158.狙撃手とケイオスドラゴンの激戦
ゴッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ケイオスドラゴンの初撃はブレスだった。
一瞬にして数百のプレイヤーが消滅する。
「ひいいいいい!」
「ぎゃあああああ!」
「何だあれはああああ!」
あちこちで阿鼻叫喚の悲鳴が上がる。
無理もない。
30mを超える巨体から吐き出されるブレスは、見た目通りに範囲が広かった。
そして高いタフネスを誇るタンク職ですら一撃即死。
悲鳴の一つも上げたくなるだろう。
しかしドラゴンのブレスは連打できない。
それはあらゆるゲームにおける普遍的な常識だ。
もちろん百戦錬磨のプレイヤーたちはそれを理解しており、ブレスが終わった直後の隙だらけのドラゴンに次々と飛びかかっていく。
「背中は鱗が厚い! 腹を狙え!」
「腹だ! 一斉攻撃だ!」
「うおおおおお!」
「やっちまえ!」
ベテランプレイヤーが指揮官じみた声を張り上げ、ドラゴンに立ち向かう勇者たちがその見上げるような巨体に殺到していく。
腹を狙えと言われたが、プレイヤーの数が多すぎるので結局全方位から攻撃を加えている。
プレイヤーの攻撃は巨大なドラゴンにとっては微々たるもので、一撃一撃は蚊ほどの威力もない。
だがそれも万が集まれば馬鹿にできず、僅かずつではあるがドラゴンのHPゲージが削られていく。
無論ドラゴンも蚊どもの攻撃を棒立ちで眺めているわけではない。
巨大な爪を振り下ろすたびに数十のプレイヤーが挽き肉へと変わり、太い尾を振り回しては愚かな人間どもの肉片を派手に散らしている。
そしてドラゴンが、ぐぐっとのけぞって腹を膨らませる。
見ればわかる、ブレスの前兆だ。
「ブレス来るぞ!」
「魔法使い隊、前へ!」
「バリア展開!」
「うおおおおお!」
何重もの光り輝くバリアが展開される様は、幻想的な光景とさえ言えた。
だが無意味だ。
ゴッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
鉄さえ溶かす圧倒的な熱量を前にしては、魔法使いが持てる力の全てを注ぎ込んだバリアなど、ティッシュペーパーほどの役割しか果たさなかった。
「うわあああ! 無理だあああ!」
「バリアは意味ねえ! 避けるしかねえ!」
「散開! 散開しろっ!」
「範囲が広すぎる!!」
どうやらレイドボスのブレスはいかな百戦錬磨のプレイヤーたちといえど、対策のしようがない類の攻撃らしい。
さもありなん。
万を超える大量のプレイヤーが相手だ、運営とてここは手抜きのできない場所だろう。
間違いなく初日の最終決戦は今この瞬間だ。
それがわかっているから勇者たちも一歩も退かない。
果敢なゾンビアタックで雲霞のごとく巨大なドラゴンに挑み続けている。
俺?
もちろん万の勇者対ケイオスドラゴンの激戦を、ただ黙って眺めているわけではない。
空を飛んで始まりの街に侵入を試みているワイバーンを、次々に撃ち落としているのだ。
目の前のドラゴンが存在感ありすぎて、取り巻きのワイバーンの存在を忘れているプレイヤーが多いからな・・・。
こういうときは遠距離職がフォローしてやらねばなるまい。
視野の広い他の弓職や魔法使いも、ワイバーンを相手にしてくれているしな。
ターン。
あっ、手が滑ってドラゴンに群がるプレイヤーの後頭部を撃ち抜いてしまった。
まあ一人くらい誤差だよな?
ターン。
あっ、またプレイヤーの後頭部に風穴を開けてしまった。
てへぺろ。
まあ人間誰しも過ちはあるから仕方ないよな。
「おっさんわざとやってんだろ!」
ズバアア!
俺は目ざといプレイヤーに首を刎ねられて死んだ。
******
そんなわけで俺は主にワイバーンを撃ち落とし、たまにうっかりミスでそのへんの勇者の頭に穴を開け、たまにPKKの外道どもに切り刻まれながら、順調に成果を上げていた。
肝心のケイオスドラゴンはというと、その巨体を活かしていよいよ正門まで迫り、その硬い門に攻撃を加え始めていた。
万の勇者たちは後がなくなり、もはや必死の形相でドラゴンの巨体に攻撃を浴びせかけている。
ドスン!
ドラゴンの鋭い爪が正門を揺らす。
ドスン!
ドラゴンの太い尾が、正門をミシミシと軋ませる。
その攻撃に巻き込まれた不運な勇者たちがまとめて消滅する。
とはいえ万のプレイヤーからの集中砲火を浴びているのだ。
さしものレイドボスとはいえ無傷とはいかない。
そのHPゲージはすでに3分の1を切っており、討伐が手の届くところに来てからはプレイヤーたちの士気がどんどん高まっている。
「いけるぞ! もう少しだ!」
「攻撃を集中しろ!」
「門が半壊してるぞ! 抜かせるな!」
「死守しろ! 死守しろおお!」
指揮官を担っているプレイヤーは声も枯れよとばかりに指示を張り上げ、それに呼応して勇者たちが渾身の力を振り絞る。
ドラゴンが苦悶の咆哮を上げ、広範囲にブレスを撒き散らす。
そして正門がついに全壊した頃には、ケイオスドラゴンのHPゲージはもう10分の1ほどしか残っておらず、トドメは目前となっていた。
こうなると――俺もそうだが、皆が狙っていることが一つある。
そう。
レイドボスのラストアタックだ。




