

完全にジャスティスウィングに洗脳されている。


「ケンタロ、安心しろ。ちゃんと死ぬ前に引き上げてやる。私は上手いんだ」

「そうかよ」




どぼーん!と派手な飛沫が上がり、俺は海の中にダイブした。

正確にはダンチョーに突き落とされたのだが、ともかく海の中は綺麗だった。

海面に近い場所は太陽の光が差し込み、幻想的な雰囲気を作っている。

そこから徐々に沈んでいくと、光が差し込まず・・・とはならない。

暗いことは暗いが、いちおう視界は利く。

まあ真っ暗にしてしまうと自慢の高解像度グラフィックを見てもらえなくなるからな。


そこでぐるりと見回すと、海の中もきちんと作り込まれていることがわかる。

遠くには魚の群れが泳いでいるし、俺の口からはきちんと気泡が漏れている。

もちろんゲームなので苦しくはない。

ただ頭上のHPゲージが少しずつ減少している。

これがゼロになると俺は哀れにも溺死することになる。


だがその心配はなさそうだ。

向こうから人間よりも大きな影がいくつか接近してきた。

イルカに似ている。

なるほど、こいつがシャチか。


水族館で見るイルカは可愛いイメージしか沸かないが、海中でこいつが接近してくると少々恐怖感がある。

単なるゲームとわかっていても、やはり多少は怖いものだ。

シャチは近づいてきて・・・俺の下半身にガブリと食いついた。

うおお! 俺のHPゲージが一気に減る。

すぐに死ぬ。俺はすぐに死ぬぞ!


と、釣り糸で簀巻きにされている俺の身体がグーンと引き上げられる。

もちろん俺に食らいついているシャチも一緒にだ。

どんどん引き上げられて、ザバア!と海上に躍り出る。


「センパイ!」

「ケンタロ!」


小舟の上で、クッコロが俺を抱き止めてくれる。


「よくがんばった、下がって休みたまえ」


ダンチョーが労いの言葉をくれる。

そうだな、俺の役目はここまでだ。

HPゲージも1割くらいしか残ってないしな・・・。


狭い小舟の上でどう戦うのかと心配だったが、ジャスティスウィングの面々は手慣れたものだった。

クッコロが襲いかかるシャチをがっしりと受け止めて動きを封じ、その両脇からダンチョーとリコッチが攻撃を加える。

鮮やかな連携だ。何度も同じ戦い方を経験してきたのだろう。


そんなわけでさほど時間もかからずシャチを仕留めた。

ふう、これでお終いか。どっと疲れた。

・・・と思ったら、ダンチョーが俺にHPポーションを手渡してきた。


「これは?」

「早く回復したまえ。一匹仕留めただけでは素材は足りないんだ」

「・・・」


俺はHPポーションを煽ると、また簀巻きにされて海中にダイブした。

シャチに食われて引き上げられて、またダイブして沈んで食われて。

沈んで食われて沈んで食われて。

食われて食われて。


そのうち俺は考えるのを止めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] たまたま見つけたので読ませていただいてます〜 主人公が定期的に痛い目に遭うのが最高ですね 門番に斧ぶん投げられて死んだところは笑いました 今回のシャチ釣りはギルメン狙撃したセンパイへの仕…
[良い点] ここまで一気読んだけど本当に面白い! チートでもなく、普通にキルされちゃうところもいい! 主人公が正義や悪を振りかざす訳でもなく、たんたんと自分の道を進む所が最高!! [気になる点] リコ…
[一言] 理想›浜辺エリアでセンパイを悩殺 現実›沖合エリアでセンパイを絞殺(未遂) どうしてこうなった………
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