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39.狙撃手と理子ちゃんの話

「その・・・センパイ」


もじもじしながら切り出す理子ちゃん。

頬がうっすらと染まっている。

これは・・・。


「センパイ、うちのギルドに入りませんか?」

「・・・何だって?」

「だから、ギルドです」


・・・。

・・・。

・・・。


「何の脈絡もなくゲームの話に入るな」

「えー、そんな呆れた顔しないでくださいよう」

「そもそもそんな溜める話じゃないだろう」

「だってセンパイ、めっちゃソロプレイヤーだから誘いにくくって・・・」


まあ、そうか。

ソロが好きだとわかっている人間を誘うのは、多少勇気がいるのかもしれん。

俺は安堵の息をついた。


「答えはわかっていると思うが、俺はギルドには」

「あっ、待ってください! 何もずっとってわけじゃないんです」

「・・・どういうことだ?」

「センパイ、ギルド戦って知ってます?」

「ギルド戦?」


そういえば、俺をPKギルドに誘ってきたあの短剣少年も言っていたな。

ギルド戦というシステムがあるらしい。


「名前からしてギルドとギルドが戦うのか?」

「ですよー」


理子ちゃんの説明によると、こういうことらしい。

週に一度、ギルドとギルドが戦うイベントがあり、勝つとアイテムやギルド育成ポイントなどがもらえるようだ。

負けてももらえないわけではないが、当然ながら勝ったほうが旨味が大きい。


しかし巨大ギルドと弱小ギルドが戦うことになっては目も当てられない。

そのためギルドの規模や勝率によって、それなりに同程度の戦力のギルド同士で戦えるよう調整されているそうだ。


そして俺はあくまで一時的な助っ人として、理子ちゃんのギルドに入ってほしいと。


「ギルド戦についてはわかった。しかし」

「何でいきなりセンパイを誘うか、ですか?」

「ああ」


俺は先日のイベントでランキングに載りこそしたが、別に熟練のプレイヤーというわけじゃあない。

というよりギルド戦に関しては全くの素人だ。

加えて言うならパーティプレイに不向きなスナイパーライフル。

正直、足を引っ張る可能性のほうが高そうだ。


「えっとですねー。私の考えなんですけど、センパイがいれば勝率が上がりそうなんです」

「・・・そうかあ?」

「まー聞いてください」


理子ちゃんはフルーツタルトをもぐもぐして、「んー」と舌鼓を打つ。

そして言葉を続ける。


「ギルド戦はもうみんな何十回と経験してて、戦略っていうか進め方のセオリーみたいのが攻略サイトで出回ってるんです」


まあそりゃそうだろう。

どう進めれば有利になるか、ある程度のパターンはすでに出来上がっているはずだ。

どんなゲームでもそうだ。


「率直に言って、センパイくらいの遠距離から正確に狙撃を決められるプレイヤーを私は知りません」

「・・・そうなのか?」

「そうなんです」

「まさかライフル使いが俺以外に存在しないなんてことは」

「さすがにそれはないですけど、センパイくらいライフルで通用してるプレイヤーはいないと思います」


・・・そうだったのか。

スナイパーライフルの使い手が珍しいのは知っていたが、まさかそれほどとは。

やってみると楽しいんだがなあ、ライフル。


「だからですね、どのギルドも敵にスナイパーライフルの使い手がいることを想定してません」

「なるほどな・・・。ちなみにギルド戦って、どういう進め方が主流なんだ?」

「えっと、ギルド戦って基本的には、相手の陣地にあるメインクリスタルを破壊したほうの勝ちなんですけど」


戦いのフィールドは森林だったり草原だったり、はたまた山岳だったりと週によって異なるらしい。

どこであっても互いに本陣があり、そこにあるメインクリスタルを破壊したほうが勝利を得るそうだ。


ただしそこ以外にもいくつかサブクリスタル(長いのでサブ石と呼ばれているらしい)があり、サブ石を破壊するとメイン石の防御力が大幅に減る。

だから戦略としては、自分たちのサブ石を守りつつ、敵のサブ石に攻撃を仕掛ける。

それを繰り返して、最後にメイン石に総攻撃を行うそうだ。

というよりいきなりメイン石を攻撃しても、カチカチに固くてほとんど削れないとのことだ。


「つまり攻撃隊と守備隊に分かれるということか」

「最後の総攻撃まではそうですねえ。で、ここからが本題なんですけど」


理子ちゃんが言うには、どのフィールドにも狙撃に有利な地点があり、基本的にそこには射程の長い弓使いを配置する。

この弓使いたちが厄介なのだが、スナイパーライフルは更に射程が長いので一方的に彼らを撃破できるそうだ。

ちなみに魔術師のスキルは、弓よりも更に射程が短い。


「そう! センパイなら敵の弓使いを一方的にキルできるんで、味方の近接職たちが敵の射撃に苦しまなくて済むんです!」


目をキラキラさせながら身を乗り出してくる理子ちゃん。

俺はギルド戦を経験したことがないからわからんが、どうやらこれは画期的なことらしい。


まあしかし理屈はわかる。

昔の戦争の歴史を紐解いても、射程の長さとは常に有利さの象徴だった。

だから人間は弓を発明し、銃を発明したのだ。


「だが理子ちゃん、俺はパーティプレイはできんぞ」

「敵の狙撃班を落としてくれればいいんで、ソロで動いてくれて大丈夫ですよー」


ふーむ、それならいいか。

せっかくギルド戦という遊び方があるのだから、経験しないのは損だ。

一時的な助っ人ならさしたる問題もないだろう。

俺は別に宗教上の理由でギルドに加入できないとかではないのだし。


「せんぱいっ、お願いします! うちのギルド、脳筋ばっかりで弓使いが少ないのが弱点なんですっ」


正義執行!と叫びながら敵陣に突撃していくマッチョ集団が思い浮かんだ。

・・・なるほど、だから敵に弓使いが多いと苦しいのか。

合点がいった。


「いいだろう。そういうことなら助っ人で参加させてくれ」

「わあい! センパイありがとう!」


俺の手を取ってぶんぶんと振る理子ちゃん。

よっぽど嬉しかったらしい。

まあ理子ちゃんのようなヘビーゲーマーは、わりと勝ち負けに拘るタイプが多いからなあ。

いや俺も負けるよりは勝つほうが好きに決まっているが。


「じゃー来週の週末です! 夜なんでご飯は済ませといてくださいね」

「ああ、わかった」

「はー、よかったあ」


理子ちゃんは安心したように背もたれに寄りかかる。

俺としても世話になっている理子ちゃんの助けになれるなら、悪い話ではない。


「ふふー、来週が楽しみだなあ」

「そんなに勝ちたいのか?」

「それもありますけど、センパイと共闘できるのが嬉しいんですよー」


理子ちゃんはそう言って屈託なく笑った。

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