63.狙撃手と無人島
「ふむ、そろそろいいだろう」
ダンチョーが釣りの終了を宣言した。
ようやくか・・・。
げっそりしている俺と違って、他の3人はホクホク顔だ。
まあな。お前らエサじゃなかったもんな。
俺が延々と食われ続けている間、実に楽しそうに釣りをしていたもんな。
そんな表情を見せられると、俺としてもエサ冥利に尽きるよ・・・。
「ではそろそろ撤収・・・むっ?」
ダンチョーが表情を厳しくする。
何かと思ったら、向こうから高波が押し寄せてきていた。
そりゃあもう、こんな小舟など軽く飲み込んでしまうほどの高波だ。
「ダンチョー! 何だあれは!?」
「知らぬ! 総員、警戒態勢!」
「け、警戒ってどーすればいいんですかあ!?」
「あ、案ずるな! ジャスティスウィングの皆は私がまも・・・うわあああ!」
ざばああああん!!
高波が俺たちの小舟を飲み込んだ。
ごぼごぼごぼ・・・!
別に塩辛くもないし苦しくもないが、視界がぐるぐると回って暗転する。
い、意識が・・・。
******
・・・。
・・・。
・・・。
「はっ!?」
俺は目を覚ます。
がばっと身体を起こすと、手にざらりと砂の感触があった。
・・・砂?
見回すと、白い砂浜だった。
もしかすると最初の浜辺エリアに戻ってきたのか?
いや、違う。
プレイヤーが誰もいない。
それに見渡す限りのビーチだった浜辺エリアと違い、ここは何やら無人島のような場所に見える。
「んー・・・」
「うお!?」
隣でむにゃむにゃと声が聞こえて、俺はびくっとした。
慌てて見ると、リコッチが気を失っていた。
何だ、誰もいないと思ったがリコッチも一緒に流れ着いていたのか・・・。
仰向けに寝ているリコッチは、水着のせいで少々・・・まあ、目の毒だ。
こうして見ると、ことさらにスタイルの良さが強調されている。
俺はそっと目を逸らしながら、リコッチの頬をぺちぺちと叩く。
「リコッチ。起きろ」
「んん・・・んー?」
とろんとした目を開くリコッチ。
ぼんやりと俺を見上げている。
「ん・・・せんぱい・・・?」
「そうだ、センパイだ」
「んー・・・。せんぱあい・・・」
甘えるように俺の腕にしがみついてくるリコッチ。
「おい、リコッチ。落ち着け」
「えへへ・・・せんぱあい・・・」
ぎゅう~。
何やら幸せそうな表情のリコッチ。
柔らかな胸の感触まで再現しているとは、VR技術の凄まじさには驚嘆するが・・・。
このままでも困る。
「おい」
俺はリコッチにびしっとデコピンをする。
「いたっ!? え・・・?」
ぼんやりとしたままキョロキョロするリコッチ。
そうしてはっと覚醒する。
「せ、センパイ!?」
「落ち着け」
「で、でも・・・」
「とりあえず放してくれると助かる」
「え・・・わ、わああああ!?」
顔を真っ赤にして俺の腕から離れるリコッチ。
「す、スミマセン! センパイっ!」
「いや、いい。気にするな」
「う、ううう・・・」
リコッチは真っ赤になったまま俯く。
と思うと、ふと気づいたようにキョロキョロした。
「あれ・・・ここ、どこです?」
「無人島に見えるな。実際はどうか知らんが」
「・・・何で私たちこんなところに?」
「気がついたらここにいた」
リコッチはぽかんとしたが、すぐにタッチパネルを呼び出すと何やら操作を始めた。
このあたりの思考の切り替えはさすがゲーマーといったところだ。
どうやらギルチャで状況を聞いているようで、「ふむふむ」とか「ええっ」とか言っている。
「リコッチ、どうだ?」
「えっと・・・ダンチョーが言うには、たぶん浜辺エリアの突発イベントじゃないかって」
「突発イベント?」
リコッチの説明によると、こういうことらしい。
どこのエリアにも何らかの条件を満たすと、低確率で発生する突発イベントがあるらしい。
その突発イベントが発生するとイベント専用エリアに飛ばされ、クリアするか失敗条件を満たす、あるいはログアウトするまではイベントエリアから出られないようだ。
「まあつまり、慌てる状況じゃないということか」
「そーなりますねえ」
「とはいえこのエリアにいるのは俺たち2人だけだから、誰かに助けを求めることはできないと」
「そ、そうなります・・・」
2人という言葉に反応して、ほんのりと頬を染めるリコッチ。
可愛いんだが、そういう反応はやめてくれ。
「それでこれはどんなイベントなんだ?」
「ダンチョーが言うには、たぶんカップルイベントじゃないかって・・・」
「カップルイベント・・・」
なるほど、何となくわかった。
マンガや映画でもよくある、カップルが無人島に流れ着くシチュエーションだ。
そして親交を深めながら何らかの条件を達成して、無人島から脱出するのだ。
「つまり・・・そうだな。素材を探してイカダあたりを作ればいいのか?」
「うーん・・・。わかんないですけど、たぶん?」
まあそりゃあリコッチにもわからんか。
お互い初めてのイベントだからな。
「とりあえずイカダを作れるかどうか試してみるか。こんな何もなさそうな場所、さっさとおさらばするに限る」
「・・・ですか?」
「何だって?」
リコッチが小声で何かを言う。
聞き取れなくて俺が振り返ると、リコッチがやや潤んだ瞳で俺を見上げていた。
頬がうっすらと上気している。
「そんなに・・・センパイは、早く帰りたいんですか?」
俺は一瞬、言葉に詰まる。
「いや、だがダンチョーやクッコロも心配しているんじゃないか?」
「ギルチャで状況は説明してますし、それにログアウトですぐ脱出できるようなイベントで何を心配するんですか?」
「む・・・」
言われてみればもっともだ。
心配する要素などカケラもない。
いやしかしな・・・。
「それに、ほら。こんなおっさんと2人で浜辺にいるのも、気持ちのいいもんじゃないだろう?」
「センパイは・・・いやなんですか?」
じり、と距離を詰めてくるリコッチ。
たじろぐ俺。
リコッチは何やら決意を秘めた目で、じっと俺を見上げてくる。
「もう少しだけ、一緒にいちゃダメですか・・・?」




