61.狙撃手と浜辺エリア
「センパイ! こっちですー」
俺が待ち合わせ場所に行くと、3人いた。
リコッチ、クッコロ、ダンチョーだ。
そうか。リコッチは3、4人と言っていたがこのメンバーだったのか。
「やあ、ケンタロ。筋肉の調子はどうだい?」
「今日はよろしく頼む」
ダンチョーとクッコロがそれぞれ挨拶してくる。
果たして筋肉の調子を聞くのが挨拶かどうかは、議論の余地があるところだ。
「・・・ん? リコッチ、大丈夫か?」
「へっ? 何がですか?」
俺は驚くリコッチの顔を覗き込む。
うーむ。
「いや、普段より心なしか緊張しているように見えてな。気のせいかもしれんが」
「あははー。それはきっと気のせいですねっ」
「そうか」
もしかすると緊張しているのは俺のほうかもしれんな。
いや緊張とは違うか。初めて行くエリアだから少しばかりワクワクしているのだ。
「準備はいいかい? ではポータルを開くよ」
ダンチョーが何かのスキルを使うと、目の前にボワンと転送ゲートが現れた。
これは・・・あれだ。
レイド級ボスモンスターのジャイアントイノシシが出没したときに、復活地点で誰かが出していたゲートだ。
俺もそれに便乗させてもらって、レイド級がいる場所まで戻ったのだ。
「これは何かのスキルなのか?」
「ああ、ケンタロは初めて見るのか。ギルドスキルだよ」
「ギルドスキル?」
ダンチョーが説明してくれる。
ギルドに所属しているメンバーは、ギルドポイントとやらを消費してギルドスキルを使うことができるらしい。
転送ゲートの他に、ギルド戦でのみ効果を発揮する能力上昇スキル、生産の能率を一時的に向上させるスキルなどがあるとのこと。
そしてジャスティスウィングは、割と誰でも自由に使える体制を取っているようだ。
ギルメン同士の信頼があるんだろうな。
「さあ、浜辺エリアに出発だ」
ダンチョーの号令一下、俺たちは転送ゲートを潜った。
******
「おお・・・!」
俺は目を見張った。
燦々と輝く太陽。
どこまでも広がる真っ白な砂浜。
そして陽の光を反射してキラキラと煌めく海。
まばらに茂るヤシの木のような植物。
「ふふー。センパイ、どうですか?」
「いや驚いた。こんな南国のビーチさながらの場所があるとは」
「でしょー! 綺麗ですよね、ここ!」
「ああ。バカンスにはもってこいだな」
驚く俺に気を良くしたのか、リコッチがニコニコしている。
そうだよな。
連れてきた人間がポジティブな反応をすれば、誰だって嬉しいもんだ。
「ははは。ゲームだから日焼けしないのが残念だけどね」
「案ずるな。ダンチョーはすでに逞しい」
「そうかい? クッコロも負けてはいないさ」
「それは嬉しいな」
ダンチョーとクッコロの掛け合いは何なの?
漫才なのだろうか。
「ところで俺は水着がないんだが」
「ああ、ケンタロ。一緒に男性更衣室に行こう。レンタルできるから安心したまえ」
「そうか、助かる」
「じゃークッコロさん、私たちも着替えましょー!」
「そうだな」
移動しながらビーチを眺めると、俺たちの他にもそこそこプレイヤーがいる。
ご丁寧にライフセイバーまでいる。あれはNPCだろうか。
でも何で人の背丈くらいあるバトルアックス背負ってるの? お前それで何する気なの?
「さあ、ケンタロ。ここで水着をレンタルしたまえ」
更衣室に着くと、何というか自販機に似たボックスが置いてあった。
どうやら金を払って水着を借りられるようだ。
ただし男性用はあまり種類はない。
うーむ・・・。無難にトランクスタイプの水着でいいか。
それから上着としてTシャツだな。
ダンチョーあたりと違って、肉体美を誇れるほど俺は自分のボディに自信はない。
俺がパネルを操作して水着を選択すると、”すぐに装備しますか?”とメッセージが出る。
”はい”をタッチすると、俺がいつも着ている布の服がシュッと消えて、代わりにTシャツとトランクスタイプの水着が装着された。
便利だ。
だがこれ、別に更衣室なんていらないんじゃないか?
まあその場でシュッと着替えるのも風情がないから、気分的なものかもしれん。
「やあケンタロ、なかなか似合ってるじゃないか」
更衣室から出てきたダンチョーは、ブーメランパンツ一丁だった。
おい、それ以前のイベントでペンタくんゴールドバッジと交換するラインナップで見たぞ。
そんなもんと交換する奴がいるとは思わなかった。
「どうだい?」
ムキッとポーズを取るダンチョー。
ボディビルダーのような巨大なムキムキ筋肉ではなく、鍛えてスラリと絞り込んだ肉体美を誇っている。
体脂肪率が凄まじく低そうだ。
「美しい筋肉だ」
「ははは。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「やはりジムに?」
「毎日通っているよ」
そうかすごいな。
俺にはとてもできない。
「せんぱあーい! ダンチョー!」
元の場所に戻ると、リコッチがぴょこぴょこと手を振っていた。
隣にはクッコロもいる。
「あの・・・どうですかっ?」
リコッチがやや緊張した面持ちで尋ねてくる。
俺はリコッチの水着を観察する。
淡色のビキニに薄いひらひらのレースが付いており、可愛らしさと色気を同居させたデザインになっている。
とはいえ過度な色気ではなく、どちらかというと可愛らしさを意識した設計なので、リコッチのキャラによく合っている。
そもそもリコッチはスタイルがいいからな。
「あー・・・その、率直に言うが」
「はい!」
「似合っている。可愛い」
リコッチは俺の言葉を聞いて、まず顔を赤くし、それから拳を小さくぶんぶんと振って嬉しそうにしている。
だが本当に似合っているし、可愛いのだ。
これもあれだよな、ペンタくんゴールドバッジと交換する水着だったはずだ。
「しかし・・・クッコロのそれは何だ?」
「ん? おかしいか?」
「いや、おかしくはないが・・・」
何で紺色の競泳水着なの?
いや色はともかく何で競泳なの?
上背があってスタイルもいいからかっこいいけど、ここビーチだよ?
「前にガチャを回したらこれが出たから、それ以来水着はこれなんだ」
「そうか・・・」
まあいいか。
本人も満足そうにしているし。
「そうだな。クッコロも似合っている。格好いいぞ」
「ん・・・そ、そうか」
もじもじと照れるクッコロ。
まあかっこいいことは間違いないしな。
ビーチだから違和感があるだけで。
俺はもう一度リコッチを見る。
視線に気づいたリコッチは、ちょっと恥ずかしそうに笑う。
俺は次に周囲をぐるりと見る。
周りのプレイヤーがちらちらと俺たち(主にリコッチ)を見ては鼻の下を伸ばしている。
わからんでもない。
贔屓目に見ても水着のリコッチは飛び抜けて可愛い。
だがその後に必ず、殺意がこもった目を俺を見るのをやめろ。
まあしかし。
俺はもうおっさんだが、こういう青春じみたワンシーンも悪くはないなと思った。




